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 夢を、見ていた。


「いいか、緋蓮。お前はこの人達についていくんだ」

「そうすれば綺麗な服をいくらでも着れるし、おいしいご飯をいくらでも食べれるのよ。お前も、私達も、幸せに暮らせるの」


 そう言い聞かせてくる両親の顔は、闇に沈み込んでよく分からない。だが二親(ふたおや)(おび)える緋蓮(ひれん)を見て(いや)らしく笑っていることだけは分かった。


「いや……っ! いやだよ、ととさま、かかさまっ! あたし、おなかすいても、ボロをきても、ととさまとかかさまといっしょにいたい……っ!」


 夢の中にいる幼い緋蓮は泣いて嫌がったが、緋蓮の家にやってきた大人達は容赦なく緋蓮をぼろ屋から引き離す。そんな緋蓮を、二親も笑顔で見送った。


 貧乏に(まみ)れ、日々の生活に困る有様でありながら、それでも働く気を起こさなかった両親。


 そんな二人の前に緋蓮を譲り渡す報奨金として多額の金子が積まれたのだと知ったのは、月天(げってん)に入ってすぐのことだった。一乗院(いちじょういん)の関係者はみんな緋蓮の耳にそのことが届かないように気を配ってくれていたが、噂はどこからともなく聞こえてしまうものだ。


 緋蓮は、売られたのだ。


 緋蓮の両親は、ずっと忌み嫌っていた緋蓮の炎髪紅眼が金になると知って目がくらんだのだろう。きっとふたつ返事で娘を売ったのだろうと、緋蓮は齢五つで淡々と理解した。


 理解して、もう会うこともないだろうと、記憶の中から二親の顔を消した。


「あぁ緋蓮、お前、緋蓮なんだろう? 見違えたねぇ」

「そんないいナリをしてるんだ。たんまり銭も持ってんだろう!?」


 だから再会した時、すぐにはその男女が己の両親であると理解することができなかった。


「あの時もらった銭がもうないんだよ。少なかったんだ!」

「あぁ緋蓮、私達はお前の生みの親なんだよ? まさか見捨てるなんて言うわけないわな。さぁさぁ銭を恵んでおくれ!」


 あれは月天に入って三年目の夏。


 あの年も選抜試験が行われていて、緋蓮は選抜試験が終わり、晴れて正式に修行生となった者達に施される初祓(はつはらい)の儀に参列するために外に出ていた。


 緋蓮を売って手に入れた巨額の金子をすべて使い切り、悪鬼か(むくろ)かと錯覚するような様相で月天までやってきた両親は、護衛も御付きの隊列もすり抜けて緋蓮の前に身を投げ出した。


 やつれて骨と皮だけの姿になり果てながらも、緋蓮の元へ辿り着けさえすればまた金子が湧いてくるとでも思っていたのだろう。二人は目をギラギラさせて緋蓮のことを見ていた。あるいは迦楼羅(カルラ)の生みの親として大きな顔で月天に住み着こうと考えていたのかもしれない。


 ──……あの時私は、二人をどうしたんだっけ?


 ……その結末を、緋蓮は思い出すことができなかった。


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