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第13話 棒グラフの見方


 ――仔猫を追いかけた事もあったなと、懐かしい夢を見て目を覚ましたマリアローズは、すぐに夢の輪郭がぼやけ、消えてしまったと気づいた。夢とは不思議なもので、視ている時は現実感があるのだが、目を覚ますと忘れてしまうことが多い。


 その後、マリアローズは天蓋付きの寝台から降りて、欠伸をしながら《魔法の鏡》の前に立った。


「鏡よ、鏡。この国で一番美しいのは誰?」

『それは、ハロルド陛下でございます』


 今日も通常運転の鏡の言葉に、はぁと溜息をついて肩を落とす。

 それから身支度をして、今日も今日とてマリアローズは、ハロルドの執務室へと向かう。昔は王宮への道は閉ざされていて遠く感じたのだが、今では慣れてしまった。


 もうすぐ冬が来る。

 そのため、現在は冬への備えが課題であるし、様々な検討をする事が急務だ。

 改めてそう考えながら、執務室の扉をノックし、返事を待ってから中へと入る。

 すると難しい顔をして、ハロルド陛下が一枚の紙を見ていた。


「どうかなさったの?」

「これを見てくれ」


 ハロルド陛下がその紙を差し出したので、マリアローズは受け取る。そこには縦軸に魔石の産出量を記し、各鉱山ごとに並べた手書きの棒グラフがあった。


「すごいわ! こうすると、ひと目で何処の鉱山が多く採れたのか分かるわね」


 画期的な案だと思い、マリアローズは笑顔を浮かべた。

 するとハロルド陛下は呆れかえった顔をした。


「そこじゃない。マリアローズ様はお馬鹿さんなのか? そうだな? ああ、知っていた」

「な、なによ!」

「グラフが出した結果を見て欲しかったんだ、俺は」


 そう言われて、それもそうだと思い直し、まじまじとマリアローズはグラフを見る。

 結果、一カ所だけ極端に産出量が少ない鉱山があると分かった。


「ここ……少ないわね。去年の五百分の一しか採れていないみたい」

「そうなんだ。宰相閣下が調べろと言うから調べてみたら、結果がこれだ。マリアローズ様が楽しそうにクラウド殿下と庭でお喋りをしている間、俺はきちんと仕事をしていたものでな」

「そう。仕事をするのは当然なのだから、偉くもなんともないけれど」


 それを聞いたハロルドは片眉を顰めてから、吐き捨てるように息をついた。

 しかし気を取り直したように続ける。


「だが理由が分からない。そこで視察を検討している」

「良い案ね」

「ただ、理由の調査だとおおっぴらに公言するのは躊躇われる。従事しているのは、他種族のドワーフだ。あまり刺激したくない。ただでさえ、嘆願書が送られてきた件もある」


 マリアローズは頷いた。宰相閣下と話した際の事を回想する。

 その前で、ハロルド陛下が言葉を重ねる。


「そこで、近くに聖ヴェリタ教の大聖堂があるから、そこに礼拝に行くという名目で向かい、近隣にある鉱山も視察の一環で赴くという理由付けをする。本来、大聖堂には、貴婦人が寄付に行く。慈善事業を行うのは女性だ。そこでマリアローズ様に同行してもらいたい」


 納得してマリアローズは大きく頷いた。


「ええ、構わないわよ」


 このようにして、二人は視察に行くことに決まったのである。






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