コメント未定
青木は、悩みを有名配信者「みらくる⭐︎すたー」に話そうと、そう思った。
けれど——
指先は、止まったままだった。
カーソルが画面の上で、ちかちかと点滅している。
その小さな光の明滅が、まるで心の中のためらいそのもののようだった。
言いたいことは、胸の奥にちゃんとある。
——好きな人がいて。でもその人は、きっと……違う誰かを見てる。
打ちかけたその言葉を、青木はそっと、ひとつずつ、Backspaceで消していった。
誰にも言えなかったこと。
言ったところで、何が変わるんだろうって。
“あの人”に届くわけじゃないのにって。
だから、代わりに、ちょっとだけ笑えることを打った。
「実はテストで0点取っちゃって。」
本当の悩みなんて、笑えない。
でも、心配されたり気を使われたりするのも面倒だった。
だからせめて、誰かの“心配”すら笑いに変えてしまえるような嘘を打つ。
「親にも言えなくて、なんかもう、自己嫌悪で……」
みらくる⭐︎すたーの明るい声が返ってくる。
「え〜〜っ、0点!? 単位大丈夫!?でも、打ち明けてくれてありがとう!笑っちゃったけど、ちょっとだけね!ちゃんと次がんばろうって思ってるの、伝わってきたよ〜!」
コメント欄には
「大丈夫大丈夫!」
「草。流石に」
「0点なんて漫画とかでしか見たことねぇよw」
「次は一緒に赤点脱出しよ!」
なんて、あたたかくて他愛ない言葉が流れてくる。
青木は小さく笑った。
少しだけ、肩の力が抜けた。
けれどその笑みは、どこか淋しかった。
“ほんとのこと”は、まだ言えなかった。
けど、打ち明けようとした——
その、ほんの一歩手前の自分を、自分だけは知っていた。
今日はそれで、十分だった。




