ダンス講師
「奥様、こちらが届きましたよ」
「えっ!?」
何か頼んだかしら、と疑問に思いつつ箱を開けると吸い込まれそうなほど綺麗な青色のドレスが入っていた。
この色、イヴの瞳の色みたいですごく綺麗……。
「きっとパーティー用のドレスですね。こんなに煌びやかなのは初めて見ました。凄いですっ」
確かにパーティーに参加することにはなったけれど、こんな凄いのが届くなんて。これ一着で屋敷が買えてしまいそうだわ。
それに
「前にたくさん頂いたのに!?」
「普段用とパーティー用はまた別ですからね」
「と、とにかくイヴのところに行かないと」
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「届いたのか、良かった。気に入ってもらえたか?」
「ほ、本当に私が良いんですか?」
慌ててリリアーナは尋ねる。
「当然だ。リリーに似合うと思って選んだのだが、どうだ?」
「とても素敵です。ありがとうございます」
リリアーナはそう言ってはにかむ。
「束ぬことを伺いますが、殿下ご自身のご衣装はあるのですか?」
傍で会話を聞いていたイザックが疑問に思い尋ねる。
「…………忘れてたな。屋敷にはないか」
「ありませんね。普段参加されないのにあるはずがないと思いますが」
「それもそうか……。イザック、良さそうなものを頼んでおいてくれ」
「承知いたしました。それとこれもお忘れかもしれませんが、ダンスは踊れるのですか?」
「っそういえばそんなものもあったな。リリーは踊れるのか?」
「幼い頃にお母様から教えてもらった記憶はあるのですが、最近は全く……」
パーティーに参加したこと自体、数えるほどしかなく、なおかつ、身分の低いリリアーナに注目が集まることもなかったので、大きなミスさえしなければ大丈夫という感覚だった。しかし、今ではそういうわけにもいかない。
「イヴはダンスはお得意なのですか?」
「いや、得意というわけではないが、一応は踊れるはずだ。もう何年も前にはなるが、デビュタントに備えて兄上とたくさん練習したからな」
「懐かしいですね」
「あれ? 練習ってダンス講師の方とされるのではないのですか?」
ふと疑問に思って尋ねる。
「ああー、いや、それがな。初めはダンス講師を呼ぶ予定だったんだ。だけどこの国の優秀な講師って皆女性だろう?」
「ええ、そうですね」
ダンス講師に男性がいないわけではないが、優秀な講師となると、他国はともかくこの国には女性しかいないのだ。
「……俺が女性と楽しく踊るのを見たくなかったらしい。それで、兄上が自分で教えるって」
「えっ!?」
本当に仲が良い。というか、ブラコンなだけかしら?
でもそれなら、
「わ、私は大丈夫でしょうか?」
「え?」
「その……女性はダメなのですよね?」
「あっ、いやっ、そんなことはないっ!!」
クライヴは慌てて否定する。
「兄上は俺の嫌がることはしないから」
「えっと?」
「お、俺はリリーと踊りたい……から……」
尻すぼみに小さくなる声で彼は言う。
「ふふっ、一緒に踊りましょうね」
「ああっ」
嬉しそうに返事をされて、リリアーナまでもが嬉しくなった。
「そ、そうだ、マイラは踊れるか?」
イザックとマイラに、にこにこと見守られていることに気づいたクライヴは話題を変えるように言った。
「言っておきますけど、私がお教えするのは無理ですよ? ダンスの流れは覚えてますけど、妃殿下になんてとんでもない」
「つまり外部講師が必要ということか」
「しかし、この時期は難しいと思いますよ」
「どういうことだ?」
「すでに優秀な先生方はデビュタントを迎える方々からの予約でいっぱいでしょうから」
「それもそうか……こうなったら彼女に頼んでみるか」
「彼女?」
誰のことかしら?
リリアーナは首を傾げた。
そして、やって来たのはナターシャだった。
「ナターシャ様? お久しぶりです。どうしてこちらに?」
「お伝えしていませんのね」
「ああ、まだだ」
「リリアーナさんのダンス講師をさせて頂くことになりましたの」
「えっ!?」
ナターシャの言葉に驚きの声を上げる。
まさか、ナターシャ様にお教えいただけるなんて。
「しかし、本当に引き受けてくれるとは驚いたな」
「シエルのところにいうより、有意義な時間を過ごせそうだと判断しましたわ」
「兄上には伝えたのか?」
「いいえ。遠くに住んでいる親戚の家に遊びに行くとだけ。いつもの意趣返しですわ」
そう言って彼女はにっこりと笑った。
意趣返し――それは普段クライヴの話を永遠と聞かされることに対してである。
「ははっ、さすがナターシャか。兄上相手でも容赦がない」
ナターシャは実に珍しいタイプの女性だと改めてクライヴは思った。
「では早速お教えいたしますわ」
「ああ、頼んだ」
「よろしくお願いいたします」
ナターシャ様からお教えいただける以上完璧にマスターしなくては、とリリアーナは気合いを入れた。




