痛いの痛いの貴方に飛んでけ
写真部との合同合宿が終わり、パンフレットも作り終わった。結果は大好評。そんなことがあってから1周間が経った。放課後の図書室。
期末テストが近づく中、生徒会と写真部を兼ねた“仲良し組”は、自然と勉強会を開くことになっていた。
「いやー、やっぱりテスト前って落ち着かないよな……特に数学……!」
馬場が椅子の背に寄りかかって、ノートをぺらぺらとめくる。
「自業自得。遊んでばかりだからでしょ」と青木が呆れたように言いつつ、治人の隣に座る。
「でも意外と、合宿の後でちゃんと気が引き締まった気がするんだよな」
夢咲が笑いながら言うと、治人は思わず横顔を見てしまった。合宿中、偶然見かけた彼女の真剣な表情がふとよぎる。
「……夢咲、わかんないとこあったら、教えるよ?」
その一言に、青木の鉛筆が止まった。わずかに視線が治人を刺す。
「あ、ありがと。じゃあこの英文法のとこ、ちょっと……」
夢咲がノートを傾けると、治人が自然に顔を近づける。その距離感に、青木の胸がチクリと痛んだ。
「はーい!先生方、こっちは赤点確定なんで、こちらにも愛の手を!」
馬場がわざとらしく机に突っ伏して笑わせると、空気が軽くなった。
「もう、うるさいな……」
***
放課後、勉強会が終わった後、みんなが図書室を出て帰り道を歩いている。
治人は少し前を歩いている夢咲をちらりと見やる。夢咲は時折、肩をすくめては笑顔を見せながら歩いている。その姿に、治人はやっぱり胸が少し高鳴る。
「治人くん、明日のテスト、大丈夫そう?」
突然、夢咲が振り返って治人に声をかける。彼女の無邪気な笑顔が、治人にはまぶしすぎる。
「う、うん……たぶん大丈夫。頑張ったし」
治人は焦って答えるが、実は完全に自信があるわけではない。夢咲にどう思われるかが気になりすぎて、うまく話せない。
「ふーん、そうなんだ。でも、まあ、治人くんならできると思うよ」
夢咲は少し笑いながらそう言った。治人はその言葉に、何とも言えない温かさを感じて思わず顔を赤くする。
「ありが……と」
治人は言葉を詰まらせるが、なんとかそれだけ返す。
その時、青木が横からやってきて、治人と夢咲の間に割って入る。
「お、また二人だけで話してたのか?」
青木がからかうように言うと、治人は焦りながら肩をすくめる。
「いや、そんな……ただ、ちょっと話してただけだよ」
治人は笑いながら言うが、内心はちょっと焦っていた。
「うんうん、まぁ治人くんも頑張ってるしね!」
青木が笑顔を浮かべて答える。
「青木もな、頑張ってたし、すごいよ」
治人は少し恥ずかしそうに言うと、青木は軽く頭をかいて照れた。
その時、馬場が遅れてやってきて、二人に並ぶ。
「お、やっぱり皆で帰るんだな。勉強、やっぱり一人よりみんなの方がやりやすいな。ってか、あれ?また青木と治人、なんか微妙に距離縮まってないか?」
馬場が不意に言ったその言葉に、青木と治人は思わず顔を見合わせる。
「そう?あ、あんまり気にしてなかったけど……」
治人はちょっと気まずそうに笑う。
「なんかさ、こういうのって不思議だよな。普段はあんまり喋らないのに、いざこうして勉強してると、なんかこう……うまくいくんだなって実感するよ」
青木が照れくさそうに言う。
「ふふ、まぁ確かに。でも、ちゃんと皆で勉強できて楽しかったよ」
夢咲も軽く微笑んだ。
そのまま歩きながら、無言の時間が続く。風が少し冷たくて、ふとした瞬間に静けさが包み込む。
その静けさの中で、治人は心の中で少しだけ決心を固めた。夢咲に対して、もっと積極的に話しかけて、少しでも近づきたい。何も変わらなければ、ずっとこのままで終わってしまうような気がして怖かったから。
――きっと、今日みたいなちょっとした会話でも、大事な一歩だ。
そんな思いを胸に抱えながら、帰り道を歩き続ける治人だった。




