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始まり

二年生が始まって数日が経過した。新学期の空気に包まれながら、古賀治人はいつも通り教室の席についた。だが彼の意識は黒板でも教科書でもなかった。教室の中心にいる、まるで絵画のような存在──夢咲杏奈ゆめさき あんなに釘付けになっていた。


夢咲は黒く長い髪をさらりと流し、その透き通るような白い肌と赤い瞳が、まるで宝石のように教室の光を吸い込んで輝いている。彼女の清楚で凛とした佇まいは、見る者すべての視線を奪い、息を呑むほどの美しさだった。まるで神話の中から抜け出してきたかのような、その完璧な姿に、治人は心を掴まれてしまっていた。


「古賀。ここの問題答えてみろ。」


突然、先生の声にハッと我に返る。まるで夢から引き戻されたように、治人は顔を赤らめながら前を向いた。だが問題は難解で、言葉が詰まる。焦る彼を尻目に、斜め前の席の友人、馬場晴人はば はるとがノートにこっそり何かを書き始めた。治人はそのノートをチラチラと見て答える。


「…1√4です。」


自信なさげに答えると、先生は首を振り、


「残念、違います。」


前からは馬場の抑えきれない笑い声が漏れた。治人は苦笑いで彼を睨みつける。

***

「何やってんだよ、本当に。お前のせいで恥かいた!」


授業が終わり、二人は教室を出るとすぐに今日の出来事について話し合った。


「いや、お前がわからないから悪いんだろ?」


「ぐうの音も出ねえな…」


「てか授業中なんで夢咲の方ばっかり見てるんだよ?」


そんな会話を交わしていると、見慣れた顔が近づいてきた。


「古賀君!」


青木実あおき みのりがまるで嵐のような勢いで走ってきた。いつもは穏やかな彼女が、何かに燃えているように見える。


「古賀君、さっき見てた人、知り合い?」


質問に戸惑いながらも、治人は正直に答えた。


「同じクラスの人だよ。すごく美人で、つい気になっちゃってさ。」


青木は一瞬黙り込み、そして小さくため息をついた。


「ふーん…そうなんだ。ごめんね、変なこと聞いて。」


そう言い残し、自分の席へと戻っていった。


その時、夢咲が静かに治人の隣へ歩み寄り、柔らかな声で話しかけた。


「古賀くん、さっきの問題、難しかったね。よかったら一緒に考えようか?」


その言葉に治人は驚きながらも、心が一瞬温かくなったのを感じた。


「ありがとう…夢咲さん。」


夢咲は微笑み、彼の目をじっと見つめた。


「これからも、わからないことがあったら遠慮なく言ってね。」


治人はその言葉に胸が高鳴るのを抑えられなかった。


一方、青木は遠くからその様子を見つめていた。彼女の瞳は強い決意で燃えていた。


「負けたくない。絶対に負けたくないんだから。」


青い髪が風になびき、その少女の戦いが静かに幕を開けたのだった。



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