殿下との初ダンス
「リリアーナさん、ダンスの流れは覚えていらっしゃるのかしら?」
「は、はい。本を読んで勉強しました」
「そう。それなら音楽に合わせて踊ってみましょうか」
今回ナターシャが男性パートを務める。リリアーナは一曲、今までの知識を元に踊りきった。
「もっと胸を張って堂々としていなさい。下を向いていれば自信がないものと見なされるわ。堂々としていればね、多少間違えてもそういうものだと思わせられるのだから」
踊り終わった途端、指摘される。
確かに、ナターシャは常に背筋をぴんと張っていて、堂々としていた。一方、リリアーナは間違えたらどうしよう、と下を向いてしまっていた。
さ、さすがナターシャ様だわ。ものすごく説得力がある!!
「そうですね。ナターシャ様の仰る通り、堂々とイヴのお隣に立てるようにしなくてはっ」
「ふふっ、クライヴ殿下がこんなに素敵な方とご結婚なさるなんて。……あの人の妨害の甲斐があったのかしらね」
「え?」
「いいえ、なんでもないわ。さあ、続きを始めましょう」
「はい!!」
そうして、毎日練習をし続けて、数日が経過した。
「大分、上達したわね」
「ナターシャ様のご指導のおかげです」
「あら、貴方の筋が良いからよ。さて、ここからはご協力いただきますわよ、クライヴ殿下」
「えっ、イヴ!?」
「気づいていたのか」
驚きの表情でクライヴは言う。
「わたくし、勘が良いのですわ。リリアーナさんのことが気になって、毎日来られていたでしょう?」
「なっ!?」「えっ!?」
クライヴとリリアーナの言葉が重なった。ナターシャの指摘にクライヴの耳は赤くなっていた。
「な、何もここで言わなくても……」
クライヴは動揺して、小さな声で言う。
「あらあら、仲のよろしいことで何よりですわ」
ナターシャはどこか楽しそうに言う。
「さて、ここからはお二人で踊っていただきます」
「なに!?」
本番で踊ることしか想定していなかったクライヴは驚いて大きな声を出してしまった。
「当日踊るのはわたくしとではありませんもの」
「……分かった。では一曲お願いできるか?」
「はい、お任せください」
そうしてリリアーナはクライヴの手を取って、踊り始めた。しかし、曲が始まってすぐにナターシャによって止められてしまった。
「お待ちなさいっ!! どうしてそんなにぎこちないんですの!? もっとリラックスなさい」
カチコチとした動きに見ていられなくなったナターシャが叫んだ。
「申し訳ありませんっ!!」
兄であるライモンド以外とダンスを踊ったことはなかったリリアーナは緊張のあまり、練習通りの動きが出来ていないと感じていた。
しかし、リリアーナの謝罪にナターシャは首を横に振った。
「いいえ、リリアーナさんは悪くありませんわ。問題はクライヴ殿下です」
ナターシャははっきり告げる。
「クライヴ殿下の方が経験値が高いですし、引っ張って差し上げないといけませんのよ!?」
「い、いや、そう言われてもだな。近すぎないか」
クライヴは先日初めて手を繋いだばかりなのに、とリリアーナと同様に緊張が拭えなかった。
「ダンスですもの。当然よ」
クライヴは緊張のあまり、すでにくたくたになっていた。
「こ、こんなに疲れるもの、だったか?」
息を切らしながらクライヴは言う。
「気を張りすぎなのよ。肩の力を抜くことね。ダンス自体は踊れるのでしょう?」
「それは問題ない」
「でしたら二人での練習を続けますわよ」
「わ、分かった……」
それから、何十回も途中で止められ続け、ようやく一曲を踊り終えることが出来るようになった頃には日はとっくに沈んでいた。




