殿下からのお誘い
ちょうどピアノを一曲弾き終わった頃に、クライヴがリリアーナの元へとやって来た。
「あら? イヴ、どうしました?」
「聴きそびれた……」
クライヴは沈んだ表情で呟いた。
「え?」
そういえば、前に私のピアノを聴きたいって仰っていたような。
「もう一曲弾きましょうか」
「いいのか?」
クライヴはぱっと顔を上げる。
「はい」
リリアーナの返事を聞いたクライヴは笑みを浮かべた。その笑顔に釣られて、リリアーナも思わず笑顔になった。
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「素晴らしい演奏だった」
一曲弾き終わると、クライヴは笑顔で言う。
「ありがとうございます。言ってくだされば、いつでも演奏しますよ」
「ああ。次が楽しみだ」
クライヴは嬉しそうに笑顔を見せた。
これだけで喜んでくださるのなら、いくらでも弾きたくなるわ。
「そういえば私に何かご用があったのでは?」
「ん? ああ、そうだったな。久しぶりに散歩しないか? 見せたいものがあるんだ」
そう言われ、クライヴについていった先には、綺麗な花畑が広がっていた。
「これってスイートピーですか!? それも全部っ!!」
驚いて辺りを見回す。少し前まで、このような場所はなかったはずだ。
「ああ、取り寄せたんだ。リリーが好きだと言っていたからな」
色とりどりのスイートピーがとても美しく、咲き誇っている。
!!イヴに好きなお花を聞かれて私。ただの軽いお話しだと思っていたのに。
「覚えていてくださったのですね」
心が震えるのを感じた。
「もちろんリリーのことだからな。ちゃんと覚えている。これはリリーにぴったりの花だな」
「え?」
リリアーナは首を傾げる。
「柔らかい雰囲気がして、リリーにぴったりだ」
クライヴはそう言って、微笑んだ。
そうなのかしら?
自分ではよく分からなかったが、クライヴの温かい視線に胸が熱くなるのを感じた。
「イヴ、ありがとうございます。とっても素敵ですね」
「喜んでもらえたなら良かった」
「庭師さんが植えてくださったのですか?」
「いや、俺が植えたんだ」
「へ? イ、イヴがですか!?」
「ああ、そうだ。そんなに驚くことか?」
あっさりとクライヴは言う。
もちろん、驚きますよっ。
「てっきり他の方にお任せしているのかと思っていましたもの」
「リリーへのお礼の気持ちを込めてのプレゼントだからな。自分でやりたかったんだ」
実は、この準備はクライヴがリリアーナからクッキーを貰ったあの日から始まっていた。王都には花の名所というものがあり、それが女性に人気だと知り、これを計画したのだ。花屋に行けば花は売っているのだが、苗が見つからず、時間を要してしまった。
「なんだか、逆に申し訳ないような気が……」
王族であるイヴにこんなこと。
「俺が喜んでほしくてしたことだから気にしないでくれ。素直に受け取ってくれると嬉しい」
「はい。素敵なプレゼントをありがとうございます」
リリアーナは満面の笑みで答えた。
「っ!!」
息を呑むような声が目の前から聞こえた。
「イヴ?」
「……な、なんでもない」
そう言いつつ、クライヴはリリアーナのあまりの笑顔の眩さに目を合わせることが出来ずに、視線を彷徨わせていた。




