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天国と地獄

まだまだ序盤!土台だよ!

始業式の朝。

古賀治人は寝不足の目を擦りながら、制服のボタンをひとつずつ留めていた。鏡に映る自分の顔は、どう見ても生気を失っている。


眠れなかったのだ。いや、正確には「青木実のせいで」眠れなかった。


下から母の声が飛んできた。


「治人ー? 顔がゾンビみたいになってるわよ。まさか、緊張で眠れなかったんじゃない?」


思春期の男子にとって、それは地雷の質問だ。母親相手となればなおさらだ。


「別に、そんなことないよ」


ぞんざいな返事をして、治人は靴を履く。玄関のドアを開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは思いもよらない人物だった。


制服姿の少女。

明るい栗色の髪が朝日にきらめく。――青木実が、にこにこと笑って立っていた。


まるで彼女だけが春の空気をまとうように。


(……うそだろ)


無言でドアをそっと閉め、再び隙間から覗いてみる。間違いなく本人だった。


覚悟を決め、ドアを開ける。


「おはよう、古賀くん。今日、一緒に学校行かない?」


実の問いかけに、治人の脳内はフル稼働する。

断れば感じが悪い。承諾すれば面倒なことになる。――だが、口から出たのは予想外の言葉だった。


「……うん、いいよ」


(やった、やってしまった……)


実はぱっと顔を明るくする。


「本当? よかったぁ。じゃあ少し待っててね、うちの親がまだバタバタしてて。あ、それより! 昨日、古賀くんが読んでた『月刊ドラフト』買ってみたんだ」


「……え?」


「すっごく面白かったよ! 特に今月から新連載の怪我から復帰して再起するまでの野球選手の話!あれ感動しちゃって!」


青木の朝から高いテンションで治人の寝不足に追い打ちをかける。


「古賀くん、大丈夫? 顔、すっごい眠そうだけど……?」


「……昨日、ちょっと寝れなくて」


「そっか……大丈夫? 倒れないでよ?」


気まずい空気になりかけたその時、まるで演出のように、双方の母親が登場する。


「あら〜実ちゃんじゃないの! 久しぶりねぇ!」


「こんにちは〜、古賀さん! 治人くん、今日も元気そうね!」


「いやこの子ったらねぇ、昨日から『制服しわしわじゃない?』ってずっとそわそわしてて……」


治人はうつむいたまま、小さくつぶやく。


「……もう帰っていいですか」




「古賀くん……逃げる?多分このままじゃマウント合戦に発展するよ…?」


青木が小声で囁く。

治人は無言でうなずいた。


やがて電車に揺られながら、二人は始業式の会場である校舎へと向かった。

やがて始業式が終わり、

校舎の入り口には、すでに多くの生徒たちが集まっていた。

掲示板には、新クラスの割り振りがずらりと並んでいる。


治人は無言で自分の名前を探す。


そして、目を疑った。


『1年B組 古賀治人 青木実』


「……は?」


その隣で、実が小さく、しかし確実にガッツポーズを決めた。


「やった……!」


その小さな声には、歓喜と、安堵と、決意が混じっていた。


「古賀くんに、もっと近づける……!」


彼女の瞳はまっすぐに未来を見据えているようだった。

対する治人は、頭を抱えたまま、ただ春の陽射しに目を細めていた。




だが、この時の彼はまだ知らない。

この「一緒のクラス」が、波乱と青春と、そして少しだけの恋を巻き起こす――始まりの鐘であることを。


読んで頂き有難う御座います。これからも皆様に喜んでもらえる作品を作っていきますので何卒宜しくお願いします。

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