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第32話 泳ぐ時計


 さて、翌々日。

 マリアローズは、ハロルドの掌に指をのせ、馬車から降りた。目の前には、建設中の王立学院の建造物がある。敷地や広さを、実際に目で見て確認した方がよいというワーク侯爵の勧めで、二人は時間を作って足を運んだのである。非常に高く、時計台がついている。


「あの時計台の鐘が、講義の開始と終了を告げるのね」


 計画案を思い出しながらマリアローズが述べると、静かにハロルドが頷いた。

 丁度その時、鐘の音がした。

 するとハロルドはふと思い出したように口を開く。


「マリアローズは、王都中央時計台には行ったことがあるか?」

「無いわ。名前も今初めて聞いたわ」

「ここの視察が終わったら、行ってみないか?」

「ええ」


 そんなやりとりをしてから、二人は建設を担当しているダークエルフ達に挨拶をした。この学園では、異種族も受け入れる事になっている。丁寧に説明してくれる彼らの話に、二人はじっくりと耳を傾けた。


 こうして説明を全て聞き終えてから、二人は馬車に戻り、王宮に戻る予定を変更すると御者に告げた。ハロルドが、『王都中央時計台に頼む』と述べた時、何故か御者がにやけたが、マリアローズはその意味が分からなかった。ハロルドは斜め上を向いていた。


 王都中央時計台に到着したのは、夕暮れ時の事だった。

 馬車を降り、二人は時計台の中へと入る。そしてマリアローズは感嘆の息を吐いた。魚の形をした時計が泳いでいたからだ。時計台の一階全体が、まるで海の中のようで、海藻なども壁際で揺れているように見える。幻想的な光景に、マリアローズは満面の笑みを浮かべた。


「すごい! すごいわ! 見て、ハロルド! 時計が泳いでるわ!」


 興奮した様子で、マリアローズがハロルドの腕を掴む。そして右腕で抱きしめるようにしながら、左手であれやこれやと指さしながら、正面の階段まで歩いた。ハロルドが照れくさそうに時折マリアローズを見ていた事に、彼女は一切気がつかなかった。


 階段を上がる事になった時、今度はハロルドがマリアローズの手を、ギュッと恋人繋ぎで握った。ドキリとしたマリアローズは、慌ててハロルドを見たが、彼は前を見ていた。


 ――恋人、いいや婚約者なのだから、手を繋いでいるのを見られても構わないのだ。


 そう思い直し、マリアローズもまた、ギュッと指に力を込めた。

 二人はそのように歩き、二階へと到着した。

 そこからは壁に螺旋階段が取り付けてある形で、塔の一番上の大時計を動かす巨大な歯車動いていた。初めて見る機械に、再びマリアローズは大興奮した。そんなマリアローズを、ハロルドは終始愛おしそうに見つめていた。


「マリアローズ」

「なんです?」


 マリアローズの散策が一段落した時、ハロルドが声をかけた。

 首を傾げた彼女と繋いだままだった手を引き、足がもつれかけたマリアローズをハロルドが抱き留めて、その後抱きしめ直す。


「民草の間で伝わる民間伝承で、ここでキスをすると、生涯愛しあえるというものがあるんだ」

「っ」

「嫌か? 嫌なら――」

「私もキスしたい」


 マリアローズが勇気を出して告げると、ハロルドが虚を突かれたような顔をした後、破顔して、マリアローズをより強く抱きしめた。それから彼女の顎を持ち上げる。どんどん近づいてくるハロルドの端正な顔に惹き付けられるようになってから、ゆっくりとマリアローズは目を伏せた。





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