君と並んで歩くには。
放課後。
古びた旧校舎から戻った三人は、校舎の裏手を抜ける細い道を歩いていた。
「なんかさ、猫に会いに行ってるってより……伏見、誰かに会いに行ってるみたいだったよな」
馬場がふとつぶやいた。
治人は答えなかった。歩きながら、さっきの伏見の表情を思い出していた。
あれは「誰かを待っている」顔だった。猫じゃない、“誰か”を。
「気になるなら、聞けばいいじゃん」
馬場の軽い言い方に、治人は苦笑した。
「……そう簡単に聞けるかよ」
そんなやり取りをしていると、向こうから青木と諸星がやってきた。
「おつかれー。猫は?」
「いなかった」
「伏見は?」と青木が食い気味に問う。
「無事だったよ。ただ、なんか、ちょっと元気なかったかも」
青木は「ふーん」と曖昧に返すと、そのまま少し黙り込んだ。
諸星がくすっと笑う。
「ねえ、みんな。今からファミレスでも行かない?テストも近いし、ちょっとだけ勉強会ってことで」
「ナイス提案!」と馬場が手を挙げる。
治人も「……いいね」と頷き、自然と全員が並んで歩き出す。
けれど、青木だけが一歩だけ、後ろにいた。
その手は、ポケットの中でぎゅっと握られていた。
夜。
自宅で青木は机に向かっていた。
開いたままのノートには、さっきファミレスでやった問題の続きが書かれている。
だが、手は止まっていた。
スマホがふと震えた。画面に表示されたのは、**「みらくる⭐︎すたー 配信開始しました!」**という通知。
青木は一瞬、躊躇う。けれど、指先は自然とその通知をタップしていた。
画面が切り替わり、いつもの明るい声が響く。
「こんばんはー!君の奇跡の流れ星!みらくる⭐︎すたーだよー!」
まばゆい画面の中、コメント欄は瞬く間に埋まっていく。
青木はしばらく黙っていたが、ふいに、ぽつりとつぶやいた。
「……私、誰にも言えなかったこと、言ってみてもいいかな」
それは自分に向けた言葉だった
——実は誰にも言ってないこと話しても良い?
諸星真奈の画面にそんなコメントが流れてくる。
画面の向こうで、みらくる⭐︎すたーは笑顔でこう言った。
「どーなつさん!コメントありがとう!うん。話してごらん?悩みとかだったらここでは誰も笑わないよ。」
その言葉で少し、彼女の心は軽くなった。
青木はキーボードをゆっくりと叩き始めた——。




