殿下からの視線
パーティーが無事に終了し、日常へと戻ったのだが、どうもクライヴの様子が変なのだ。今朝、ピアノを弾いていたときも、図書室で本を読んでいたときも、そして今気分転換に庭園に出ているときも、ずっとリリアーナはこちらをじっと隠れて見ている視線があることに気づいていた。
いきなりどうされたのかしら?
だからといって振り向いたら、慌てて身を隠される。
お顔も何もかも丸見えなのだけれどね……。
昨日まで普通だったと思うのだけど。
思い当たることが全くなく、困惑していた。
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一方、クライヴは前日のパーティーの影響か、隣にリリアーナがいないと寂しいと感じるようになっており、なんとかして傍にいれないものかとこっそり後をつけながら模索していた。
昨日は腕を組んで、隣を歩いていたというのに。パーティーは苦手だが、そうやって傍にいられるのならいいのかもしれない。
俺は一体どうすればいいんだ!?
そうして、頭を抱えては可憐なリリアーナの姿を見て癒されるということを繰り返していた。
ふいに、リリアーナがクライヴの方へと振り返り、クライヴは慌てて木の陰に隠れた。しばらくすると、彼女がまた花々を愛でている姿が目に映った。
ほっ、バレてないな。良かった。
思いっきりバレていたが、それにクライヴが気づくことはなかった。
この場では自然と手を繋いで、花を愛でるのが最善だろう。そう、自然とだ。
「あ、あー、奇遇だな。こんなところで会うなんて」
「えっ。ええ、奇遇ですね」
彼女は一瞬驚いた顔をしていた。それをいきなりで驚かせてしまったか、とクライヴは誤った解釈をしていた。実際はそこにいることには初めから気づかれていたので、ついに声を掛けてこられたというところに対してである。
「よし、折角だから二人で花でも愛でようか。うん、それがいい」
なぜか棒読みになってしまった。
「え? えっと、綺麗なものは皆で分かち合いたいですからね」
困惑していたようだが、そう笑顔で言ってくれた。
「て、手を繋ぎたいなー、なんて……」
ちらちらとリリアーナの姿を見ながら告げた声音は、恥ずかしさからか上擦ってしまった。
「ふふふっ」
そんなクライヴを見て、リリアーナは笑みをこぼした。
「ええっ、ぜひっ」
決して自然にとはいかなかったが、無事に手を繋げたクライヴは満足そうに笑った。
だができることなら彼女をぎゅっと抱き締めたい。手は繋げたわけだから、その次の段階に。
心の奥ではそう思っていても
手を繋ぐだけでもこっ恥ずかしいのにっ。お、俺達にはまだ早い。それに、そういうことは想いが通じ合ってからするべきなのでは!?
とてもじゃないが行動には移せない。
結局は言い訳を探して逃げているだけなのでは、とも思えてくる。……リリーのこととなるといつも一歩が踏み出せなくなる。
「この景色、お父様にも見せてあげたいわ」
「……お父上は花が好きなのか?」
「ええ、お父様が育てたお花がよく食卓に飾られていましたから」
それを聞いて思い出した。種を蒔き、水をあげ、一から育てていた姿を。
「そうだな、いつか招待しよう」
「えっ!? そういうつもりではなかったのですがっ」
リリアーナは慌てた様子で言う。
「いや、俺がそうしたいだけだ」
伯爵とも一度きちんと話をしないといけないと思っていた。過去のことも含めて。
「義理とはいえ、俺の義父上でもあるわけだからな。夫婦になったのに、まだ挨拶もできていないだろう」
「クライヴ様にそんな風に呼ばれたら、お父様泡を吹いて倒れてしまいますわ」
「それは困るな。大切な家族なのに」
「家族……」
クライヴの言葉にリリアーナは目を丸くする。
「そうだ。あの日、リリーが俺のことを家族だって言ってくれて嬉しかったんだ。俺たちはあくまで王命での結婚だったから。そう思っていてくれたんだって」
「イヴ……」
「俺にとってはリリーの家族も皆俺の大切な家族だ」
「そう言っていただけてなんだか嬉しいです」
リリアーナは笑みを溢した。




