表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/44

第42話 誓いの口づけ



 鐘が鳴り響く。荘厳なその音は、今から結婚式が行われる事を、都市中に伝える大きな音をしている。その音色はただの鐘にはとても思えない神聖さを内包している。


 ハロルドには、既に両親は亡い。いつかマリアローズは、彼に入ると泣きながら叫んだ記憶をふと思い出し、胸が痛くなった。しかし現在、宰相閣下が代わりに、ハロルドの付添人をしている。自分達に氷の彫像展の招待状をくれて――今ならば分かる、後押ししてくれた温かい人だ。


 マリアローズの隣には、帝国に嫁いでいたため、近い場所にいた姉のミーナが立っている。歳の離れた姉は、久方ぶりの再会に、涙を流して喜んでくれた。


 それぞれ、付添人と共に歩き、祭壇まで進んでいく。

 途中でマリアローズは、クラウドの姿を見つけた。クラウドは楽しそうな顔をして、マリアローズとハロルドを交互に見ると、口角を持ち上げてニッと笑った。マリアローズは知らんぷりをして、真っ直ぐに前を見る。


 祭壇の向こうには、一段高い場所に、ヨシュア師が立っている。その顔には、柔らかな微笑が浮かんでいた。それに安心して、マリアローズは祭壇の前で立ち止まり、同じ速度で歩いてきたハロルドと向き合った。付添人は、そこで離れた。


 燭台の焔が揺らめく中、ヨシュア師による、結婚式で唱えられる祝詞が読み上げられていく。その間、マリアローズはずっと、じっとハロルドのサファイアのような瞳を見ていた。ハロルドもまた、力強い瞳で、こちらを見ているのがマリアローズには分かった。


 これから、一生をかけて大切にする相手。


 義母となった前正妃様に言われるまでもない。マリアローズは、ハロルドを幸せにすると決意している。


「――それでは、誓いのキスを」


 ヨシュア師の言葉で、マリアローズは我に返る。すると、一歩前に出たハロルドが、マリアローズのヴェールをゆっくりと持ち上げ、後ろに流した。そしてマリアローズの顎に触れると少しだけ持ち上げて、己は屈んで首を傾ける。


 幸せに浸りながら、ゆっくりと目を伏せたマリアローズは、そのすぐ後に、柔らかな感触を覚えた。心と心が、改めて通じ合ったような気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ