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悪虐王子と王命婚することになりまして〜“関わるな”と言われた翌日に溺愛が始まりました〜  作者: 星月りあ


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12/21

リリアーナの兄、来訪

その日、窓から見知った人の姿を見つけたリリアーナは慌てて外に向かった。


「お兄様っ!!」

「おっ、リリー!! 久しぶりだな。元気にしてたか?」

彼はリリアーナの兄ライモンドである。


「はい、お兄様こそお元気ですか?」

「ああ。しっかし、結婚のことホント急に知らされたからな、驚いたよ」

「お兄様もご存知なかったのですね」

ライモンドは王宮で騎士として働いているため、何か知っているのではないかと思っていたのだが、違ったようだ。


「ああ、全くな」

そう言って彼は肩を竦める。


そのとき、クライヴがリリアーナたちの方に向かって歩いてきた。その姿を見たライモンドが一礼する。


「イヴ、私の兄です」

そうリリアーナはライモンドを紹介する。


「ライモンド・フィリアと申します。妹がお世話になっております」

「あ、ああ……」

クライヴは気の抜けた返事をする。


「イヴ? どうかしましたか?」

「あっ、いや、なんでもない」

「殿下、少しお話しがあるのですがよろしいでしょうか?」

「……分かった」

「リリー、また後で話そうな」

ライモンドがそう言うと、二人は屋敷へと入っていった。




**********


「久しぶりだな、ライモンド」


会うのは数年ぶりか。


彼は俺の友人だった男だ。まさかこんなにも早く再会することになるとは思ってもみなかった。


「ええ、お久しぶりにございます」

「……」

ライモンドに敬語で話されたこと自体一度もなかった。


立場もあるだろうがこれは……

「怒っているのか?」

「……ええ、それはもう」

ライモンドは笑顔で言う。


「っ頼むから普通に話してくれっ!!」

この笑顔、怖すぎる……。


「……分かった。なら聞くが、お前、どうして今まで連絡して来なかったんだ?」


もう何年も前のこと、クライヴは王宮を抜け出してはリリアーナとライモンドに会いに、フィリア伯爵領にこっそりお邪魔していたのだ。しかし、()()()を境に足が遠ざかっていた。そして、それからは会って話しをすることも、手紙を送ることも一度もなかった。だから、こうして会話をするのは実に五年ぶりなのだ。


「い、色々と俺も忙しかったんだ」

思わず目を泳がせてしまう。


「色々と、なぁ。……まあいい、そういうことにしておく」

そうは言ったもののライモンドにも誤魔化しなど通用せず、もちろん嘘であることはバレていた。言いたくないのだろうと察しこれ以上追求することをしなかった。


「それと俺は今でもお前のことを友人だと思っているからな」

クライヴの心情を図ったかのように言う。


「っああ。……ライ」

ライモンドともう友人として接することなどできないと思っていたクライヴは、彼の言葉に驚きつつも、どこか嬉しそうに返事をした。


「それで何か俺に話があるのか?」

「なかったら来たらダメなのか?」

「別にダメではないが……。俺は想定外に公爵となったわけだが、お前は今何をしているんだ?」

まだ伯爵家を継いだという話は聞いていない。となると実家で父親の手伝いでもしているのだろうか。


「騎士として王宮で働いてる」

「なに!?」

これには思わず、大きな声を出してしまう。


全く知らなかった。成人する前には王宮を出ていたから当然といえばそうなんだが。


「どこの所属なんだ?」

一口に騎士団といっても、戦闘を主とする部隊、武器を開発する部隊など中身は色々だ。


「第二騎士団だな」

「第二というと兄上の騎士か」

第一は国王の、第二は第一王子の所有する騎士団でそれぞれの主の指示でのみ動く、精鋭が集う騎士団だ。王族は他家に婿入りしない限り、成人すれば騎士団がそれぞれ与えられる。一番総数が多いのはリーツェンベルク騎士団だ。国の名を冠するこの騎士団は民を守るのが主な役割となっている。ちなみに、シュテイン公爵領のシュバルツ騎士団はクライヴの所有騎士団という扱いになっている。とはいえ、基本指示を与えることはないわけだが。


「ああ。だが、少し妙だと思わないか?」

「妙? 何がだ?」

「いや、だってフィリア伯爵家自体は中立派だが、俺はシエル殿下の騎士なわけだから、第一王子派だと捉えられるのが普通だ。それなのに、第二王子と俺の妹が結婚とはな」

「…………」

「イヴ? どうした、考え込んで」

「いや、その中立派とか、第一王子派って何のことだ?」

「次期国王の支持派閥のことに決まって……ってお前知らなかったのかよ!!」

ライモンドはこれには思わず鋭く突っ込んだ。


「ああ、初めて聞いた」

まさかそんなものがあったとは……。


「マジかよ」

「支持派閥も何も、俺はてっきり次期国王は兄上に決まったものだとばかり」

「言っておくが、お前はその気でもまだ正式に発表されてないからな」

「そうだったのか……」

心底驚いている友人に、ライモンドは呆れ交じりの瞳を向ける。


「それで、フィリア伯爵家は中立、お前は第一王子派なんだな?」

「いや、俺自身はどっちかっていうと、第二王子派に近いかもな」

クライヴはその言葉に目を瞬く。


「第一王子派か中立派だと思ったが、違うのか? っていうか第二王子派って」

「ああ、イヴが国王を目指すなら支持するって感じだな。俺個人としては別にお前に国王になってほしいなんて思わないし、第二王子派っていうのは変かもしれないが」

「そんなこと今更望まれても困る。王位など興味ないしな」

「ははっ、お前らしいな」

そう言って、ライモンドは笑った。


「……この結婚まさかすごい裏があるとか言わないだろうな?」

クライヴは心底嫌そうな顔をする。彼はややこしいことになど巻き込まれたくはないのだ。


「さあな、陛下のお考えは俺には全く分からないからなんとも言えないな」


それにしても……

「初めて聞いたな、第二王子派。俺の王位を望む者がいたとは」

「隠れて存在するっていう噂は聞いたことあるけどな。噂レベルだし実在するかすら分からない」


存在したとしても表立って悪評高い俺の支持なんてしようものなら非難されるだろうし、だからか。


「そういや、この屋敷、人が随分少ないみたいだが」

「ああ、少ないというか、この屋敷の使用人は3人だけだ」

「えっ、嘘だろ!? さっきは偶々出会わなかったとかじゃなくてか!?」

「ああ。他はいないぞ。今は最低限の人数の使用人が働いているだけだ」

「こんな大きな屋敷にそれだけしかいないとはな」

ライモンドは、てっきり今は出払っているだけかと思っていたのだ。クライヴの言葉に目を丸くし、初日にそれを聞いたときのリリアーナと同じような表情になっている。

そこはやはり兄妹、似ているのだ。


「信頼のおける者のみにしたかったからな」

「じゃあ護衛とかもいないのか?」

「護衛など必要ない!!」

クライヴは“護衛”という単語に反応して、ついつい強い口調で返してしまった。


「イヴ?」

「……悪い」

気まずそうな顔で謝る。


「いや、別にいいが」

クライヴがこのような言葉遣いをすることは今までなかったので、ライモンドは驚きを隠せなかった。


「それよりも聞いたぞ」

微妙な空気になってしまったので、敢えて空気を変えようと、明るい声で別の話題を上げる。


「ん? 何をだ?」

何の話だか全く心当たりのなかったクライヴは首を傾げる。


「デートしたんだって?」

「なっ!? デッ!? いいい一体誰からそんなことをっ」

動揺しているクライヴを見て、ライモンドは楽しそうに笑みを浮かべている。


「リリーの侍女の、マイラだったか? 彼女からな」


デートだと嬉しそうに言うところを容易に想像出来てしまった。


「デ、デートではない。街を案内していただけだ」

「ふーん」

「な、何だよ」

「いや、相変わらず奥手だなと思ってな。認めてしまえばいいのに」

ライモンドは茶化すように言う。


「別にそんなんじゃ。これは王命によるもので。でも相手はリリーで……ううっ、俺の天使」

「……お前、何かやらかしただろ」

何となくだがそんな予感のしたライモンドは尋ねた。


「うっ……まさか彼女が来るとは思わなくて、その『俺には関わるな』って」


(ああ、そういうことか)と項垂れる友人を見て、漸く彼は合点がいった。


「で、今は仲良くやれてるのか?」

「仲は良いと思うが、初対面が最悪だったからな。なんとしても挽回しないと」

もはやリリアーナは初日のことなど全く気にしていないが、そうとは知らないクライヴは強く誓った。


「そうですね。そして、無事殿下の恋が成就するわけですね」

後ろでずっと静かに二人の会話を聞いていたイザックが告げる。


「おい、やめろ!! というか、なぜ知っている!?」

「端から見ればよく分かりますが。えっ、まさか気付かれてないとお思いで?」

「くっ……」

「ちなみに、俺も知ってたぞ」

「なっ!?」

ライモンドにまで指摘され、真っ赤になる。


「一時期とはいえ、3人で一緒に過ごしてたんだからな。それにイヴは分かりやすいからなぁ」

「っ〜〜」

声にならない声を上げる。そこでハタと思った。


「ま、まさかリリーも気づいて」

「気づいてないだろ。気づいてたらお前らの関係ももっと進んでるはずだ」

「うぐっ」

容赦のないライモンドの言葉に、クライヴは声を詰まらせる。


そんなはっきりと……遠慮が全くないっ。2人ともにバレるなら、いっそのことリリーに気づいほしかった。どうして肝心のリリーには気づいてもらえないんだ……。確かにそういう言葉を口にしたことはないし無理もないが。だからといって言うのはこっ恥ずかしいっ。くっ、世の人々はどうやってこの熱い想いを伝えているんだ!?


クライブは頭を抱えた。

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