カラオケと5人と
放課後。校門を出てすぐのコンビニ前。
いつもの四人、そして一人の少女がいた。
「よし、行こっか。今日は勉強のついでに発散するぞー!」
馬場晴人の声が、夕焼け空に響く。
「カラオケって……勉強できるのそんなとこで?勉強にしてもそんなテンションで行く?」
治人は呆れたように笑いながらも、どこか楽しげだ。
「私はテンション高いのも低いのも歓迎だよ〜」
夢咲杏奈が缶ジュースをストローでくるくる回しながら言う。
「いや〜カラオケってさぁ個室だし、ドリンクも飲めちゃうし、スナックも食べれる!ついでに歌って勉強で募ったストレス発散できるし、しかも学割使えるから安い!」
「全く…」
そして少し離れて、青木実は横目で──一人の少女を見ていた。
諸星真奈。
ショートボブに黒髪、星のヘアピン。伏し目がちなまなざし。そばかす。
青木にとってはただのクラスメイトではない。
彼女は、人気配信者「みらくる⭐︎すたー」──その“中の人”だ。
しかも、既に正体を本人から明かされている。
それでも青木の心は、会うたびにざわついてしまう。
(なんで今日、来てくれたんだろ……)
「……青木さん、行かないの?」
ふいに真奈が声をかけてきた。
「えっ? あ、ううん、行くよ。もちろん!」
どぎまぎと笑い返しながら、青木は歩き出した。
(落ち着け……ただのカラオケ。推しと一緒とか気にしたら負け!)
「推しが一緒にカラオケにいる」なんて、青木にとっては夢のようなシチュエーションだ。だが、それを冷静に楽しめる自信はなかった。
***
カラオケ店パステルボイスにて。
時刻は15:30。カラオケ店は本原高校最寄駅の南麓桜駅駅から
徒歩5分。
「えっと、この高校生グールプパックで」
「はい。それでは皆様方の学生証の提示を…」
馬場が会計を済まして、広い個室に案内された。
「うわ〜広い!とりまポテト選んどか!後ドリンクバーも!」
夢咲は興奮している。
「言っておくがご飯とかは自腹だからな?」
「はいはい。」
「それじゃあ俺トップバッター!」
「よっ!馬場。」
良い曲なのだが、本人のデスボも相まってとても鈍い低音が響く。
「俺の!暑い!ハートが!!」
とてつもなくうるさい歌声が響く。
「ちょっと誰か耳栓!」
治人がギブを出そうとした瞬間。
「お待たせいたしました。ポテト爆盛りです。」
ポテトが届く。思わず空気が少し気まずくなる。しかし馬場は歌うのをやめない。
「えーっとこれは誰が頼んだの?」
「あっ…私です…」
「あー!諸星ちゃんね?!それにしても大きいの頼んだね。食べ切れる ?」
「あっはい。」
そんな会話もしている間も、青木は諸星のことをちらほら見ている。やはり気になるのであろう。
「ねぇ次私歌って良い?」
「良いよ!」
「ありがとう。夢咲さん。」
青木はとても綺麗な歌声でみんなを釘付けにした。
「あぁ上手い!」
「じゃあ次。」
「その次私!」
盛り上がっているが諸星真奈は置いてけぼりだ。彼女は居心地が悪くなり、適当にやっていた。しかし
「ねぇ真奈さん!次歌ってよ!」
夢咲がフっかけてくる
「えぇでも…」
「私見たい!真奈ちゃんが歌ってるところ!」
「俺も!」
「どうせ、次諸星さんだったし…」
「本当にいいの?」
「うん!」
諸星がマイクを握る。
彼女達は、自分達の世界に住んでいた。
うん?何か本当の目的を忘れているような…?




