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私が、奪われていく  作者: 麻路なぎ


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1/3

1 人が死んだ

 街の雑踏は、いつだって私に孤独を感じさせる。

 週の始まり、月曜日。

 日はとうに暮れて、冷たい風が吹く、十月の終わりの月曜日。

 私、浅木リコは塾からの帰り道をスマホ片手にとぼとぼと歩いていた。

 駅前は、会社帰りらしい人たちが多く行き交っている。

 家電量販店にある大型テレビジョンから聞き覚えのある音楽が聞こえてきて、私は思わず立ち止まった。


「あ……シュヴァイツェル」


 ふたりの男性アイドルが歌うミュージックビデオだ。

 活動二十年。私が生まれる前から活躍しているアイドルたち。

 もともと五人だったけど、いろいろあって今はふたりだけになっていて、今週の日曜日には解散ライブが行われる。

 私が肩から下げてるトートバッグには、彼らのライブグッズであるアクリルキーホルダーがぶら下がっていた。

 シュヴァイツェルは私の推しアイドルだ。

 子供の頃から好きで、昔は踊りを真似してテレビの前で踊ったりもした。

 ありがたいことに、ライブはリアルタイムで配信してくれるそうで、お母さんに頼み込んで配信チケットを買ってもらった。

 もちろんお金は私が出した。

 日曜日の六時半からのライブ。

 ずっと楽しみで、リビングのテレビで見ると家族に宣言してある。

 その日のためにペンライトを用意したし、うちわも用意した。


「ねー、ユキエ、ライブ見に行くんだよねー」


 そんな声が聞こえてきて、私はそちらへと思わず目を向けた。

 会社帰りのお姉さんたちかな?

 黒髪の人と茶髪の人が、大型テレビジョンを見上げている。


「そうそう。ファンクラブ最速で当たったからねー。初アリーナ席だしすっごく楽しみなんだー」


 て、黒髪のお姉さんがニコニコ顔で言う。


「超ラッキーじゃん? なのに変な男につきまとわれて大変だね」


 そう茶髪の人が言うと、黒髪のお姉さんは苦笑した。


「ねー、ほんとだよ。奥田君みたいな人ならいいのに」


 なんて話してる。

 いいな、ライブいけて。

 でも何万ってお金はさすがに払えないし、帰り遅くなっちゃうから高校生にはきついのよね。


「あれ……?」


 女の人たちの向こう側、なんか男の人がいるのに気が付いた。

 スーツ姿の、普通の人みたいだけど、なんかじっと女の人たちを見てる。

 なんか嫌だな……

 そう思ってテレビに目を向けようとした時だった。

 どさり、と何かが倒れる音がした。

 驚いて目を向けると、黒髪の人が倒れてる。

 そして、笑うスーツ姿の若い男性。

 なにがあったのか認識するまで時間がかかった。

 男の人は、黒髪の女性にまたがると手を振り上げて包丁をその人にむけて落とした。


「キャー!」


 悲鳴が響く。

 駆け寄る人、逃げる人で駅前は騒然となる。

 私は怖くてじっと、その様子を見つめてた。

 足が鉛みたいに重くて動かないんだもの。

 女の人がこちらを見てる。

 なにか言いたげに、じっと私を見つめてる。


「ひっ……」


 口をパクパクさせたかと思うと、女性は目を開けたままがくり、と動かなくなってしまった。


「おい、救急車!」


「あはははははは!」


 通りすがりの人たちが、男の人を取り押さえてる。

 駅前だからすぐに警察がやってきて、男に手錠をかけていた。


「はぁ……はぁ……」


 はやくにげないと。

 そう思うのに全然身体が動かない。

 黒髪の女の人はこちらをじっと見てる。

 もうきっと生きていない。私でもわかる。

 逃げる人たちと入れ替わるように、やじ馬たちが私の周りに集まってくる。


「うそ……死んでるの?」


「刺された?」


「まじかよ……」


「やばい、あいつ笑ってる」


 人々が、スマホを向けて動画や写真を撮り始める。

 まるで、遠い世界の出来事のように。たくさんの人たちがスマホを取り出して、犯人を、被害者を映してる。

 そんな騒ぎの中私はひとり、がたがたと震えていた。

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