遊び
モチベ満載!
設定がごっちゃになってると思ったので変えました。
生徒会室には、初顔合わせの緊張感も少しずつ薄れ、少しずつ“会議らしさ”が漂っていた。
土曜日の放課後、今日は午前中で授業が終わる短縮日課。昼下がりの陽が窓から差し込む中、生徒会のメンバーが丸い机を囲んで座っている。
「――というわけで、明日から“朝の挨拶運動”をスタートするってことでいい?」
南坂会長が一通りの議題をまとめ、全員の同意を取る。
「はーい!」と元気に手を挙げるのは双子の風香と優香。
臼井學は無言でうなずき、新井紗奈はメモをとりながら軽く手を挙げた。
青木実も「了解でーす」と軽く返事。古賀も小さく「うん」と言った。
「それじゃ、今日は解散だ。お疲れさん」
南坂が立ち上がると、生徒会室の空気もふっと緩む。
生徒会室を出た廊下。カバンを背負いながら、古賀はやや疲れた様子で肩を落としていた。
「うわー…挨拶運動、緊張するなぁ…」
そんな彼の背中に、勢いよく飛びついてきたのは――馬場晴人だった。
「おーい、治人! せっかくの土曜だし、みんなで遊び行こーぜ!」
「えっ……今から? いや、ちょっと疲れたし、帰って漫画読んでたいんだけど……」
「ふっふっふ……」
馬場がにやりと笑って、一言。
「夢咲さん、来るってよ?」
その瞬間、古賀の足がぴたりと止まる。
「……どこに何時集合?」
馬場が満足そうに親指を立てた。
***
待ち合わせ場所は駅前のショッピングモール。
古賀と馬場が到着すると、すでに夢咲さんがいた。春らしい柔らかい色のワンピースが、彼女の雰囲気にぴったりだった。
「……やっぱ、すげぇ……」
小声で呟く古賀の耳に、聞き慣れた声が。
「おーい、古賀君ー!」
見ると、そこには――青木実がいた。
え? と硬直する古賀に、馬場が笑いながら耳元でささやいた。
「なにって顔してるな。ほら、みんなの方が絶対楽しいって。な?」
「お前なぁ……」
「それに、実ちゃんの私服、見れるチャンスだぞ?」
その言葉に古賀は言葉を詰まらせ、そしてこっそり青木を見る。
いつもの制服とは違う、淡いピンクのパーカーにジーンズ。ほんの少しだけ、大人びて見えた。
「……ま、まぁ別に嫌じゃないけど」
そんな風にごまかしていると、夢咲さんがふわっと近づいてきた。
「治人クン、一緒にまわろ?」
「う、うん……」
***
昼食はフードコートのハンバーガーショップ。
みんなでポテトをつまみながら、軽口を飛ばし合い、古賀も少しずつ笑顔が増えていた。
「古賀君、ケチャップついてる」
「えっ、どこ?!」
「口の端……うん、そこ」
「うわっ、やだ……ありがとう」
その瞬間だけ、時間がふっとゆっくり流れた気がした。
青木がほんのり笑っていて、古賀はなんとなく視線を逸らした。
別に大したことじゃない。よくあるやり取りのはずなのに――なぜだか、心の奥が少しだけざわついた。
***
その後、みんなでゲーセンへと移動した。
休日の館内は賑やかで、ゲーム機の音と人の声が入り混じっていた。
馬場と青木は早速バスケのフリースロー対決を始め、わいわいと盛り上がっている。
古賀は少し離れた場所で、夢咲さんと二人、UFOキャッチャーを眺めていた。
「これ、可愛いよね」
夢咲さんが指差したのは、小さなぬいぐるみ。
でも、古賀はその景品よりも、彼女の横顔に視線が向いてしまっていた。
「……やってみる?」
「うん。治人クンがとってくれるなら、嬉しいな」
「う、うん……頑張る」
古賀は、内心ドキドキしながら機械に100円玉を投入した。
操作する指がやけに緊張して震える。
結果――アームは景品の手前をつかみ損ねて、空しく戻っていく。
「……あー……」
「ふふっ、でも楽しいよ?」
夢咲さんは本当に楽しそうに笑った。
その笑顔に、古賀はまたドキッとして、うまく言葉が出てこなかった。
「治人クンって、変わったよね」
「……え?」
「前より、前を向いてる気がする。今日も、こうして一緒に来てくれて、嬉しかった」
「……そんなの、俺も……その、来てよかったって思ってるし」
視線が合って、ふたりとも少しだけ黙った。
けれど、不思議と居心地は悪くなかった。
馬場と青木の笑い声が遠くで響いている。
でもここには、ちょっとだけ、別の時間が流れている気がした。
た。
――言葉にしなくても、伝わるものがある。
そんな風に思ったのは、古賀の思い上がりじゃない……かもしれない。
その後、夢咲さんが「ちょっと飲み物買ってくるね」とフードコートの方へ歩いていき、古賀はその場にぽつんと残された。
「おーい、古賀君!」
ふいに背後から青木の声がして、振り向くと、バスケゲームから戻ってきた彼女が息を切らしていた。
「まさか、こんなところでがっつり夢咲さんと二人っきりになってるとは思わなかったよ」
「い、いや、別に……そういうわけじゃ……」
「……ふーん?」
青木は、いたずらっぽく笑って肩をすくめた。
そのまま、二人で並んでベンチに腰を下ろす。
手元には青木が持っていたコインケース。カラカラと中の音が心地よく響く。
「ね、古賀君」
「ん?」
「昔より、ちゃんと顔見て話すようになったよね。私のこと」
「え……あー……そ、そう?」
「うん。悪い気しないよ」
その言葉に、古賀は一瞬何かを言いかけて――けれど、結局何も言わなかった。
代わりに、となりに座る青木との間にあった微妙な距離が、
気づけばほんの少しだけ縮まっていた。
互いに触れ合うわけでも、目を合わせ続けるわけでもない。
ただ静かに、自然に。
“なんとなく”が、ちょっとだけ特別に変わった――そんな気がした。
***
遊び疲れて帰る帰り道。
楽しかった、また行こうね――そんな約束が、自然と口に出るくらい、彼らの距離は確かに変わり始めていた。