表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

夏祭り(前編)

夏休み――それは多くの中高生が恋を叶え、結ばれる季節……なんて夢を、つい最近まで信じていた。

でも現実はただ暑いだけで、セミすらも夏の暑さにうんざりして鳴き疲れたように、どこか静かだった。


その時、スマホが震えた。

「なぁ治人! 皆で夏祭り行くんだがどうか?!」

馬場からの連絡だ。僕は思わず眉をひそめた。


「その前に……そのグループチャット、いい加減俺も入れてくれよ! なんで僕だけいつも仲間外れなんだよ……」


すぐに返信が飛んできた。

「まぁいいだろ、そんなこと?」既読はついたまま、返事はしばらく来なかった。数分後、画面にケラケラ笑うタヌキのスタンプが一つ。

……完全にバカにされている。


でも、馬鹿暑い夏の夕暮れ、嫌とは言えない。だって夢咲さんも来るかもしれない。浴衣姿で現れることだって、ありえなくはない。そう思うと、行かない理由なんて消えてしまう。


結局、僕は重い腰を上げることにした。

「……行くか。そりゃあ、行くよ」

______________

夕暮れ時、オレンジに染まる空の下、僕は祭り会場へ向かって歩く。屋台の明かりや提灯の灯りが、どこか懐かしい匂いとともに漂ってくる。

会場に着くと、すでに馬場、青木、夢咲さんの姿があった。


「古賀くんやっほー!」

青木が元気に手を振る。


「意外と浴衣じゃないんだな」

からかい半分に青木に言う。


「いきなりだったから遅れるのもまずいかなって……」

髪をくるくるさせながら青木はそう言った。

「私もかな。」

夢咲さんも同意するように笑う。


「残念だったな? 治人」

馬場がからかってくる。


「うっさい……そういえば諸星は?」

疑問を口にすると、青木がスマホを確認して返事をする。

「もう少しで来るって。先に周ってていいよって」


「そうか……じゃあ射的でもやるか?」

馬場が自信満々に言うと、青木が煽る。

「おっ、勝負? 馬場君には流石に負けないよ〜?」


僕も思わず笑って、露店に向かって小走りする。そんな二人を見送りながら、後ろからポンと肩を叩かれた。

「治人君、これ食べる?」


振り向くと夢咲さんが立っていて、右手にはりんご飴が二つある。


「えっと、大丈夫です。なんか、申し訳ないですし……」

僕は遠慮がちに答える。


「いいから」

夢咲さんは笑いながら無理矢理、ひとつを僕に差し出す。

僕たちはその場で並んでりんご飴をかじり、甘い匂いと夕暮れの風が混ざり合う中、しばし笑い合った。

りんご飴をかじっていると、遠くから青木の声が響いた。

「よーし、次は本気出すからな! 馬場くん、覚悟しなよ!」

射的の屋台だ。


「お、治人も来いよ!」

馬場が僕を手招きしている。


「はいはい……」僕は笑って夢咲さんに

「ちょっと行ってきます」と伝え、屋台へ向かった。


射的台にはすでに景品のぬいぐるみや駄菓子が並んでいる。

「さぁ勝負だ!」

馬場が気合を入れてコルク銃を握る。青木は腕を組みながら余裕そうに笑っていた。


結局、馬場は狙いが派手に外れて大きな人形は一つも落とせず、青木はちゃっかり小さいお菓子をゲット。

「ちょっと! ルール違反じゃない?!」

と青木が抗議している横で、僕も挑戦した。

すると、意外にも僕は景品のチョコを二つ落とすことができた。


「……おぉ、やるじゃん」

馬場が悔しそうに唸る。

「古賀くん、意外と器用なんだね」

後から付いてきた夢咲さんがにこっと笑う。その笑顔に胸がちょっとだけ熱くなる。

その時、青木のスマホが鳴った。

「……あ、諸星ちゃんから。着いたって!」

まだうるさくなるのか…と僕は少し苦笑いをした。

次回の更新は木曜日です。前よりは待たされることないはずです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ