殿下とお散歩です
リリアーナとクライヴは今、庭園にいる。引き籠ってばかりいるクライヴの身体を心配したリリアーナが一緒に散歩しないかと誘ったのだ。あの日、二人で街に出掛けた後、マイラから実に数ヶ月ぶりの外出だったと聞いたのだ。街はおろか庭園にすら出ないらしい。そのため、てっきり断られるかと思っていたのだが、意外にもすんなりと誘いを受けてもらえたのだ。
「庭園にはよく来るのか?」
「はい。このお庭はとっても素敵ですわ。色とりどりのお花がとても美しくて」
うっとりと眺める。ほとんどパーティーに参加しないリリアーナはこのような美しい庭を見たことがなかったのだ。どこを見ても綺麗な花が咲き誇っており、辺りには花々の良い香りが漂っている。
リリアーナが心からそう思っていることが伝わって来て、クライヴは頬を緩めた。
「こんなに素晴らしい光景を毎日見られるなんて幸せです」
クライヴはふわりとした笑顔で語るその様に惹きつけられ、目を離すことが出来なかった。
「殿下? どうかされましたか?」
じっと見られていることに気づき、きょとんとした顔をして尋ねる。
「あっ、いや、なんでもない」
クライヴは彼女の声にはっとして、慌てて誤魔化した。
「俺は見慣れてしまっていたが、確かに色とりどりの花が咲き誇っていて良い景色だな、これは」
「ええっ、とっても素敵です」
「それにしても日に当たるのは久しぶりだ。たまには外に出るのも良いものだな」
「ええ、そう思いますわ。部屋に閉じ籠もってばかりいては、気分が滅入ってしまいますもの」
「そうだな」
クライヴは、リリアーナとは自然と話せている自分がいることに気が付いた。そして、この心が躍る感覚はいつぶりだろうか、などと考えていた。
「今更だが君は俺が怖くはないのか?」
「怖くなどありませんわ」
リリアーナは迷わず答えた。クライヴはその返事に安堵し嬉しく思う一方で、困惑した。
「どうして……」
「どうしてと言われましても、特に何も怖がるようなことされていませんし。クライヴ様はいつもお優しいですから」
「優しい? 俺がか? 皆には怖がられて避けられているのに」
「それはよく分かりませんが、私は怖いとは思いませんわ」
いつも私のことを気にかけてくださる本当にお優しい方。だからこそ、少し不安になる。私がこんな素敵な方の隣にいてもいいのだろうか、と。
「周りの人を大切にされている優しくて、素敵な方だと思いますよ」
「っそうか」
クライヴは口元を隠すように手の甲を当てそっぽを向いて、一言だけ発した。表情は確認出来なかったが、彼の耳は赤く染まっていた。
「リ、リリアーナさえ良かったら、またともに散歩してくれないか?」
「!! 是非ご一緒させてください」
「ありがとう」
クライヴは笑みを溢した。
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「またクライヴ様とお散歩することになったの」
部屋に戻るなり、マイラに伝える。
「良かったですね、奥様」
「ええっ」
リリアーナは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「本当に微笑ましいです」
「そ、そう?」
「はい。とてもお似合いです」
「お似合い……そうかしら? マイラはそう言ってくれるけれど、私は貧乏伯爵家の娘だし、全然釣り合いがとれていないわ。クライヴ様にはもっと相応しい方がいらっしゃったはずよ」
「えぇ〜、奥様以上の方なんていませんよ。それに、有力貴族のご令嬢には断られたとお聞きしていますよ」
「どうしてかしらね。あんなに素敵な方なのに。お噂が嘘だってことぐらい私でもすぐに分かったわ」
リリアーナは首を傾げる。
「でもだからこそ、私がクライヴ様と結婚できたわけだから、ある意味感謝しないといけないわ。クライヴ様からしたら災難だけれど……」
「まあ奥様が気にされることではありませんし、殿下とのデート楽しんでくださいねっ」
マイラは目を輝かせて言う。
デートではないのだけど。
そう思いつつも、次の機会を心から楽しみにしていた。




