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第三話 部品探し

 「お前、何なんだよ!アタシになにしやがった!」

 滅多に人が通らない様な路地裏。そんな寂しげな場所に怒声が響く。アンと呼ばれる少女は俺を壁に押し付けながら胸ぐらを掴む。着いてこいと言われてここまで来たが、ここまで恨みを買う様な事をした覚えは無い。

 「言っている意味がわからない。俺が何をしたんだ

?」

 そういえば目覚めた時も彼女は怒っていた。思い当たる節があるとするなら彼女の持っていた銃を勝手に使った事だろうか?魔導二輪(フロートバイク)については現状どうなっているのか分からない。

 「はぁ?お前が何かしたから髪は伸びたし変な夢も見たんだろ!?おまけに喋れなかった癖に今は普通に話せてる!ちっ、やっぱりお前なんか助けるんじゃ無かった!」

 「・・・その髪は俺のせいなのか?それに変な夢?」

 「そうだ!ウチみたいに子供ばっかりの場所で怒鳴られながら殴られたり、お前が着てた服を着てる奴らばっかりの場所でひたすら光る板みたいな奴を叩いてたり!」

 「・・・もしかして俺の記憶か?いやまて、そんな事があるわけないだろ。他人の記憶を垣間見るだなんて。・・・一旦落ち着こう。順を追って話させくれ。な?」

 「・・・・・ちっ。」

 どうにか胸ぐらから手を離しては貰えたが、不機嫌なのは変わらず腕組みをして睨みつけられている。

 「先ず俺はあっち側の世界の住人らしいな?俺は小さな頃に両親を失った。それからは血の繋がってない子供達を集めて面倒を見る児童養護施設って所で育った。でも管理してる大人達が最悪でな。施設内じゃ随分と酷い扱いしか受けなかった。大きくなったらそこから逃げるように会社・・・つまり仕事に就いた。けど碌な育ち方をしてなかった俺にはマトモじゃない会社にしか入れなかった。とまぁ、それから馬車馬みたいに働き続けてたら体を壊したみたいでな。散々貢献した筈なのに、体を壊した途端にクビだ。それで生きる意味も無くなったから自殺したんだ。いや、した筈だった・・・か。そこからはあんたの方が知ってるんじゃないのか?」

 「・・・今はなんで話せてる。」

 「それは俺にもわからない。最初にお前さんに会った時は全く理解出来なかった。だがあの家で目覚めてからは違和感無く聞き取れてるし話せてるな。どうなってるのか俺が知りたい。」

 言語に関しては本当に謎だ。まさか意識を失っている間に聞き流した睡眠学習・・・な訳は無いのだろう。だが改めて意識してみると不思議な感覚だ。確かにこの口が喋っているのは見知らぬ言語だ。しかし意味や意図は自然に理解出来る。そう、これはまるで頭の中に翻訳機でもある様な感覚だ。

 「俺からも聞いていいか?」

 「なんだ?」

 「小鬼に襲われた後に何があったんだ?」

 「・・・驚いた。」

 「なに?」

 「だから、驚いた。小鬼は頭が無くなってるし、見知らぬ奴は血まみれで倒れてるし、銃は撃ったみたいだったし。撃てるはず無いのに。」

 アンは不貞腐れた様に話す。

 「確かに何発も不発だったな。でも光みたいなのが出たぜ?」

 「だから!撃てないんだよ!この世界じゃ!その後はなんとか魔導二輪(フロートバイク)に括り付けて帰ってきた。」

 「で、あの家に運んでくれたと。ならあの重症が綺麗に治ってた理由はなんだ?そういう薬でもあるのか?」

 「あんな深手を治す薬なんてあるわけないだろ!あったとしても高すぎて買えるわけないし。」

 「そうか・・・傷が治って、言葉も分かるようになって、髪が伸びて、俺の記憶を夢に見た。なにか関係がありそうだが・・・さっぱりわからん。」

 「あぁ・・・もう!」

 フードに手を入れて頭を掻きながら不機嫌そうに唸るアン。

 「用事は終わりか?」

 「どういう意味?」

 「いや、俺から色々と聞きたかったんだろう?でも俺は何も知らなかった。だからもう用は済んだだろ?もう会うことも無いだろうし、とりあえず謝っておく。悪かった。後は・・・そうだな。コンラッドさんにも感謝してたって伝えてくれ。それじゃあな。」

 彼女は生きて帰ってこれた。俺にとってはそれだけでいい。後は冥土の土産に異世界をぶらついて、適当な場所で死んでやるだけだ。どうせあの時に川に落ちて死ぬはずだった。それだけ今の自分には中身が無い。

 「待て。まだ用事は済んでない!」

 「はぁ?」

 背を向けて数歩進んだ時だった。背中の服を掴まれる。

 「こっちだ。早く着いてこい。」

 どうやらまだ死ぬ時間では無いらしい。だがせめて何をするのかぐらい言って欲しいものだ。等という不満は飲み込んで大人しく彼女の後を着いて行く。空は相変わらず分厚い雲に覆われていた。例え世界が変わっても、曇模様の空はどこか気分が上がらないのは同じみたいだった。







 「クレス!アタシの二輪(バイク)どうだった!?」

 「おぅよ!残念なこ・・・・・・お前アンか?」

 「失礼な奴だな。いつものヘルメットは壊れたから仕方ないだろ。あぁ、そうか。いつもあの格好だったか。」

 「悪かったって。それでな、交換が必要なパーツがいくつかあったよ。」

 アンに連れられてやってきたのは小さな町工場の様な場所だった。似たような工場が何件も並んでいる。そんな建物の奥にはうず高く積まれた金属廃材の山が鎮座している。出迎えてくれたのは作業服姿で金髪の好青年だ。クレスと言うらしい。

 「ちょうど在庫切れでね。探してくるしか無いんだ。」

 「なんとかなる。今日はコイツもいるし。」

 「えっと・・・どちらさんで?」

 「・・・俺は

 「昨日連れてきた奴。そうだお前感謝しとけよ。ウチまで運んだのクレスだから。」

 「昨日?えぇー!?あの血まみれだった人かい?」

 クレスは驚愕といった様子だ。いや、まぁそうなるだろう。血まみれの死体みたいな奴が一晩明けたら元気になって訪ねてくるなんてホラーだ。

 「なら行くぞ。サ・・・サト・・・サカ・・・!サカモト!」

 「サダモトな?」

 工場の裏手に周ると廃材の山が姿を現す。乱雑に積まれて不安定だ。

 「この山から探すのか?」

 「当たり前だ。アタシが稼がなきゃチビ達に食わせていけないだろ。」

 「あぁ・・・そりゃ手伝わなきゃならないな。何を探せばいいんだ?」

 「これ。たぶん魔導二輪(フロートバイク)の残骸を探した方が見つかる。」

 アンの手の平には三つの小さな部品があった。どれも見たことが無い形状をしている。

 「分かった。離れると部品の確認出来ないから、お互いに離れ過ぎない様にしよう。」

 「へいへい、んじゃあ〜あの辺りから探すぞ。」

 アンが指した辺りのスクラップ山にはいくつか魔導二輪(フロートバイク)の残骸の様な物があった。不安定な足元に注意しながら廃材を漁っていく。

 「・・・どうしてコイツに乗ってるんだ?」

 廃材漁りの最中、ふと思い付いた疑問をアンに投げかけた。コイツというのは足下に転がっている魔導二輪(フロートバイク)の残骸だ。

 「・・・どういう意味?」

 「いや、どうって・・・危ないだろ。それにコイツを使ってどうやって稼ぐんだ?」

 「飛んで行って、ガラクタ集めてきてここに売るんだよ。ここの親方とか皆には可愛がって貰っててさ、本当ならこの部品だって高い金払わなきゃいけないんだ。それに、こう見えて掘り出し物見つけるのは結構上手いんだぜ?」

 アンはここといって下を指差す。スクラップを集めて売る。なるほど、それはあっちの世界でもよくある仕事だ。

 「なら乗ってたやつもここで組んで貰ったのか?」

 「あれはコンラッドのやつ。無理言って使わせてもらってる。」

 「へぇ〜、コンラッドさんが・・・。あんまり想像はつかないな。」

 あの母性溢れる彼が、昔はブイブイと乗り回していたなんてイメージが沸かない。しかし機体のサイズが彼の体格に合わせてあるのは納得できた。

 「おっ、こいつか?なぁアン、このパーツで合ってるか?」

 「見せてみろ。・・・・・・うん、まだ使えそうだ。こっちもまだ使えるな・・・後でクレスに言っとくか。残りはコアパーツの近くの部品だな。よしサダモト、コアパーツを探せ。」

 パーツを発見した。回路基板の様な物だ。残念ながら他の二つのパーツは近くには無かった。どうやら使われている場所が違うらしい。

 「コアパーツってのはどういう部品なんだ?エンジンじゃなくてか?」

 「えんじ・・・ん?何だそれ。コアパーツはコアパーツだろ?液の中に魔石があるやつ。」

 液とは・・・バッテリーの様な物だろうか。実物を見なければいまいち想像がつかない。だが、恐らくは本体と一緒の状態で放棄されているはずだ。なんとかなるだろう。

 「ふむ、探してみるか。そういえばなんだが、どうしてこの世界にはゴミが溢れているんだ?俺がいた世界にもゴミが溢れた地域みたいなものはあったが、こっちのは規模が違いすぎる。見渡す限りゴミの平原だぞ?」

 「アタシも全部は知らない。物心ついた頃にはこれが日常だったし。でも悪いのは中央の奴らだ。」

 「中央?」

 「六つの国があんだよ。真ん中に一つ。それを取り囲む様に五つ。この国だって取り囲む国の一つだ。他の国には行ったことねーけど。むか〜しに真ん中の国が戦争始めたらしくて、今じゃ全部の国を統一してどデカい壁を拵えて優雅な生活をしてるって話だ。散らかされてるゴミ山は、全部が中央の奴らが出してるゴミなのさ。あいつ等にとっちゃ自分の庭先まで綺麗なら良いんだよ。それに・・・いたいた。あいつら見えるか?ほら、二人共似たような鎧みたいなの着てるだろ?」

 アンが指差す先。スクラップの山の向こう、民家が並ぶ道には銃に似た物を持って歩く二人組の男達がいた。軽装ではあるがバイザー付きヘルメットに体を守るプロテクターの様な物を身に付けている。

 「いるな。」

 「あいつらは中央から来てる兵士だ。アタシらみたいな奴らが問題を起こさないか見て回っているんだ。実際は適当にぶらついて、適当な奴で憂晴らしして酒飲んでるだけのろくでなしだけどさ。」

 彼女の言い方や仕草には、あの兵士達に対する嫌悪や蔑みが含まれていた。余程嫌われているのだろう。

 「あっちもこっちも、大して変わらないもんだな。」

 世界は違えど、人という生き物はそうなるらしい。いつの間にか考えたことを口から漏らしてしまっていた。

 「おいサダモト!コアパーツだ。ここに埋まってるから手伝え!」

 しばらく探しているとアンからお呼びがかかる。後ろ半分が溶け落ちた様な残骸だ。外装が剥げた機体には淡い緑色の光を放つ部品がある。四角くい容器に透明な液体が満たされていて、透明な覗き穴から緑色の光る石が確認できた。こんな物は見たことが無い。

 「いいか?ここに刺さってるパーツと、ここのパーツだ。本当は中の液を出してからやらないと危ないんだけどまぁ大丈夫だろ。魔石も切れかけだし。」

 「危ないって・・・何が起きるんだ?」

 「そりゃ爆発するだろ。」

 「爆発って・・・本当に大丈夫なのかよ。」

 「いいから!ちょっと抑えておけって!」

 横倒しになっている本体を起こして、再び倒れてしまわない様に両手で抑える。やはりガソリンを使うエンジンよりも車体が軽い。

 「こうか?」

 「あ〜、もうちょい奥に倒してくれ。そうそう・・・そのまま・・・・・・」

 注文通りに車体を傾ける。アンはどこから取り出したのかドライバーの様な器具でパーツを取り外し始めた。

 「・・・うん?あ〜っと・・・ちょっといいか?」

 「見て分かんだろ?集中してるとこ。」

 「いや、それがだな?」

 「しつこいぞサダモト。女に嫌われるぞー。」

 「はぁ・・・タンクの中にある石がさっきより光ってるんだが危なくないのか?オマケに泡立ってきてるし。」

 「よし、取れたっと。サダモトお前ふざけるならもっとマシな冗談を・・・・・・はぁぁぁぁぁっ!?」

 「うおっ!?」

 部品を取り外し終えて立ち上がったアン。彼女がタンクの覗き穴を見た瞬間、驚愕の声をあげたのだった。

 「サダモト!逃げろ!爆発するぞ!」

 「さっきしないって言ってなかったか?」

 「知るか!もういつ爆発してもおかしくないんだよ!さっきは切れかけてたのに!ほら早く!」

 「「あっ・・・」」

 アンが俺の腕を掴んで力強く引っ張った。無理矢理にでも避難させようと思った結果だろう。俺の両手は不安定な機体を支えていた訳で、それを急に剥がされれば勿論だが倒れてしまう。まるで映画のギャグシーンの様だが当人達にとっては全く笑えない。幸いにも体は動いてくれた。アンを抱きしめながら少しでも離れようと走る。刹那、背後から強烈な緑色の閃光と爆発音が迫ってきた。強い衝撃波に体を押され、弾き飛ばされるようにスクラップの上を転がっていく。

 「大丈夫か?くそっ!どうなった?」

 爆発音によって強い耳鳴りがする。ぼんやりとは聴こえてはいるので鼓膜は破れていないようだが聴覚が当てにならない。すぐに抱え込んでいたアンを離して傷が無いか探る。状況が飲み込めずに混乱している様子だが怪我は無いようだ。次は周囲の確認だ。見回してみるのだが当然ながら不安定だったスクラップ山は崩れてしまっていた。かなりの高温になったのだろう。爆発地点には赤く溶けた金属があり白い煙があがっている。。兎にも角にもスクラップ山が崩れてきて押し潰される危険は無さそうだ。

 「なんだ?今!耳が!聞こえない!腹?俺の腹か?」

 股の下に横たわっていたアンが何か騒いでいた。しきりに腹の辺りを指差す。やれやれと視線を下に持っていけば・・・自分の腹には立派な鉄パイプが生えていたのだった。

 

 

 

 



 

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