馬場晴人
治人は青木が教室を出て行った後も、しばらくその場で立ち尽くしていた。周囲の静寂が重くのしかかる。扉が閉まる音だけが教室に響き渡り、治人の胸の中には焦りと後悔が渦巻いていた。
「……馬場。」
治人が小さく呟いた。その声に、隣で黙っていた馬場が顔を上げた。普段はムードメーカーで、治人とも軽い冗談を言い合う仲だが、今日はその顔が厳しく引き締まっていた。
「何だよ、馬場。」治人は目をそらしながら言った。
「もういいだろ、そんなの。」馬場は静かに治人を見つめた。「だって、お前さ、あいつがどれだけ頑張ってたか、分かってないだろ?」
「…なんで…なんで…それを?」
治人は驚いて顔を上げた。馬場が何故さっきのことを知っているのか。
「……お前、なんで急にそんなこと言うんだよ。」治人は困惑した声で言った。「俺だって…どうすればよかったか分かってるって。」
馬場は深く息をついて、拳を握りしめた。
「友達前でクソみてぇな見栄張るの辞めちまえよ!」
治人は青木が教室を出て行った後も、しばらくその場で立ち尽くしていた。周囲の静寂が重くのしかかる。扉が閉まる音だけが教室に響き渡り、治人の胸の中には焦りと後悔が渦巻いていた。
「……馬場。」
治人が小さく呟いた。その声に、隣で黙っていた馬場が顔を上げた。普段はムードメーカーで、治人とも軽い冗談を言い合う仲だが、今日はその顔が厳しく引き締まっていた。
「何だよ、馬場。」治人は目をそらしながら言った。「さっきの、青木のこと…。」
「もういいだろ、そんなの。」馬場は静かに治人を見つめた。「だって、お前さ、あいつがどれだけ頑張ってたか、分かってないだろ?」
治人は少し驚いて顔を上げた。いつもの馬場なら、こんな風に静かに怒ったりしない。でも、今日は違う。普段の馬場の明るさが消えていた。
「……お前、なんで急にそんなこと言うんだよ。」治人は困惑した声で言った。「俺だって…どうすればよかったか分かってるって。」
馬場は深く息をついて、拳を握りしめた。
「俺だってさ、あいつの気持ちを思うと胸が痛いんだよ。」馬場の声は低く、怒りを抑えながら言っているようだった。「でも、治人、お前、青木のことなんて考えたことあったか?お前が結果出して自分が調子に乗る度に、青木はどうだった?黙って、お前を見てたんだよ。黙って、自分を抑えてさ。」
治人は言葉を失った。馬場の言っていることが、次第に自分に突き刺さっていく。
「お前、そんなに簡単に『やっと上位組入りだ』とか言って、青木のことを傷つけてたんだぞ!」馬場はだんだんと声を荒げてきた。「お前がどれだけ頑張ったとしても、その努力が青木には届いてなかった。届かせてやることすらせずに、ただ勝手に突っ走って…。それで青木を傷つけて、何がしたかったんだよ!!」
治人はその言葉に胸が苦しくなった。「馬場、俺はただ…青木に追いつかれたくなくて、でも…」
「そうだよ、追いつかれたくなかったからだろうな。でもな、青木はただお前に認めてもらいたかったんだよ!」馬場の目が鋭くなる。「でも、お前は一度だって、その気持ちを見てやろうともしなかった。青木だって、俺だって、みんなお前に期待してたのに、いつの間にかお前は青木を突き放して、自分だけの世界に入っていったんだよ!」
治人は無言で馬場の言葉を受け止めるしかなかった。息を詰めたまま、心の中で悔しさが込み上げてきた。
「だから、俺は言うんだよ。」馬場は冷静に続けた。「謝るべきだ。お前が青木に謝って、きちんと向き合わせるべきだ。だって、もし本当に青木を友達だと思ってるなら、あんなことにはならないだろ?」
治人はようやく目を閉じ、苦しそうに口を開いた。「でも、怖いんだ…あいつが俺を嫌いになったらどうしようって。」
「だったら、もう一歩踏み出せよ。」馬場は治人を見つめ、真剣な目で言った。「お前が本気で謝れば、あいつも分かってくれるかもしれないだろ。俺たちが青木のことをどう思ってるか、きちんと伝えるんだよ。」
治人はしばらく黙っていた。その言葉に、少しだけ心が動かされた。しかし、言葉にできない不安が残っていた。
「…分かった。」治人は目を開け、深呼吸してから言った。「馬場、ありがとう。」
馬場は黙って頷いた。治人が動くことを信じている。そして、治人もまた、その信頼に応えなければならないと感じていた。




