自称シンデレラ006
「花子お義姉ちゃん、向こうにいるおじちゃんが呼んでるよ」
将来有望な悪女の義妹、千晴がゴツイおっさんを指差します。
自称シンデレラの顔色が真っ青になっていきます。
「これがきっかけで内戦が起こったら・・・」
被害妄想が激しいですね。
どうやって内戦を起こすんでしょうか。
しかし、必死に靴箱を漁ってる継母の姿は滑稽です。
見苦しいものです。
自称シンデレラも、その姿を見た途端咄嗟に目を逸らしました。
「ど、ど、ど、どうしよう!あの継母まさか私を売るつもり?!それに、この家にもうあの片割れがあることが判明してるの?!」
自称シンデレラ動転しすぎです。
そばで自称シンデレラの百面相を眺めていた義妹が助言してあげます。
「花子お義姉ちゃん・・・いつまでも隠せるわけじゃないんだから、早くしたら?」
自称シンデレラは戸惑います。
所詮こいつも継母の手先だという思いと、確かに早く見つかって軽い罪の方が良いなぁという思いに悩まされてます。
自称シンデレラは、自室のゴミ箱から折れたミュールを拾い上げ、玄関へ向かいます。
「はい。あんたの探してるのは、これでしょ?もう何処にでも連れて行きやがれ!」
自称シンデレラが自暴自棄に言い放つと、ゴツイおっさんは目を見開きます。
ゴツイおっさんはそれがきっちり合うか確認すると、一度だけ頷きました。
「宜しいのですね?それでは早速・・・」
そう言ってゴツイおっさん自称シンデレラを連れ出し、いかにも金持ちそうな真っ黒な車に乗せます。
自称シンデレラも腹を決めて本来の悪人面に戻ります。
これこそが自称シンデレラの本性ですね。
実に似合ってます。
「あぁ、私のシンデレラストーリーもここまでか、無念・・・」
自称シンデレラの呟きが聞こえたのか、ゴツイおっさんが運転しながら答えます。
「シンデレラストーリー、ですか?それはきっと正しく貴方の様な事を言うのですね」
ゴツイおっさんの発言に自称シンデレラは困惑します。
ゴツイおっさんが初めて自称シンデレラのシンデレラごっこに付き合ってくれたからでしょうか?
「何言ってんの?あんたは私をこれから処刑場に連れて行こうって言うんでしょ?」
自称シンデレラの攻撃的な物言いに、ゴツイおっさんが肩を震わせて笑ってます。
ゴツイおっさんは外見と行動があってませんね。
今の自称シンデレラとは大違いです。
「処刑場というよりは、お家自慢の大好きな紳士と自分が一番美しいと勘違いする淑女の舞踏会に、ですね」
自称シンデレラの思考がストップしました。
待ちに待った舞踏会への入り口にようやく辿り着いたのですから。
今回ばかりは自称シンデレラの勘違いじゃないです。
ゴツイおっさんは言い募ります。
「中々ご主人様のお眼鏡に適う様な伴侶が見つからなくて、困っていた所だったんですよ」
何か微妙に愚痴られてる気がしますが、自称シンデレラは一応聞くつもりのようです。
「昨日はご主人様自らが探しに行くと言って聞かなくて、止むを得ず外出したら偶々見た目も麗しく、一つひとつの仕草さえ優美な肝の据わった図太い神経を持つ娘がいると、泥のこびり付いている折れたミュールの踵を持って嬉々として語り、私たちに探すように命令したのです」
自称シンデレラはその時のことを思い出したのか、真っ青になってます。
過去の事をいつまでも引き摺るなんて面倒な人ですね。
「訊けば、とある交番の警察官からは、遊園地まで迷子の美少女を送ったとか、送った途端悠然と遊園地に入っていく後姿はまるでただの迷子ではなくわざと軽傷を負って救急車をタクシー代わりに使う手練の様だったと熱く語られ、とあるタクシー会社の運転手からは、玄関先で昼ドラみたいな家族愛のドラマを10分前後見て、その後がまるで何事も無かったかのように楽しそうに会話の弾む家族がまるで悪魔の集団に見えたとか恐怖に慄いていたと、ぼそぼそと語られましたよ。そんな感じで、あなたの家族にいる誰かと判明したわけです。」
そうですよね。
普通あんな目立つ事をすれば、誰だってすぐにわかりますって。
あ、自称シンデレラが俯いたまま肩を震わせてます。
まさか家族が無情すぎて泣いているのでしょうか?
「残念だったな、継母よ。私は見事に真のシンデレラと成り得たのよ。待ってなさい、これから嫌という程愚弄してやるわ!シンデレラとして!」
自称シンデレラが車内で高らかと宣言します。
その姿はまるでこれから戦いに出向く一人の孤高な戦士のようです。
ゴツイおっさんなんか微妙に引いてますよ。
今更気付いたんでしょうか、この自称シンデレラの奇異さに。
でもその勢いは止まりません。
何たって彼女はシンデレラなのですから。