最後の演説
「ありがとうございました!」
大きな拍手が体育館に響く。俺以外の生徒会立候補者であり、俺の友達。馬場晴人。俺の幼馴染の青木実と同じくらい人気者でクラスメイトからの信頼度は限界突破している。しかし俺は諦めない。夢咲さんが譲ってくれた枠。それを無駄には出来ない絶対に実と二人で生徒会になるんだ。体育館。春の空気はまだ少し冷たく、生徒たちは退屈そうに椅子に座っていた。壇上には無骨な演台が一つあるだけ。飾りもなければ、照明も特別なものじゃない。
ただ、マイク一本。
それだけを前に、古賀治人が静かに歩いていく。
「あの人、誰?」「あー、クラスの地味なやつじゃね?」
そんな声があちこちで囁かれる中――青木実は、最前列の端の席で、じっと彼を見つめていた。
(がんばれ、古賀君…)
マイクに向かい、彼は一度深く息を吐いた。わかる。緊張している。でも――逃げない。青木実と誓った。打ち砕かれるまでやろうと
「……僕は、古賀治人です。生徒会なりたくてに立候補しました。」
震える声。でも、消えなかった。聞こえづらくても、そこには確かな“覚悟”があった。
「特別じゃないし、すごくもない。……むしろ、ずっと隠れて生きてきました。教室の隅にいて、空気を読んで、誰の邪魔にもならないようにしてました。」
少しずつ、周囲のざわめきが静かになる。
「でもそれって、誰にも頼れない、ってことでもある。言いたいことがあっても、言えない。変えたいことがあっても、口をつぐむ。」
治人の言葉は、静かに、でもしっかりと体育館に染み渡っていく。
“分かる”と感じた生徒の胸に、静かに火を灯していく。
「だから、僕が変わらなきゃって思いました。誰かの後ろじゃなくて、自分で前に出ようって。怖いけど、それでも僕は――」
一瞬、治人が言葉を止めた。
その時、彼の視線が――こちらを向いた気がした。
「僕には、僕を信じて支えてくれるって言ってくれた友達がいます。だったら、僕も…“支えられる誰か”になりたいです。」
青木の胸が、ぎゅっと締めつけられた。
「俺は、目立たない人の声を、見えない誰かの気持ちを、拾える生徒会にしたい。…僕にできるのは、それだけです。」
――拍手が、体育館に鳴り響いた。
観客席の青木実は、まるで自分が壇上に立っているかのように胸を熱くしていた。
「やっぱり…古賀君は、すごいよ…」
誰にも気づかれないように、そっと呟いたその声は、誰よりも誇らしげだった。
ステージの上の古賀治人は、緊張と汗にまみれながらも、胸を張って言った。
「以上、生徒会候補、古賀治人でした。」
どこまでも真っ直ぐな瞳で、深く一礼したその姿に、体育館全体が静かに、そして確かに、心を打たれていた。