3 熟せば甘くなります
能良晶はふんふんと、ご機嫌ハナウタ状態で駅前通りを歩いていた。
職業は作曲家。数年前までは業界の第一線で活動していたけれど。
有名税では済まないような、所属事務所とのトラブルがあって体調を壊し。
バンドは半永久停止状態にして、この地方都市に移って来た。
でもやっぱり音楽は、自分の命そのものなので。
映画や番組音楽に関わったり、編集や演出と言った裏方活動をしていたら。
いつの間にか、時代も環境も変わっていた。
わざわざ東京に出て、事務所に所属したりしなくても。
好きな曲を生み、発信するコトは。何処に居ても出来るようになって来て。
ニューヨークでソロ活動しているヴォーカルとも、簡単にコンタクトが取れるし。
自宅地下に造ったスタジオで日々過ごしていて。
「ココで音楽出来るん、ほんまに幸せやあ」
今はつくづくそう思っている。
特に。昨晩やっと一仕事終わって、ぐっすり眠って。
久しぶりにスポーツジムで身体を動かして、すっきりしたトコロだし。
ついハナウタ状態になるのも当然だ。
と言っても。晶は小柄でぽっちゃり目の体型だし。
音楽の女神から溢れる才能を授かった代わりに、運動神経ゼロ。
イケメン・インストラクター目当てな、暇マダム達に混じってするボクササイズは。
盆踊りみたいで可愛いいわあ~と小動物扱いされてたりする。
今日も、久しぶりに会えて嬉しいワと。朝摘み苺をたくさん貰ってしまった。
(ニコちゃんのお店って、この辺やんなあ。
夜中仕事終わってヨロヨロで帰ってったけど。今は店に居るやろか?
この苺ハンブンコしいたいなあ)
スマホで地図を確認しながら、表通りから少し奥へと入って行って。店を見つけた。
元は美容院だった店舗は、入口や壁は少し古びたアースグリーンで。
『配線・電気工事・住宅工事・ご相談ください』の小さな看板。
(なんや控え目やなあ。あン2人にぴったりやあ)
そんなコトを思いながら、店頭のドアをそっと押してみると。開いた。
午前中は病院、お店は午後開店。そう聞いていたのに。
「こんにちわあ。ニコちゃん戻っとるん?」
店頭スペースには来客用のテーブルと工事道具の棚が並んで、薄暗い。
様子を伺いに、もう1歩2歩と入って行くと。
手の中でスマホが鳴った。竜太郎からの着信で、ジムに迎えに来てくれた合図。
「あー竜ちゃん?今なあニコ…」
そう電話に出たところで。
晶は、大事に持っていた苺を落とし。跳び上がって悲鳴を上げた。
「ぎゃああああああ!コワイ人が居るうううう!」
きっと晶で無くても悲鳴を上げた。
来客スペースとの仕切り用パーテーションが倒され、半分に割れていて。
その陰にうずくまる百樹の髪と服は乱れていて、殴られていたとしか思えない。
床に散らばってる黒い跡は血のようで、吐瀉物の匂いまでする。
そんな百樹を取り囲んで3人の男が立っていた。
黒っぽい服で。柄が悪いと言う範疇を越えた、残忍さが滲む顔。
「おい。サツに電話しとるんか?」
1人が晶に近付いて来て。
持っていた細い金属棒で晶のスマホを叩き落とし、そのまま踏みつけて割る。
その細い棒はかなりの重さがあって、当たってもいないのに晶の手は痺れた。
「手ぇ…出す…な」
苦しそうに言葉を絞り出しながら、百樹は近くに居る1人の服を掴むけれど。
すぐに腹を蹴り上げられてしまう。
「ちっ!手間掛けさせやがって。
しゃあない。出直したるワ。そン時はニコ出せや」
刃物のような冷たい一言を吐いて、3人は店を出て行く。
真っ青になって固まっている晶をチラリと見たけれど、もう手は出さなかった。
ふ、と意識が戻ると。
百樹は店の奥とつながる居住スペースの床に寝転んでいた。
殴られた顔には濡れタオルが乗せてあって。
汚れ破れたシャツは脱がされて、脇腹の辺りにはクッションが詰めてある。
「アバラ逝っとるみたいや。寝返り打たんようにな」
「竜さ…ん」
「病院行く前に、ハナシ聞かせて貰おか」
イスに座って床の百樹を見下ろす竜太郎は、薄い色のサングラスで表情が判りにくい。
でも。低く静かな声には、疑いようの無い怒りが籠っている。
「すんま、せん。あきらさん、まで」
腫れた顔に、切れた唇では。話し方もたどたどしい。
「車ン中で寝かせとる。眠剤飲ませとるけど、早う連れて帰りたいンや。
手短に話せ。おまえ、古風に指まで詰めたクセに。まだ本部と切れてへんのか?」
竜太郎相手に誤魔化しは通用しないと判っているので。
苦しそうに呼吸しながら、百樹は話し始める。
「白井がヤクで逝ったんや、そおです。
そン時に本部の色んなデータに爆弾仕掛けたらしいて。
ニコやったら何ンか知っとるんやないかて、連れ戻しに…」
「白井てアレか。
ネンショーでニコの面倒見とって。結局、裏仕事に引きずり込んだヤツか」
「白井のお陰で、マトモに働ける言うて。ニコは懐いとったんで…」
ふうと大きくタメ息を付くと。竜太郎はサングラスを外して、こめかみを押さえる。
めんどくせえなあと小さく呟きながら。
「ロジックボムがホンマやったら。解除ン為には本部がもっとマトモに動くやろ。
白井の元ツレ言うだけの理由で、ニコみたいな素人当てにせえへんワ。
どおせ、あいつら勝手にデータ持ち出して。それだけでも金にしたいンやろ。
そンで?おまえはどおするんや?」
こめかみを押さえる大きな手から覗く、竜太郎の目は。
ただただ面倒臭がって冷ややかで。同情や憐れみの要素はカケラも無い。
「はい。オレも、あの3人の単独やと思うんで。
今晩ハナシ着けて。終わらせる、つもりです」
会話が終わって部屋が静かになると。降り始めていた雨音が部屋の中まで沁み込んで来る。
「こんなコト頼める立場や無いンですけど」
苦しい呼吸で百樹は身体を起こして、竜太郎に土下座する。
「今晩だけ、竜さんトコにニコ置いたってください。
ホンマは白井とニコと3人でやり直したかったんやけど。
白井はヤクが抜けへんかったし。オレも半分死んだよおなモンやし。ニコだけでも。
ココでなら真っ当にやって行けるはずなんで。どおかお願いします」
百樹の具合の悪さは、ただ殴られただけでなく。
この騒ぎで透析に行けていないコトも要因だから。命懸けとも言える真剣さ。
でも竜太郎はイスから立ち上がると、百樹に背を向けた。
「晶を巻き込むワケに行かん」
雨音は強くなって雷まで鳴り始める。
(こンなら大きな音がしても近所迷惑にならんな)
百樹はそんなコトをぼんやり思って、暗い部屋で『その時』を待った。
そんな雷雨が本格的になる、少し前のこと。
似古は病院の受付でオロオロしていた。
自分は仕事だったので、百樹はタクシーで透析に行って。
仕事が終わり次第、自分が迎えに行く。はずだったのに。
百樹は透析に来ていないと、受付で言われてしまって。
百樹の携帯も、店の電話もつながらない。
(ど、どないしよお。
モモちゃん何処に居るん?具合悪うなって家で動けへんのやろか?
今から家戻って。それから救急車呼んでも間に合うンやろか?
それより。もし家に居らんかったら?何処探したらエエん?)
色んな可能性を考えなければいけないのに。
似古の身体は震え、歯がカタカタと鳴り。眩暈がして何も考えられない。
午後の時間帯を仕事に充てる為に、百樹は午前中3時間の透析を受けているけれど。
大柄で筋肉質な身体には十分では無くて。医師からは5時間以上を勧められている。
そんなギリギリの状態だから。
いつも似古は怖かった。急変して悪化して『もし最悪のコトになって貰うたら?』
立っていられなくて、そのまま似古は廊下の隅でうずくまってしまう。
「似古さん!!」
百樹の声で名前を呼ばれて、似古は顔を上げる。でもその顔は涙でぐしょぐしょで真っ青。
駆け寄って来た百架は、思わずがばっと抱き締めてしまう。
「ヒトリで。心配やったですよね。
今から母ちゃんが救急の人と、百樹さん迎えに行くんで。一緒に行きましょお。
この病院、透析患者の移送用に専門の車があるんやって。
百樹さんが具合悪うても、車ン中ですぐ対処出来るんで大丈夫です。間に合います」
「百架くん…?」
声が似ているので百樹と間違えたけれど。百樹は、こんな風に自分を抱き締めたりしない。
何がどうなっているのか判らず、似古は呆然とした表情。
「百樹さんが透析来てへんから、母ちゃんに連絡が入って。
オレはデカイ百樹さん運ぶ係で着いて来ました。
大丈夫です。みんなで協力すれば何ンとでもなります。
似古さんヒトリで抱え込まんでください。家族を頼ってください」
残念ながら百架はハンカチなんて持って無いから。
雨で肌寒いので重ね着していたロンTシャツを1枚脱ぐと。それで似古の涙顔をごしごし拭いた。
ほんとは自分のココロも拭きたかった。
こんな状況なのに。
(似古さんの泣き顔ってキレイやあ)そんな邪念が渦巻いてしまったから。
表通りに医療用送迎車を停めて、似古と百架と母親は傘も差さずに店へ走る。
店のドアは鍵が掛かっていなかった。
「モモちゃん?」
店内が真っ暗なので、照明スイッチをONにするのと同時に。
ピカっと雷光が走って、ドーンと重い音が響く。
その一瞬の光で浮かび上がった部屋の様子に、母親が声をあげる。
「えっ?何ンなん?
こんな散らかって…ちょっ!あそこっ!百樹っ!!」
奥の部屋からドアの方へ向かおうとしたのか、這いずった姿のまま床に沈む百樹が居た。
「モモちゃんっ」
似古は引き攣るような声をあげて、その場に崩れ込んでしまう。
母親はさすが看護師の貫禄で。動揺しつつも百樹の元に駆け寄り、呼吸や意識を確認する。
「何ンなん?この怪我。
ボロボロやんか。ちょお百樹っ百樹っ!ああっもお!百架っ!早よお電気付けてっ!」
「たぶん雷で停電や。照明付かん。外も真っ暗や。似古さん、懐中電灯ドコですか?」
崩れた似古を支え上げようと、百架が腕を回すけれど。
似古は魂が抜けたように動かない。
母親がスマホのライトで照らしながら、意識の無い百樹を確認する作業を。ただ見つめている。
「似古さん?」
百架が、似古の口元に耳を寄せると。
とても小さい声がぱらぱらとこぼれていた。
「へやのコと同ンなじや。倒れたらもお戻って来おへん。みんなどっか行ってまうんや。
しらいさんも。どっか行ってもて戻って来おへん。
いつもいつもオレだけが残されて。ヒトリになるんや。もお。いやや。
モモちゃんが死ぬんやったら。オレが先行く。もおヒトリ残されるんは、いやや」
そして細い身体をするりと返して、百架の腕から逃れると。
似古は工事道具の棚を探って、30センチくらいのノコギリを引っ張り出す。
金属パイプを切断する為の細かい尖った歯が並んでいて。皮膚なんて簡単に破りそうなのに。
似古は躊躇なく首元に押し当てた。
「あかんっ!」
これは絶対止めなければいけない勝負球。
そんな気迫で、百架は思い切り腕を伸ばし指を広げ。ノコギリの歯を握った。
鉄っぽい匂いと。ぽたぽたと温かな液体が胸元に落ちて来て。
似古は何度かまばたきをして。ゆっくりと目の前に居る人物を見上げる。
「ももかくん…?」
「そおです。百架です。さっきからずっと一緒に居ります。そんでこれからも。一緒に居ります。
似古さんを絶対ヒトリにせえへんです。せやから、そんな悲しいコトせんでください」
(ああっクソっ。何ンか決まらん台詞やなあ)
内心そんなコトを思いながら、少し強張った笑顔を作って。百架はノコギリを取り上げた。
と、ぱっと照明が付いて部屋が明るくなる。
「百架、肩貸して。車まで運ぶで。
百樹、立てる?病院行くからな。もおちょい我慢し。
ニコちゃん、通院グッズ揃えてあるやろ?持って来て」
母親はテキパキと指示する。さっきまで部屋が暗かったので、似古のゴタゴタは気付いていない。
いつの間にか雷雲は去り。外は小雨になっていた。
辛そうな様子で百樹は車に乗り込みながら、表通りの様子を眺める。
停電で信号機が滅灯していたせいで、何人もの警察官が交通整理をしているし。
あちこちにパトカーや白バイが停めてあるから。これ以上の安全確保は無いとホっとする。
さすがにこんな状況を突破してまで、あの3人が来るとは思えない。
「モモちゃん…」
不安そうに自分を見つめる似古に、百樹は小さく頷く。
怪我で顔は腫れ、黒ずんだ顔色だけど。もごもごと唇が動いて。
「すぐ、帰るンでな。待っといてくれ」
「うん」
百架が搬送用シートを固定するのを手伝っていると。その指先の怪我に、母親が気付く。
「それ、どないしたん?」
「あー停電ン時に、何ンか工具触って貰うたみたいや。
キーパーの手の皮は厚いんで。ちょおっと穴開いて血ぃ出ただけや」
「こんな時にメンドイなあ、もお。
停電明けで病院も混乱しとおから。今日は自分で何ンとかし。
も1回キレイな水で洗って、コレ巻いとき。そんで明日病院おいで」
「わかった」
母親は、搬送車の備品から厚めの傷パッドを出して百架に渡す。
「百架あんた、今晩はニコちゃんとこ泊まらして貰い。
雨ン中じいちゃん家まで帰るンも、もお遅い時間やし。
明日の朝電話するからな。スマホ充電しときや」
「わ。わかった」
そして似古と百架は並んで、搬送車を見送った。
店へ戻ると。
似古は無言のまま、散らかった部屋を片付け始めた。
「うげ。パーテション割れとおで。何ンがあったんやろ?
百樹さんエライ怪我しとったし。何ンやまるで…」
そう言いながら百架も色々と想像してしまう。
(ケンカでもあったんやろか?百樹さんは若い頃ヤンチャしとった言うし。
トラブルにでも巻き込まれとるンやろか?ソレで透析行かれへんかったんかな)
ちらりと視線を送ると、似古も暗い顔付きだから。多分同じコトを考えている。
ほとんど会話も無いまま。
冷蔵庫に残っていた物で食事を済ませ。シャワーを済ますと、百樹のTシャツを渡される。
「上の部屋にモモちゃんの布団あるんで。それで寝てくれる?」
「あ、はい。あの、似古さんは?」
「下ン部屋で寝る。おやすみ」
ふいと背中を向けられてしまって。いつもの優しくて愛想の良さはカケラも無くて。
百架は肩が落ちるほど大きなタメ息を付くしか無かった。
停電絡みで事故でも在ったのか。
窓越しにずっとパトカーのサイレンが入り込んで来て。似古は寝付けない。
ヘンな寝汗が浮かぶし。心臓がドキドキして収まらないし。
無理やり目を瞑っても。酷い怪我で苦しそうな百樹の姿が頭を巡る。
そしてトラブルに巻き込まれた可能性を思うと。身体が重くなって来る。
(やっぱり。
オレみたいなんがフツーの生活すンの。無理なんや。
何処へ行っても。いつまで経っても。きっと何ンも変わらへん…)
もう眠ることは難しそうなので、諦める。
布団から出て、水でも飲もうと廊下へ出ると。
部屋の真ん前で、布団をかぶった百架が座ったまま眠っている。
「え?なに?」
驚いた似古は、ゆさゆさと揺すぶって百架を起こす。
「どないしたん?何ンで布団で寝えへんの?」
「え、あっ!すんません。いえ、あの。気にせんでください」
「いや無理やろ。気にするワ」
「オレが気にしぃなダケなんで。その、もし何ンか夜中に有ったらて考えて貰うて。
でも上の部屋は似古さんから離れとるし。せめて近くに居りたあて。
やっ!その、それってストーカーみたいで。キショイやんなっすんませんっ」
夜中の廊下でも判るくらい、百架は真っ赤になって慌てている。
それは目の前の光景が原因。
百架を覗き込んでる似古は。首元がゆるんだTシャツだから、胸元の奥まで丸見えで。
下半身はパンツだけで、生脚をさらけ出している。
「す、すんませんっ。
すぐっ上戻りますっ」
必死に似古から目を逸らし、立ち上がろうとするけれど。百架は苦しそうに固まってしまう。
だから似古も気付いてしまった。
「もしかして。Gパン、キツイん?」
「うっ」
借り物のTシャツを引っ張って、百架は股間を隠すけれど。
顔は正直で。もうダラダラと汗が噴き出している。
「風呂場かトイレで抜いたら?」
「いや、あの。
オレずっと、練習で全気力体力使い果たして寝るだけの生活しとったから。経験値ゼロで。
そもそも、誰かにそんな気ぃに成ったんも初めてで。こんな収まらんのも初めてやし。
そおや。外走って来ますっ」
「まだ雨降っとおで」
「くうっ」
本能ダダ溢れな百架の表情をじっと見ていると。
似古はなんとなく、重かった心が緩んで。ふわりと浮上してきた。
(そおや。
今日は百架くんによおけ助けて貰うた。百枝さんにも助けて貰うた。
オレ自分のことばっかり考えとって。
手ぇ差し伸べてくれるヒトに囲まれとるの、忘れとった。
ココは昔の場所とは違うんや。
周りよお見たら、きっと。まだ何ンとかなるやんな。まだ諦めんでエエやんな)
似古の手が伸びて、Tシャツの上から硬くなっている百架の雄に触れる。
気の毒なくらいギッチギチ。
「うわっ!」
「今日のお礼や。やり方教えたるワ」
でも百架は、似古の細い手首をぐっと掴んで止め。我慢顔を近付ける。
「いや、そんなんアカンです。
こーゆーのンは好きな人とやるモンやと思うし。
もし。もし似古さんがオレんこと好きでも無いのに、そんなんして貰うたら。
似古さんもオレも。多分もうエエ関係に成れへん思います。
オレ、似古さんと初恋すんの、諦めてへんので。待ちます待てます」
あまりにもクソ真面目な言葉に、似古は思考が一時停止してしまう。
本能と理性が軋みながらせめぎ合ってる状態で言う台詞だろうか?
(それって。待ちますって。
オレが百架くんのコト好きになる前提なん?
そもそもオレ、百架くんのコト別に嫌いちゃうし。素直で良え子やと思うし。
それに。こないだハグして貰うたの、全然嫌や無かったし)
手首からじんわりと伝わって来る百架の体温が、身体の奥まで流れて来て。
突然、どくんと似古の真ん中が脈を打った。
ずっと長い間、身体は道具で。反応と感情は別物だったのに。
(やばっ。今オレどんな顔しとる?)
慌てて顔を伏せて、ちらっと百架を見ると。何故か百架はニヘっとデレ顔で。
「オレ、似古さんのその目。大好きなんや。先っぽが細おて。形良おて。
いっつも見過ぎたアカンて我慢しとったけど。
ホンマは。ずっとずっと近くで見てたいンや」
そんな言葉で、似古の心臓は更にドキドキと走り出してしまう。
その勢いは、今まで経験したコトの無い速いテンポで。
今日の不安な出来事も。これから先の心配事も。まとわりつく過去の自分の醜さも。
全部どっかに蹴散らかして、真っ新な気持ちがぽーんと飛び出しそうで。
(百架くんとやったら、しても構わへん。かも)そう思えた。
「指怪我しとるから、やりにくいやろ。手伝うたる」
「いや。せやから!キモチが大事やから」
「そお。今オレそーゆーキモチなんや。試してみよ」
「えっ!」
「考えてみれば。したコト無いもんなハツコイて。どんなんか判らへん。
この関係がそお成るかどおか。試してみいひん?」
似古の言葉は途中から声にならない。
勢い余ってがぶりと噛みつくようなキスを、百架がかぶせて来たから。
「おねがいしまっす!!」
それこそ試合開始の礼のように、気合いっぱいに百架は頭を下げた。
さっきから5分ごとに身体を起こして、百架は似古の顔を覗き込む。
乱れて顔にかかるブルーアッシュの髪をちょいちょいと動かしても、似古は起きない。
すーうすーうと深い寝息に、だらりと脱力した様子で熟睡中。
とうとう我慢出来ずに。首筋から鎖骨のくぼみ、そして胸の方へつーと指を滑らす。
「ん…」
そんな百架の手から逃げるように、似古が寝返りを打ってしまっても。
諦めきれずに、今度は背中からそろりと包んでみる。
ほんの少しでも肌が触れているだけで、こんなに気持ちが良いなんて。
「似古さん」
目を閉じて、百架は昨晩のコトを思い返す。
(キモチ良え時の顔て、めちゃめちゃ可愛いかった!
いつものこお流し目的な色っぽいんもスキやけど。あんな真っ赤で必死でコドモみたいで。
あんなん他ん時に見られへん。
今まで手ぇに触ったコトも無いんに。ぎゅうって背中に指食い込むくらい抱き着いてくるし。
ずんだが爪立てるンとは全然ちゃう。指んトコが熱うなって。
もっともっとぎゅうって抱き締めたあなるし。もっとくっつきたいっ。せやけど)
浮かれ気分に、急に影が差す。
(似古さん、色んなヒトの名前言うとったな…。全員元カレやろか?
特にシライて何回も呼んどったし。
モモとは言うてへんかったから。やっぱり百樹さんはカレシちゃうんやな。
そんでもって…モモカとは1回も呼んでくれんかったな…)
腕の中が窮屈なのか、似古が少し顔をしかめてもぞもぞ動くと。腰の辺りが触れて。
百架の雄がちょっと反応してしまって焦る。
「うっ」
急いで深呼吸を繰り返して、雄をなだめながら。自分に言い聞かす。
(トーナメント制やと思えばエエんや。
元カレとの過去がどんなんでも。1個ずつ上書きして行くしか無いし。諦めたらオワリや。
そんでテッペンの似古さんに届いたら。もお絶対離さへん!)
他の例え様が無いのかと思うけれど。
これまでHB一筋だった百架には、これが精一杯。
そしていつか、自分の腕の中で、自分の名前だけを呼んで貰う為に。
何をすれば良いのか、何が出来るのか。ゆっくりと考え始めた。
軽い頭痛がして、顔をしかめながら似古は目を開けた。
そして裸の身体のあちこちにベト付く感じがして、記憶を辿る。
(カラダの仕事…はちゃう。
ココはモモちゃんの店や。モモちゃんは…そおや怪我して病院行っとって。
昨日は百架くんが泊まって…)
そこまで記憶が行き着いて。一気に頭が沸騰する。
(うわーうわーうわーっ!そおや百架くんと何ンかそーゆー雰囲気なってもて)
そろりと後ろに手を回してみるけれど、使った感じは無い。
でも腿の辺りは特に汚れているから。色々と具体的に思い出してしまう。
始めこそ、似古の手で百架の雄をコントロールしていたけれど。
「はあ。めっちゃ気持ち良え…。こおしたら、似古さんも気持ち良えですか?」
そうしていつの間にか形勢逆転。
大柄な百架の身体に組み伏せられていた。
百架の手と舌は、似古の身体中を巡って感じるトコを探し出して。
限界ナシの体力に付き合わされてクタクタになって。
最後は、ぴったりと重ねた肌の間で擦りあって。一緒に果ててしまった。
その時には、自ら百架にしがみつき。強く強く抱き締めて貰っていたし。
喉もカサついているから。きっと恥ずかしい声をあげていたはず。
思わず似古は両手で顔を覆う。
(オレ、オレ…溜まっとったんやろか?
モモちゃんが苦しんで大変な時に。こんなコトしとる場合ちゃうのに)
カチャと店の裏ドアが開く音がした。
カサカサとコンビニ袋の音と共に、静かに引き戸が開けられる。
まだ寝とるんかな?そんな百架の独り言が聞こえるけれど。
似古は背中を向けたまま動けない。
そして台所の水音やコンロを点火する音。
「あ。割り箸貰うて来んかった。どっかに使うてエエ箸有るやろか」
箸を探すために、ガタガタと棚を開け閉めする音が響くので。
とうとう似古は布団から出た。とりあえず枕元にあったTシャツだけ着て。
「あ!似古さんっおはよおございます」
「うん…」
いきなり眩し過ぎる笑顔と挨拶を向けられて。似古はひるんでしまう。
「とりあえず。味噌汁とおにぎり買うて来ました。
何がスキなんか判らんで。色々買うてみたんで、どれでもどおぞ」
コンビニで普通に売っているおにぎりとインスタント味噌汁だけど。
濃い色合いのパッケージを見ると、似古に抵抗感が生まれてしまう。
「こーゆーの久しぶりや。塩分とか添加物多いし。モモちゃんの前では食べれん」
「じいちゃんも言うてました。
ばあちゃんが食事療法しとる時は、自分も色々気にしとったって。
我慢しとるヒトの前で見せびらかすンは良う無いけど。
あんまり一緒に我慢の沼に沈んでまうと。我慢比べになってもて。
自分のキモチでやっとるコトなんか。
相手のせいでコンナコトになっとるんか。判らんくなるて。
そおなると、お互いちょおキツイですよね。
せやから今日は解禁日言うコトにして。一緒にジャンク飯食べましょ。
つーかホンマはオレが、朝飯作れたら一番良えんやろけど」
嬉しいのと照れくさいのをテンコ盛りにして、百架は笑うから。
急に、苦い想いが似古の中で芽吹いてしまう。
(百架くんと一緒に居ると。
モモちゃんと一緒に居る時とは、別の自分になってまう。そんなんアカンやろ…)
ご機嫌な百架の隣で。黙って似古は引き出しを開けて予備の割り箸を出す。
そんな似古の腰を抱き寄せて、百架はその細い首筋にキス。
「ちょ。もおアカンて」
「何ンでですか?
オレ正に。初恋叶って、これからぐんぐん成長させたろて気合入っとるんですけど」
ぐい、と百架の顔が近づく。
それは真面目で真剣過ぎて、少し怒っているようにも見えて。
だから似古は、取り繕って来た表面にヒビが入るような気持ちになってしまう。
(オレ別に。モモちゃんに付き合うて我慢しとるつもりは無いし。
でもモモちゃんと居るためやったら。自分が合わせるつもりやし。
それに、そもそもオレ。
いっつも誰かとか何ンかとかに合わせんと。生きて行けんかったし。
フツーの生活出来へん言うんも。結局はオレが弱過ぎるからやし…)
もうはっきりと気付いている。
住む場所を変えて生活したって、それだけで新しく生きるコトには成らなくて。
今までの自分を変えなければ、いつまでも何処に居ても同じコトの繰り返し。
「でも。そんな、急に…切り替えられへん…」
似古はこんなに困惑しているのに。百架はやっぱり嬉しそうに応える。
「判ってます。
でも昨日も言うたけど、オレ待ちます。
昨日いっぱい身体くっつけたから。余計はっきり言えます。
オレ、似古さんが好きです。あんなキモチに成れるん似古さんしか居らんです」
「シャワー浴びてくる…」
色んな想いがこんがらがって。似古はふらふらと風呂場に向かった。
インスタントの揚げナス味噌汁は、キツイ塩味に感じてしまう。
「お湯もっと足しましょか?」
「お湯足しても、身体に入る塩分は同ンなじやで」
「あ、そおか。
この焼チーズおにぎり、めっちゃビミョーや。似古さんも味見してください」
「こっちのオムそばって。おにぎりにする意味有るんやろか」
わざと、しょーもない会話で空気を紛らわせてくれてるのかも知れないけれど。
今はそれくらいが丁度良い。
それに、ばくばくばくと3口でおにぎりを片付けてしまう百架を見ていると。
自分のウジウジとした囚われ事も、ばくんと飲み込んでくれそうで。
不思議と落ち着く。
(オレをスキ言うてくれるヒトが居るんは。
もしかしたら、めっちゃ幸せなコトなんかも知れん。
待っといてくれるヒトが居るんやったら。『今』を手放して『次』に行くことが出来るんかも。
でもソレって百架くんを利用しとるみたいやし。
あんな具合悪いモモちゃんから、よお離れられんし…)
会話が途切れて、似古の顔が陰り下向きになると。
すぐに百架はしょーもない話を織り込んでくる。
「似古さん、飯足ります?オレゆで卵やったら作れます」
「それは誰でも作れるで」
「いやいや。オレ殻剥くんも上手いんです。キレーにつるんて出来るんです」
「何んや、ソレ」
「さっき母ちゃんから電話ありました。百樹さん暫く入院になるそおです。
透析の方はじっくりやるだけやけど。肋骨が折れとって、ちょっと腹ん中傷付けとって。
母ちゃんの監視下に置くて、息巻いてました」
「そおなんや」
「百樹さんが言うには、体調悪なって店内でコケて。顔とか腹とか打ったんやて」
「ふうん」
「午後ンなったら面会出来るそおなんで。入院で必要なモン持って一緒に病院行きましょお」
「うん」
入院と聞くと、また孤独感がのしかかって来たけれど。
一緒に、という言葉は。特別な力を似古に運んで来てくれた。
入院用の病室に移動した百樹は、ひとりになるとスマホの電源を入れた。
自分がこんな状態なら、似古をどこかに避難させるしか無いと思うけれど。
どこに?どうやって?
それを考える前に、突然非通知の着信が鳴った。ごくりと唾を飲んで電話に出る。
「何ンとか生き延びたよおやな」
「あ」
竜さん、と名前を応えそうになって。言葉を飲み込む。非通知にはワケがあるはずだから。
「あいつらな、昨日の夜の便でカナダ経由でメキシコ向かうとるワ。
急がんと、国外へトぶんも難しなるから大慌てや。もお、おまえらのコトなんて忘れとる」
「え?」
「白井がメキシコシティのサーバー使うとったんや。その情報で3人釣った。
ちょうどロスで仕事しとるプロバイダーに、音源の違法流出でデカイ貸しがあったんで。
後始末は託しといた。
本部には、データ持ち逃げしたコトだけ伝わっとお。おまえらとの接触には気付いてへん。
何処まで白黒付けんのかは、本部が動くやろ。もお全部忘れえ」
「そんなコトまで…」
「あいつら、晶の顔見とるからな」
そして唐突に通話は終了。
百樹は頬の傷がちりちり痛むのを感じる。それは、流れ落ちた涙が沁みているからで。
「ほんまに。ありがとうございます」
震える声でスマホの真っ黒な画面に、いつまでも頭を下げていた。
入院受付へ行くと、母親の百枝が待っていてくれた。
「はい。ニコちゃん。
この入館証ぶら下げて、百樹の部屋行ったって。面会時間外でも入室出来るヤツや。
顔の怪我が腫れとってな、もお大笑いする程のオトコマエに成っとるから。よお見たって」
「そんな酷いんですか?」
「透析不十分で色素新着もあるんやと思う。ホンマに無茶するんやから」
そして、ふうとタメ息を付いて。母親は百架をじっと見つめる。
「百架、ほんまにエエんやな?」
「ん。何ンかイケそうな気ぃするねん」
「何やソレ」
2人の会話の意味が判らず、似古は不安そうな顔になる。
「まだ何んか有るんですか?」
「こないだ旦那がドナーになる為の検査受けたけど。クロスマッチ陽性でアカンかったやろ。
私は、過去に初期の乳がんやっとるんが不安要素やし。
そしたら百架が検査受けるて言いだしたんや」
「え?」
「オレめっちゃ健康体やし。父ちゃんみたいに、アスリート目指しとおワケちゃうし。
少々身体切ったって大した影響無いやろ」
「まだ検査も受けてへんのに、よお言うワ」
「でも、確か年齢制限が」
似古だって腎移植の可能性については何度も調べたことがある。
「ガイドラインはあるけどな。承諾書とか色んな手続き踏めば、未成年でも出来るんやて。
目の前にギリギリの家族が居るのに。年齢だけの理由で放っとけへんやろ。
それに。この腎臓1つで。百樹さんと似古さん2人の生き方変わるんやったら。
めちゃコスパ良えやんな」
「コスパ言わんとって!臓器に値段付けとおみたいやんか」
百枝は持っていたカルテ入力端末で、百架の頭をゴツっと叩く。
「ほら行くで。先生の説明聞いて、今日の内にいくつか検査もするからな」
「めっちゃ新鮮ピッチピチや。検査なんか要らん気ぃするけどな」
「あほ。移植したら、百樹にまでそのアホが移りそおや」
急な展開に呆然としている似古の手を、百架はきゅっと握って。
ちょっと頬を摺り寄せて囁く。病院のフロアで人目もあるから、コレが限界。
「似古さん。ちょっとだけ待っとってください。
検査と手術が終わったら。初恋の続きしてください」
「うん…」
それ以上の言葉は出て来なくて、ただ似古と百架はしっかりと目を合わせた。
百架と母親は、そのまま奥の検査室の方へ向かって。
似古はひとりぽつんと残されたけれど。でももう不安も寂しさも感じなくて。
ずっと淀んでいた、過去からの黒く重たい時間が。急に流れ始めた気がしていた。
新しい方角へ向かって。今のその先に向かって。
今度こそ本当に、生き直せるかも知れない。
そして頭の中ではいつも百架が言っていた言葉がリフレイン『待ちます待てます』。
「うん…オレも」
小さく呟いて。涙でぼやける百架の後ろ姿を、似古はじっと見送っていた。
それから1年後。
祖父宅の玄関では、仕事道具と宿泊荷物を揃えた百樹と百枝が迎えの車を待っている。
百枝が勤めている総合病院は、巡回診療船の協力病院なので。
毎年スタッフ入れ替わりで瀬戸内諸島を巡る期間がある。
しかも今回は新たにリモート診療を導入することになり、機器設置も同時に行う。
取引は大手メーカーでも、実作業は請負業者に依頼されるから。
『街の電気屋さん』百樹にも声が掛かった。
「ええなあ。青くて広い空と海。新鮮な海鮮料理。オレも行きたい~」
似古はムスっと拗ねるけれど、仕方無い。
「こっち残って受送信調整する役が必要やろ。次の機会にな」
「そんな何回も行くんですか?」
見送り側の似古の隣に立つ百架が、百樹に訊く。
「資料見た限りやけど。
施設の古さとか非常用電源とか環境がバラバラでな。1軒ずつ細かい調整が必要なんや。
運び込む資材もそれぞれ検討せんならんし。結構時間掛かるかも知れん」
「大変そおや」
「まあ。せやけど。
移動が増えても。泊りが長引いても。
そおいうコトがフツーに出来る身体んなったからな。
病院離れて海に出るやなんて。こんな自由を想像したコトも無かったんでなあ。
仕事でも手間掛かるんでも。ただホンマに。嬉しい」
百樹は百架をじっと見る。
移植手術を進める時に約束したのは『アリガトウは無し』。
「そん代わり、オレ。
似古さん争奪戦に参戦しますんで。オレが勝っても恨みっこ無しでお願いします」
「な、なに勝手なコト言うんやっ」
病室でのやり取りに、似古は真っ赤になって慌てたけれど。
だからと言って、貴重なドナーを拒否る訳にも行かないし。
何よりもう、百架に傍に居るのがアタリマエのようになっていた。
まだ素直にそうは言えないけれど。
「ほんなら行って来まーす!」
荷物を押し込んだ病院の車は、港目指して出発する。
「行ってらっしゃーい」
「土産忘れんなや~」
祖父とみたらしとずんだが見送る後ろで。百架はこそっと似古にねだってみる。
「あの。百樹さんが留守ん間、防犯の為にも。オレ泊りに行ってエエですか?」
「防犯て。百架くんが一番危険人物やん。それに合同チームの練習もあるやろ?」
相変わらずHB同好会は人数不足で公式戦には参加出来ないけれど。
高校選抜大会の合同チームとして、百架と雉場はほぼ固定メンバーだし。
HBスクールが登録しているクラブチームリーグでも、関西エリアではベスト10内。
スキナコトとして続けるには、十分過ぎる成績だし。
卒業後を見越して、社会人チームからも声が掛かっているから。
まだまだスキナダケHBを続けることが出来そうだ。
「せやから。練習終わったら真っすぐ店行きます」
「オレ仕事中や」
「待ってます。終わるまで」
「出た。ソレ。お得意やんな」
「そりゃあそおです。
似古さん怖がりやから。なかなか百樹さんから離れて、こっち来てくれへんし。
じっくり待つンは得意になりました」
「えー?オレのせいなん?」
妙に余裕有る風に受け流されると、似古はイラっとしてしまう。
それでなくても百架は、今では百樹より背が高く。HBで鍛えた筋肉質な身体。
初めて会った頃には、田舎の体育男子で。
自分のコトを眩しそうに、遠くから見ていただけだったのに。
いつの間にか、隣に居て。まっすぐに自分を見ている。
「何んか、上から目線やなっ」
「そおなんです。まだ身長伸びてますんで」
「経験値は低いのにな」
「そおなんです。せやから似古さん、もっと教えてください。
オレ、似古さんとしかシたくないんで」
いつの間にか。百架の指先が、似古の指を絡め取っていて。体温を感じるくらい距離が近い。
「待つン、ちゃうの?」
「はい。目の前で待ってます」