自称シンデレラ005
遊園地に着くなり、自称シンデレラはとても迷子とは思えない程あっさりと若い警察官に別れを告げ遊園地に入ります。
若い警察官は暫く呆然と立ち尽くしていました。
「魔法使いや南瓜の馬車は手に入らなかったけど、警官とパトカーのおかげで何とか無事に舞踏会に間に合ったわ。あの家族が家に帰るまでには帰らないといけないけど、まずは王子探しね!待ってなさい、私の王子様!」
何と言うことでしょう。
自称シンデレラは、魔法使いの代わりに初老の警察官を、ハツカネズミの代わりに若い警察官を、南瓜の馬車の代わりにパトカーを利用したのです。
いつの間に考えたのでしょうか。
謎ですね。
この自称シンデレラには謎が多いです。
「それにしても・・・駄目ね、この舞踏会。誰も私の美しさに見蕩れないもの。これは舞踏会じゃないのかしら?」
利己的な自称シンデレラです。
それにここは舞踏会じゃないですし、遊園地だって何度も言ってます。
自称シンデレラも交番で確かに遊園地って発言してたくせに都合よ過ぎですね。
自称シンデレラは、不意にステージらしき場所に目を向けました。
人が集まってます。
「一体誰がこんなに人を集めてるのよ・・・」
悪態を吐きつつもステージを見ると、自称シンデレラが愕然としました。
「だ、誰よ、あいつ!私より美しいだなんて・・・これは、まさか!運命の白馬に乗った王子様!」
自称シンデレラの王子像には追加オプションとして、運命と白馬が付いてるようですね。
この辺の勘違いは許されるのでしょうか?
「でも、どうやって近づこうかしら?本来なら王子から近づいてくるはずだけど・・・」
一向に自称シンデレラの元に来る気配がしません。
それどころか眼中にも入ってないようです。
「駄目か・・・作戦を練り直すしかないわね」
自称シンデレラが落ち込んで、ベンチに座って作戦を練っていると声をかけられました。
不機嫌な自称シンデレラは振り返って相手を睨みつけます。
「今忙しいのよ、邪魔しないで!・・・・・・・あ」
そこには先程まで人目を集めていた自称シンデレラの運命の白馬に乗った王子様です。
さすがの自称シンデレラも絶句しています。
突然の出来事で言葉が出ません。
金魚みたいに口をパクパクしちゃってます。
自称シンデレラの脳内では、後悔と期待が鬩ぎ合っています。
「ご、ご、ご、ごめんなさぁーいいいい!!!!」
逃げました。
自称シンデレラ、脱兎の如く逃げ出してしまいました。
自称シンデレラが立ち上がった瞬間なにやら耳障りな物が折れるような音がしましたが、自称シンデレラはそんな事に形振り構っていられなかったようですね。
呆然とする自称シンデレラの運命の白馬に乗った王子様と泥がこびり付いているミュールの踵だけがその場に取り残されていました。
「ついに、やってしまったわ・・・ミュールを置いていけばよかったのに、いや、この際履き捨ててでも良いからやって置けばよかったのに・・・私の馬鹿。慌てて立ち上がったものだから踵の部分が遠慮なく折れちゃったじゃない!恥曝しもいい所よ!どんだけ私は重いのよ!・・・まぁ、今更何か言っても変わらないし、仕方ないか」
落ち込みながら自称シンデレラは家路に着きました。
翌日。
自称シンデレラの家に折れた泥のこびり付いたミュールの踵を持ったゴツイおっさんが現れていました。
自称シンデレラは、玄関にいるゴツイおっさんから隠れるように見ていました。
「どうしよう。あれ、私のだわ。もしかして、折り逃げしたことを怒ってるのかしら?不法投棄したのが見つかって罰金?少年院?刑務所?裁判とかはめんどくさそうだなぁ」
着眼点がずれている以前に論点のずれている自称シンデレラは、暫くしてまともな考えに至ります。
「もしかして、昨日の王子は実は超偉い人で、私凄く無礼なことしたんじゃ・・・」
八つ当たりして逃げたことですね。
ただ声をかけただけなのに、運が悪かったんですね。