壊されない為に壊す
張り出されてた、テストの順位。
そこには「古賀治人 3位」と確かに書かれてあった。
そして放課後。昼休みからずっと調子に乗ってる治人。生徒会でも調子に乗ってた。
「見たかよ、俺!やっとこの学校の上位組入りだぜ!」
自慢げに笑う治人。
その声に、青木の胸の奥がじわじわと焼けるように痛んだ。
「あっごめん。今日の誘い断っていい?勉強しなきゃだ…」
「……まーた、それ。」
呟きのような声。
治人は聞き返す。
「は?何が?」
「まーた、そうやって調子に乗ってる。」
苛立ちが隠せなかった。
青木の声は震えている。
「昔も、そうだった。」
治人は眉をひそめ、鼻で笑った。
「……またそれかよ。いい加減にしろよ、実。」
「いい加減にするのは、あんたのほうでしょ!!」
青木が机を叩いた。
教室中に、乾いた音が響く。
「何が“やっと”だよ。あんた、昔からそうだったじゃん!!」
「はぁ?」
治人が笑う。バカにしたように。
「昔?ああ、あの時か?勝手に嫉妬してたやつ?」
「嫉妬なんかじゃない!!!」
青木の叫びに、治人も声を荒げた。
「じゃあ何だよ!?努力して結果出して、何が悪いんだよ!!」
「結果出した“だけ”で偉そうにするなって言ってんの!!!」
青木は涙ぐみながら、怒鳴った。
「ずっと、ずっと見てたよ。私、あんたのこと……。でも、あんたは、結果出した途端に私たちを見下した!!」
治人の顔から、だんだんと笑みが消えていく。
代わりに、冷たく刺すような声。
「……お前が勝手に一緒にいた気になってただけだろ。」
「なにそれ……!!」
青木は震えながら睨みつける。
「私だって……私だって、あんたに追いつきたかった!!
でも、どれだけ頑張ったって、あんたはこっちなんか見なかった!!
それがどれだけ苦しかったか、あんたにわかるわけない!!」
「知らねぇよ!!」
治人も怒鳴り返す。
「そんなこと、いちいち言わなきゃ伝わんねぇだろ!!エスパーじゃねぇんだからよ!!」
「……っさいこっからこうしておけばよかったんだよ!!最初から!!」
青木は叫び、涙をぐしゃぐしゃに拭う。
治人も怒りで顔を真っ赤にしながら、一歩前に踏み出した。
「お前が勝手に黙って、勝手に期待して、勝手に失望してるだけだろ!!!俺はそんなもん知らねぇし、頼んでねぇ!!!」
「――最低!!」
「お前だって、なにも言わねぇくせに、被害者ぶってんじゃねぇよ!!
本当はただ自分のプライド守りたいだけだろ!!!」
「違う!!!」
二人の声は、だんだん泣き声に近づいていた。
それでも止まれなかった。
「……っ、私たち、友達だったよね?」
「知らねぇよ。」
「……っ」
「今のお前となんか、友達でもなんでもねぇ!!!」
ガタン、と机を蹴飛ばした音が響く。
誰もいない教室が更に静まり返る。
「もういい。最初からこうしておけば良かったんだ。」青木はは震える手でポケットから小さなケースを取り出す。「私はあんたに負けたくないんだよ…!でも、結局、いつも私の気持ちなんて、わかってくれない…!」
中には、色褪せた、小学生の頃の二人の写真。
「実?お前何してる?おい!やめ」
青木はその写真を破った。
破片が、夕陽に照らされながら宙に舞う。
「……これでいいんだよ。」
青木の声は、絞り出すようにかすれていた。
治人は唇を噛み、堪えきれずに怒鳴った。「なんでそんなことが出来るだよ?なんで?俺だって努力した。君に勝つ為に!」
青木は呆れたような、悲しそうな表情で言う。
「私よりも、君には自分の気持ちに負けて欲しくなかった。」
教室に残された治人は、崩れるように机に手をつき、息を殺した。
夕陽が、ぐしゃぐしゃに泣きそうな治人の影を、さらに長く伸ばしていった。




