殿下は世間話をご所望です
「奥様、クライヴ殿下が来られてますっ」
ノック音が聞こえ、様子を見に行ったマイラが驚き気味の様子で言う。
「えっ!?」
これにはリリアーナも驚いた。今までは食事の時間以外は基本偶然会うぐらいで、クライヴが自らリリアーナの部屋まで会いに来たのは初めてである。その中でも数度は自身に会いに来たのだろうと、クライヴの様子から察してはいた。ちなみに、リリアーナは他の機会は偶然だと思っているが、ほとんど偶然ではない。リリアーナの居場所を知ったクライヴが、彼女を一目見たくてわざわざ会いに行っているのである。
「イヴ、どうされました? 何かあったのですか?」
「いや、少し世間話を、だな」
お忙しいはずの方がなぜ?
とリリアーナの頭の中には疑問が渦巻いていた。
「どうぞ」
そう言って中に入るよう促したが、なぜか躊躇して入ろうとはしない。
「イヴ?」
「そ、そうだっ、ここではあれだし、他の場所で話そう。なっ」
クライヴはなぜか慌てた様子で言う。
「え? ……分かりました」
今日の殿下は少し変だわ。
結局、初日に案内された客室で向かい合って話をすることになった。
「好きな色は?」
「ピンクです」
「好きな動物は?」
「犬でも猫でも、なんでも好きですよ」
「好きな花は?」
「スイートピーです」
クライヴがひたすら質問を繰り返して、リリアーナが答える。先程からずっとその繰り返しだ。
クライヴ様は一体、どうされたのかしら?
一方、クライヴはこれは果たして会話というのだろうか。一方的に質問しているだけなのでは、と途中で疑問に思った。会話の意外な難しさに、昔は何を話していたのかなどと考えていた。
「……隣に座ってもいいか?」
リリアーナともっと近い距離にいたいと感じたクライヴは尋ねた。
「えっ!?」
突然のその言葉に驚いて声が出てしまった。
「ダメか?」
信用されていないのだと勘違いしたクライヴはしゅんとした表情を浮かべている。
「いっ、いえ、どうぞ」
そう言った途端、嬉しそうな笑顔に変わる。
「!!ああっ」
クライヴの笑顔の眩さに直視出来なくなったリリアーナは思わず目を背ける。
クライヴはリリアーナの隣に移動した。
「……やはり、ここは落ち着くな」
「え?」
「リリーの隣は居心地が良い」
そんな風に言われたのは産まれて初めて……。
胸にじわっと温かいものが広がるのを感じた。
「え、えっと、嬉しいです」
リリアーナは嬉しそうにはにかんだ。
「っつ!!」
その表情にクライヴは冷静さを保てなくなってしまい、このままではまずいと感じ、慌てた様子で立ち上がった。動揺のあまり、机の脚に足を引っ掛けてこけそうになっていた。なんとか体勢を立て直すと、彼は慌ただしく、部屋を出て行った。
結局、なんだったのかしら?
その場に取り残されたリリアーナは訳が分からず、首を傾げた。




