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悪虐王子と王命婚することになりまして〜“関わるな”と言われた翌日に溺愛が始まりました〜  作者: 星月りあ


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記憶の欠片

「久しぶりに“あれ”しないか?」

「“あれ”?」

「ああ。魔術戦だ」


ライモンドの提案にクライヴは目を見開く。

魔術戦とは、その名の通り魔術のみを使用した模擬戦だ。他には、剣術のみの剣術戦、魔術と剣術両方で戦う魔剣戦がある。クライヴもライモンドも魔術を得意とする魔術師のため、必然的に彼らの模擬戦は魔術戦となっていた。


「あの頃はよくやってたな」

「ああ、久しぶりにどうだ? そういや、最近は魔法は全く使ってないのか?」

「いや、ここは近くに森があるから魔物も多い。遠隔で魔物を倒したりはしている」

「だったら戦えるってことだな」

ライモンドは楽しそうに言う。


「それなりにはな」

クライヴも釣られて笑みを浮かべる。


「じゃあ、行くぞ」

「ああ」

ライ相手のときだけは俺も本気を出せた。そして、その時間は俺にとってかけがえのないものだった。二人は外に出て戦う姿勢を取る。審判はイザックが勤める。


そのとき、ちょうどリリアーナは二人の姿を上から見ることができる位置にいた。そこから気になって様子をじっと見ていた。




**********


「では始め!!」

イザックがそう告げると2人同時に魔術を発動する。ライモンドは王国魔術師団の団員であり、高ランクの魔物を一撃で倒せるほど強い。そんなライモンドの攻撃をクライヴは容易く避け、攻撃を返す。


「凄いわ」

激しく魔法がぶつかり合う様を見て、リリアーナは感嘆の声を漏らす。


リリアーナとマイラは戦いの行方を固唾を呑んで見守る。そのとき、視界の隅にある木陰が動いた気がした。その木陰をじっと見つめる。


誰もいない……。気の所為かしら。


それにしてもお兄様もイヴも楽しそう。

ふと頭の中にライモンドと小さな男の子が魔術戦をしている映像がよぎった。


あれ? これって昔の記憶? お兄様と……小さい男の子はもしかしてイヴなの? でもこれ以上は思い出せないわ。


「お嬢様? どうされました?」

「私、昔クライヴ様に似た子に会った気がして」

「え? 殿下からは特にお聞きしていませんけど、パーティーとかでですか?」

「いいえ? 違うと思うわ」

「もしかして殿下と奥様って運命の相手だったりして」

わくわくした表情でマイラは言う。


「まさかっ。私とイヴが、なんてあり得ないわ」

「ええー」


興奮気味のマイラには悪いけれど、立場も違いすぎるものね。それにもしかしたら私の勘違いかもしれない。でも髪色といい、クライヴ殿下によく似てたのよね。やっぱり他は何も思い出せない。どうして忘れちゃったのかしら。




「勝者クライヴ殿下!!」

イザックが大きな声で告げる。


「あっ、終わったみたいですよ」

「そうね。あんなにお強いなんて思わなかったわ」

勝負を見終えたリリアーナとマリーは部屋に戻って行った。




**********


「ははっ、さすがだな。強いままだ。あの頃よりも断然強くなってる」

「当然だ。成長するにつれ、力は増すからな」

「はぁ〜、俺だってイヴに勝てるように練習してたのにな……。次は絶対勝つ」

「ああ、楽しみにしてる」

クライヴがそう返すと、2人で笑い合った。


久しぶりだったが、思いっきりやるのは楽しいな。良い気分転換にもなった。




「じゃっ、俺は帰るな」

「ああ。……お前には感謝してる」

「なんだよ。改まって」

ライモンドは照れたように言う。


「いや、別に……。!!リリー」

リリアーナの姿に気づいたクライヴは笑みを浮かべ、声を上げて、駆け寄った。その様子を見ていたライモンドはまるで昔の光景を見ているかのようだと懐かしさを覚えた。


「イヴ、お強かったのですね」

「ま、まあな」

リリアーナに褒められたことが嬉しく、照れて、ついつんとした態度を取ってしまった。


「……ところでそこで何をしている」

クライヴがどこかに向かって声を掛ける。すると、先程リリアーナが違和感を感じた木陰を含め、複数箇所から人が現れた。


「いや〜、素晴らしい戦いでしたよ」

「ええ、殿下お相手にあそこまで戦える方がいらっしゃるとは思いませんでした」


そのときリリアーナは彼らの服を見て、あることに気が付いた。

「もしかして、騎士団の方ですか?」

そう。彼らの服装は騎士団長が着ていたものとは若干異なっているが酷似していたのだ。


「ええ、そうですとも。奥様にお会い出来て光栄ですよ」

「俺もっすよ。殿下、会わせてくれないんだから」

「くっ……」

まさかの形で対面を果たすこととなり、クライヴは悔しそうに顔を歪める。


「どんな人と結婚されたのか気になってましたけど、優しそうな人じゃないですか」

リリアーナは彼らが気さくな人々だと分かり、安堵の表情を見せる。


「と、当然だ。リリーだからな。それよりも訓練はどうした。さっさと戻れ」

「ええ〜、もう少しぐらいいいじゃないですか」

「《《駄目だ》》。俺が本気で訓練をつけてやろうか?」

「えっ!? いっ、いえっ、それは結構ですっ」

クライヴとは力量に差がありすぎて勝負にならないのだ。慌てて団員たちは下がっていった。その姿を見て、クライヴは苦笑いを浮かべる。


「そういえばお兄様はもうお帰りに?」

「ああ、仕事があるからな」

「お兄さんだったんすね。お兄さんって何の仕事されてるんすか?」

「王宮魔術師団の団員ですわ」

「!!へぇ〜、あれだけお強いなら納得っすね」

「せ、折角ですし、俺戦わせて頂けないですかね」

会話を聞いていた団員がそれぞれ声を上げる。


「俺も戦いたいっす」

「こんな機会でもないと相手してもらえないですし、少しだけでもいいので」

「と言ってるが、どうする?」

「そうですね。構いませんよ。少しだけなら」


そして、名乗りを上げた5人の騎士との1対5の勝負だったのだが、結果瞬殺だった。あっという間に倒され、騎士の男たちは呆然としている。


「凄い……」

呟く声があちこちから聞こえる。


「ほぉ~、実に見事ですな」

「セドリック」

どこから見ていたのか団長であるセドリックまで現れた。


「これは私も是非ともお相手して頂きたいところですが、今は止めておきましょう」

セドリックが周囲の様子を見ながら言う。




そして、ライモンドがいよいよ王宮へと戻る時間となった。元々、無理矢理休みを作り、こちらに来た以上、そう長くは滞在する余裕がなかったのだ。


もっとゆっくりと話したかったが、こればかりは仕方がない。


「クライヴ殿下、妹を頼みます」

「ああ」

「リリー、また来るからな」

ライモンドはリリアーナの頭をゆっくり撫でる。


「はいっ、お兄様」


ライモンドは馬に跨って、帰って行った。

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