ただのプリン
放課後、生徒会室。
机に置いてあった南坂会長の“名前付きのプリン”を巡って事件が起こった。
「……私のプリンがない」
静かに冷蔵庫の前で佇む南坂会長。
その手には、【“かずはの”】と書かれたメモが残された空のプリン容器。
「えっ、あれって会長のだったの!?」
風香が手を口にあてて、ふざけたポーズ。
「ふざけてるな。おそらく君が食べたのだろう?」
「えっ、いや、まさかそんな!なんであたしが会長のプリンなんか……おいしそうだったから食べたんだろうけど!」
「やはり犯人か」
「違うってば!あれはただ机の上にひとりで寂しそうにしてたからつい……!」
「私も寂しかったが?」
「それは知らん!」
沈黙――
「弁償するから許して、ね?ね?」
「私は怒ってなどいない。だが、代わりのプリンはいただこう」
「ほっ、優しい!さすが会長!」
「ただし、最高級の“あの”プリンだ」
「……“あの”?」
南坂がカバンからスマホを取り出し、某高級スイーツ店のサイトを見せる。
「これだ。通販限定。抽選販売」
「出たあぁぁああああ!」
「これで許そう」
「なにこのプリンに人生かけてるみたいな顔やめて!?あたしそんな高級プリン食べたことないよ!?てかプリンのくせに抽選てなに!?」
「ちなみに今週はもう締切だ」
「じゃあ許してよ!!」
「そんなんだったら同じの買えばいい!」
「おなじの…?」
「あれは世界で一つだけのプリンだ!」
「ただの市販のプリンじゃん!」
「食ったお前が悪い!」
「んじゃあ私が作ったの!これで良い?世界で一つだけ!」
「…しょうがない」
「マジ神!会長!」
その後、風香はしぶしぶ南坂のために、手作りプリンを作るはめに。
「ギリギリだぞ」
「ごめんって!」
会長はもはや飲み物のように爆速で食べる。
「えっ食べるのはや…」
「……意外とうまかった。君にしては」
「今『君にしては』って言った!? そこ削ってよ会長!」
「ではもう一つ頼もう。名前も書いて」
「はいはい…ってもしかして完全に飼い慣らされてる?」
「お前が悪い。」
「ぐぬぬ…」
「ほかの生徒会メンバーにも聞いてみろ。満場一致でお前が悪いと言うぞ」
「何も言い返せないよ…」




