表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/26

第10章 春の会議と十二支の王たち

挿絵(By みてみん)



あの日から2ヶ月が経った。明日から20日間、春の十二支会議が開かれる。


「十二支会議」は、ツヴェルフェト12州の各王が首都ディモイゼに集い、国政、州政の問題を議論、採決する会議。

5月に「春の十二支会議」が20日間、10月に「秋の十二支会議」が20日間開かれる。


この期間、各州の王とその一行は、首都ディモイゼの別邸に起居し、街では、華やかな「十二支祭」が毎日催される。

ディモイゼでは、各地から多くの観光客が訪れるこの期間が、大晦日(シルヴェスタ)よりも重要なのだ。

私も、上京したときに初めて見た「十二支祭」の規模に圧倒されたものだ。

大神殿も、この会議の準備で大わらわという状況である。


**********************************


しかし…シリウスの再生(リザレクション)計画は、というより、

シリウスと私の間は、この喧騒とはほど遠く、奇妙に静まり返っていた。


あの日…シリウスと二人で大神殿に帰った後、

私は、シリウスのために、再生(リザレクション)計画を進めようと改めて心に誓った。

例えば、一般的な人に存在する感情を研究して一覧表にし、一つ一つ「再生策(リザレクションプラン)」を提案したり…


その「再生策(リザレクションプラン)」一つ一つが、シリウスと永遠に離れる道標でも、

急に終わりが訪れるより、まだ耐えられる。

再生(リザレクション)計画を成功させ、彼を支えたという実感が得られれば、

同じ別離でも、遥かに幸せだと思えた。


でも、全く成功しなかった。

妙な距離感が生まれ、

近づくことはできず、

それでも会えば嬉しくて、

私は毎日しょんぼりと暮らしていた。


******************

十二支会議開会の当日。


謁見の間に十二支の王たちが参集し、シリウスに挨拶をする。

私は、その様子を控えの間から覗いていたのだが、圧巻としか言いようがない。

高貴な人々の様式美もさることながら、圧倒的なオーラのシリウスが、むず痒いほどまばゆくて…


…シリウスばかりを見つめるうちに、気付けば儀式は終わっていた。


と、すぐに私が呼ばれた。

これから、謁見の間で、十二支の王たちに挨拶をすることになっているのだ。


居並ぶ十二支の王たちを前に、心臓が口から出そうだったが、

ふと、シリウスのアクアマリンの瞳が、真っすぐに私を見ていることに気付いた。

私の心にパッと火がともり、その後は落ち着いて挨拶を行った。


********************


部屋に戻り、窓から大神殿の慌ただしいざわめきを眺めていると、

突然ステファニー様がやって来て、私を連れ出した。

早く早くと急き立てられて、わけも分からないままついていくと…


重厚な扉が開いて、廊下に光が広がった。

なんと、扉の向こうの豪華な部屋で十二支の王たちがくつろいでいる。


ステファニー様が言った。


「皆様、この方がリヒト・ネコミヤ様です。」


私は慌てて礼をし、十二支の王たちも優雅に礼を返す。

と、静けさはそこまでだった。


「貴女にお会いしたかったの!」

「こんな素敵なレディが我々の救世主とは…」

「シリウス様との初対面、ぜひ見たかったものです。」


あっという間に十二支の王に取り囲まれ、もうどうしてよいか分からず、赤くなったり青くなったり……


「みなさん、そんなに近づいたら引っ掛かれちゃうよ?

その子、野蛮な猫族(フェリス)なんだから…しかもさ、まだ完璧に調教されてないんでしょ?」


冷たい言葉に、胸がキンと痛んだ。

声の方を見ると、包帯で顔中グルグル巻きにした異様な姿の小柄な少年が、足を組んでソファに収まっている。

先ほどの謁見の間にはいなかったのでは…?


しかし、瞬時に静かな声が空気を破った。


「リヒトさんは知的で優しい人だ。ユーリ様でも聞き捨てならない。」


コツ…コツ…部屋の奥からシリウスが、ユーリ様に…神兎(しんと)クローリク州の王ユーリ・トモナリ様に近づいた。


「おっと…まさかシリウス様、彼女に惚れちゃった?」


シリウスがピタリとユーリ様の面前で立ち止まると、ユーリ様も立ち上がった。


「彼女に謝罪を。」


「近づいちゃ危ないのは本当でしょ?

ねえ、大王様、首元を見せてくださいよ。

『知的で優しい』猫族(フェリス)の噛み跡があるはずだ。」


「それも考慮に入れた計画でしょう。」


二人の周りの空気が揺れ始めた。

身震いして他の十二支の王を振り返ると…なんと、期待に溢れた表情で見守っている。


と次の瞬間、シリウスが襟元を力任せに引きちぎり、私の噛み跡をバッと広げて見せた。


「これは、名誉の傷跡だ。」


「くっ…」という唸り声が聞こえて、

「あっはっはっ!!!」と大笑いする人がいる。


その人……神虎(しんこ)ティグリス州の王ファリス・キトラ様は拍手しながら、


「いや、最高だ!やっぱり最高だよ、シリウス様!!」


と涙を流さないばかりに笑い始めた。


「ファリス、もう笑っていいのかい?俺も我慢の限界なんだ…ハッハッ!!!」


近くにいた男性も、ファリス様の肩に手をかけて、二人して笑い出す。

これは神猿(しんえん)スクリーチ州の王アダム・サハシ様。


ファリス様は50代、アダム様は30代と聞いているが、正装が映える大きく逞しい体と品格、

百戦錬磨の色気と余裕でむせ返りそうな殿方たちだ。


そんな中、スラリと背の高い人物がツカツカとユーリに近づき、あごをつまんで思い切り引き上げる。


「坊や、オイタが過ぎるとお仕置きですよ?」


「痛い痛い、むちゃくちゃ痛い!もうお仕置きしてる!」


……穏やかで落ち着き払った雰囲気がかえって迫力がある、黒髪の、怖いほどの美形の男性。

神羊(しんよう)コルデール州の王オスカー・ヨウ様だ。


「…オイタはシリウス様の方でしょう!

僕らは彼女のことをよく知らないんだ。

怒る前に、シリウス様がきちんと説明したらどうですか?」


と急に刃をシリウスに向けたのは、緑がかった金髪の少年…。


トゲのある言葉とは正反対の、童話の絵本から抜け出してきたような、気品溢れる正統派王子…

…この方が、神竜リントヴルム州の王。

つまり、マリア様の双子の兄上フレドリック・リュウザキ様だ。


「もう!!!やめなさい!!!本当に子供なんだから!!!」


もう我慢ならないというように声を上げたのは、私とそれほど変わらない年の少女…

神犬(しんけん)ペンブローク州の王クロエ・イヌカイ様。

子犬のように可愛らしい方だ。


しかし、とうとう場の雰囲気に耐え切れなくなった私が「もう失礼します…」と口にすると…


「神路開門…神通力【猪突猛進】」


振り向くと…片手を額中央の少し右にある刻印「١٢」に触れ、もう片方で印を結んだステファニー様が、ズズズと巨大化している!


「私がリヒトさんをここに連れてきたのですが、不満なんですね?」


声まで太く変質している。

腰を抜かして倒れ込んだ私を、誰かが支える。


ステファニー様の巨大化は止まらず、その辺りの飾りだの皿だのが破壊される。

アッと叫んで頭を抱えたが、何かが私を覆った。


「ほら、坊や、『ごめんなさい』しな?」アダム様の声。


「土下座じゃ足りませんね?」オスカー様の声と同時にドンと音がする。


「痛い!痛い!足でッ…頭、ふ、踏むな!!!」もちろんユーリ様。


「坊主、いたいのいたいの飛んでけ、してやろうか?ヨモギの葉がいいぜぇ?」ファリス様。


「あのう、皆さん、もうそろそろですね…」まともな声は神鶏(しんけい)コルリ州の王レン・ハトリ様。


「私に文句があるのね?」


ゴシャッ!バリーン!

机だのシャンデリアだのが破裂する音。


私の頭上でため息が聞こえた…シリウスだ。

チラリと見上げると、シリウスが私をマントで覆っている。


神亥(しんい)ステファニー!」


鋭い声でシリウスが呼び掛けると…

…みるみるうちにステファニー様が元に戻っていった。

これが神鼠(しんそ)の神通力無効化の力…

地響きや風が収まっていくが…部屋は惨憺たる有様だ。


あまりの迫力に、私はまだ膝がガクガクと震えている。


「怪我はないですか。」

「う、うん…大…丈夫…。」


優しい声音にハッとしてシリウスを見ると、彼の顔が数ヶ所切れて血が出ている。

私をかばっていたから、怪我をしたのだ。


…しかし、私のための、そのシリウスの血が、彼に対する憎悪と食欲を足元から湧き立たせ…


気づけば、私はシリウスに飛びついて押し倒していた。

シリウスは、瞬きもせずに私を見ている。

まるで待ち望んでいたかのように。


その瞳が、私に最後の自我を取り戻させた。


私は勢いよく跳ね上がって窓を突き破ると、テラスから飛び降り、遠く遠くへ、ただ走った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ