また明日。
夕焼けが教室の窓から差し込み、ほんのりオレンジ色に染める頃。
普段は静かな放課後の教室が、今だけはちょっとしたパーティー会場だった。
机を寄せ、コンビニで買ったお菓子とジュースを囲みながら、いつもの5人とその周辺――通称“ダチョウ倶楽部”。何故そう呼ばれてるかも、分からない。
しかも特に意味はない。
「いや〜こっちの班終わらないかと思ったよ。」
夢咲がドリンク片手にイスの背にだらんともたれながら言った。
「そんなに焦ってたか?」
馬場が冷静にツッコミを入れる。
「だって〜?焦っても締切伸びないしぃ〜。人生はなるようになるんよ」
夢咲がにんまりと笑い、チュッパチャプスをくわえる。
「お前ほんと、締切30分前に“書き出しってこれで合ってる?”って聞いてきたからな……」
馬場が呆れたように肩をすくめる。
「てかさぁ、最初の班ミーティング思い出すと、今こうして集まって笑ってんのがウソみたいなんだけど」
夢咲がポテチをつまみながら言った。
「あの時のうちの班の臼井君?の冷気、ガチでエアコンより効いたから」
夢咲が冗談めかして言う。
「当然でしょ。初対面で“カエルの解剖とかどう?”と言われたら、誰でも引きます。」
馬場がさらりと言って、諸星が膝を抱えて座り込む。
「うう……。でもインパクト狙いとしては間違ってなかっただろ?」
「自分の班も遊園地とか言ってたやつ、ホントにレポート班か疑問だったし」
諸星が窓際から呟く。
「そーゆーこと言うぅ〜?その人に失礼でしょ。……っていうか、諸星も最初クッソ冷たかったらしいじゃん」
治人が笑いながら言う。
「アンタにだけな」
「なにその限定仕様!?」
周囲から笑いが漏れた。
「でも、ちゃんと提出できたってだけで偉いよな。俺の班も最初、“日常生活と化学反応”って言われても、正直ピンとこなかったし」
治人がぽつりとこぼす。
「あーそか。治人君の班そんなテーマだったね。コーヒー案出したの遥香ちゃん?だったよね?」
夢咲が微笑みかける。
「「うん。朝飲んだら目覚めるし、カフェインが覚醒に関係あるのかなって思って。」って言ってた。」
「その発想から一気にテーマまとまったんだよね。“コーヒーと覚醒”で決まった時、ちょっと感動したもん」
治人が続きけて語る。
「俺の班の巴って奴が“爆発させよう”って言ってなかったら、まとまってなかった説あるよな」
治人が笑いながら言うと、青木がジト目で治人を見つめる。
「それ、あの子に渡された!残ってます」
「出た、巴のスマホ録音ファイル!なんで持ってんの!?」
青木が音声を再生すると、
【「バンッ!火薬とかいいんじゃね?」】【「……火薬は危険物です」】
教室中に爆笑が広がった。
「やば、マジでこの班のレポート進行、ドラマにできるって」
夢咲がポテチをつまみながら言う。
「いやむしろ喜劇じゃね?」
青木がツッコむ。
「でもさ」
ふいに治人が口を開く。
「新しい出会いができて良かったな、って……素直に思ってるよ。和葉も、俺も、遥香も、巴も、拓馬も。いろいろあったけど、結果すげー楽しかった」
少しの沈黙のあと、
「……キモ」
諸星が言う。
「なんで俺にだけそんな辛辣!?」
治人が盛大に崩れ落ち、また教室中に笑い声が響いた。
諸星が、ほんの一瞬だけ口元を緩めたのを、治人はしっかり見逃さなかった。
【打ち上げの余韻と──】
もう辺りは暗くなり、街灯が治人達を包む。
全員で笑い合いながら、ひとまずこの戦いは「終わった」と誰もが思っていた。
──けれど。
角を曲がった、少し先の歩道。暗がりに立つシルエットが一つ。
すれ違いざまに、その人物はふとこちらを見た。
長い影を引きながら、ぽつりと呟く。
「……馬場、パイセン……?」
低く、若干かすれた声が、ひとりの影から聞こえた。
次の瞬間、姿は見えなくなっていた。
「誰? 今の」
夢咲が首を傾げる。
「気のせいじゃね?」
馬場はそう言ったが、その目だけは笑っていなかった。




