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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

機械仕掛けのサンタクロース

作者: 大郷寺かぴばら(KI・KI)

初冬のとある田舎の一軒家。

祖母と娘夫婦、幼い娘が同居している。

夜9時になろうとしている頃、

「さあ、子供はそろそろ寝る時間だよ、ベッドに入っておやすみしようね」

「おばあちゃんがおはなししてくれたらねるー」

「仕方ないねえ」

言葉とは裏腹ににっこりと微笑む祖母を連れ立って自分の部屋に行く娘。

幼い娘はベッドに潜り込む。

「えほんのおはなしじゃないのがいいー」

その言葉を聞き、少し考え込む祖母。

優しく、穏やかな空気が流れる。

「今日は彼の話しをしようかね」

「かれー?」

「そう!彼はロボットの兵隊さんだったの」

「へいたいさん!」

「彼は戦争の為にたくさん作られたロボットの兵隊さんの一人。とんがり帽子をかぶったような姿をしていたから『とんがり帽子』って呼ばれていたのね」

「とんがりさん!」

「そのとんがり帽子さんのお話しをしようかね」

「うん」

「とある国がお隣の国に戦争を始めました。その戦争は何年も続いていましたが、とある国は負けそうになっていました。

そんな時、とんがり帽子さんが作られました。とんがり帽子さんはたった一人でたくさんの兵隊さんと戦っても負ける事はありませんでした。

そのとんがり帽子さん達が戦争に行くことになり、とある国は負けそうな戦争だったのに急に強くなりました。」



--------------------------


街は戦争が始まる前は人々が溢れ、子供たちの笑い声が聞こえていたが、現在ではその姿はない。

とんがり帽子AC2359は一台で、ゲリラ戦が激しい地域での作戦を遂行する事になる。

『指令、戦闘地域でのゲリラの掃討を受諾。状況を開始します。モニター、センサーのメモリー開始。』

周囲はビルの瓦礫で溢れている。見た感じでは人っ子一人いるようには見えない。

とんがり帽子は生命反応センサーを稼働、周囲を徘徊しはじめた。

とあるビルの前に立ったとき動きを止めた。

『熱源感知、移動を確認。』

彼の熱源センサーが生命反応を感知した。

『熱源の数は4。一階の出入り口付近、こちらを監視しているような行動を確認。味方の信号は確認できず。警告を発令。』

とんがり帽子の肩の球体のようなパーツが開き、スピーカーらしきものが現れる。

『警告!武装をしている場合は武装を解除し、投降しなさい。』

ビルの入り口は静かなままだ。

とんがり帽子は再度警告を発した。

が、反応はなかった。

とんがり帽子が数歩近づくと、一発の銃弾が彼の身体を撃つ。

『武装を確認。敵と断定。制圧します。記録開始、状況をセンターに送信。』

とんがり帽子は携行してい武器を構え、トリガーを引く。

銃弾が3発。ビルの入り口のドアに着弾。扉のガラスがはじけ飛ぶ。

『熱源の移動を確認、侵入します。』

彼がそう言うと、ビルの入り口に手をかける。

扉を開いた瞬間爆発した。

ブービートラップ。

とんがり帽子の装甲は一切傷ついてはいない。

『熱源は2階に移動。掃討します。』

とんがり帽子が2階に移動すると、何発もの銃弾が彼を襲う。

彼は全く動じておらず、自動小銃を構え、発砲した。

それが治まると反撃が開始される。

敵は左右に展開し、とんがり帽子を迎え撃とうとしている。

とんがり帽子は自動小銃を火炎放射器に代え、構える。

『放射』

右の柱の陰から一人の兵士が飛びだし、とんがり帽子に襲い掛かる。

とんがり帽子は微動だにせず、左手で兵士の頭を掴み、握りつぶした。

グシャッ!!っと鈍い音が響く。

「クソッったれ!!」

その言葉と共に激しい銃弾がとんがり帽子を襲うが、彼は自動小銃を構え直し連射しながらゆっくりと進んだ。

「うぉおおおおおおーーーーー!!」と叫び声と共に兵士がとんがり帽子の前に現れる。

とんがり帽子は動じることなく、連射を続ける。

三人の兵士が床に転がり、血を流す。うち二人は既に絶命している。

一人は倒れ込み激痛に体を震わせている。

とんがり帽子は兵士に歩み寄り、片足を振り上げ、振り下ろした。

再びグシャ!という鈍い音を立てて兵士の頭部は潰された。

『付近に熱源反応はなし。状況終了。探索を再開します。』


そんな戦闘が何度も繰り返され1年が過ぎた。

多数のとんがり帽子の投入により戦況は大きく変化していた。

が、敗戦の色が濃くなった事を恐れた敵軍はスカッドミサイルによる首都攻撃を開始。

その内の数発が、首相官邸及び軍本部に着弾。民間人を含めた多くの人間が死亡し、その事実は終戦後に問題視された。

また同時に特殊部隊が首相を殺害、首都を制圧した事で戦争はとんがり帽子の知らない所であっけなく終わってしまった。


終戦により、軍以外の全ての人間が武装を解除した。

とんがり帽子は新しい指令を受ける事が無くなり、その活動を自ら停止した。

とんがり帽子の多くは敵軍に回収・廃棄されたが、単独で移動していたとんがり帽子AC2359は敵軍に見つかる事なく数十年が過ぎた。


瓦礫に埋まっていた街は復興を遂げ、人々が戻っていた。

その街から随分と離れた場所にAC2359はいた。

小さな林の中、彼は座り込み、動く事は無かった。


終戦から長い時間が過ぎた。

座り込んで動かなくなったとんがり帽子はその存在が殺人ロボットである事すら忘れ去られていた。

初夏、木々の木漏れ日の中、とんがり帽子の肩や頭には小鳥が止まり羽を休めるようになっていた。

そんな時、肩に止まって休んでいた鳥たちが一斉に飛び立った。

『熱源反応。武装の有無を確認。武装無し、民間人と認定。』

彼に近づいてきたのは一人の幼い少女だった。

彼女は数日前から遠巻きに、時には木の陰からとんがり帽子の姿を見つめていた。

おずおずととんがり帽子に近づいた彼女はこう言った。

「あなたずっと一人なの?」

とんがり帽子は返事をしなかった。

彼女は続けた。

「わたしもひとりぼっちなの。この辺にはおんなじ年頃の子供がいないのよ」

彼女はとんがり帽子の姿を見ても恐怖する事は無いが、多少警戒はしながらも好奇心で近寄ってきたのだ。

「あなたがよければ、わたしのお話しを聞いてくれるとうれしいの」

とんがり帽子はだまったまま、少しだけ首を縦に振った。

それを見た彼女は嬉しそうに話しだした。

「わたしのママはお料理が得意なんだけど、わたしが嫌いなニンジンをいれたシチューを良く作るの。にんじんだけ避けて食べているとママが怒るのよ。ケンコーに良いから食べなさいって」

とんがり帽子には全く意味のない話しだが、微動だにしない彼を見て、彼女は自分の話しを熱心に聞いてくれていると思った。

彼女にとっては初めての友達なのだ。

反応があろうがなかろうが、自分の話しを聞いてくれる存在が嬉しかった。

「今日はね、お花をたくさん摘んできたのよ。晩御飯の時に飾るんだって。あなたにもひとつあげるわ」

そう言うと彼女はとんがり帽子の帽子のひさしの部分に飾ってくれた。

とんがり帽子にとっては生まれて初めてプレゼントだった。

ほんの少しだけ、彼が喜んでいるように見えたのは気のせいかもしれない。


季節が進み雪が降るようになると彼女が訪れる事はなくなり、小鳥さえもとんがり帽子に近づく事はなくなった。


とんがり帽子はふと思った。

『もう何年も指令はない。武装している兵士もいない。体内電池の残量は…あと数時間。』

その姿はまるで年老いた老人のようだった。

『数時間後には全ての機能が停止する。これが「死」というものなのだろうか…』

空から白い物が降って来てとんがり帽子の肩や膝に積もっていく。それすら払おうとしなかった。

『「死」、僕が他の者に与えてきた物か。それ以外になにか、そう何かを誰かに与えた事はあっただろうか?』

幼い女の子からもらった一輪の花の事を思い出していた。


そんな事を考えていると彼の前に一人の老人が現れた。

老人は彼に問いかけた。

「お前さん、暇かい?暇ならわしの手伝いをしてくれんかね」

とんがり帽子は見た事もない老人の話しに耳を傾けた。

「今夜のうちに荷物を配らなくてはならんのだが、腰がいたくなってしまってな。お前さんさえよければわしの代わりに荷物を配ってもらえんだろうか?」

とんがり帽子は答えた。

『僕の活動時間はあと数時間で終わる。その間で良ければ』

老人は嬉しそうに言った。

「十分じゃ」

そう言うと、とんがり帽子の帽子は赤く染まり、身体も赤くなり、胸から腹部にかけて白いボンボンがボタンのように3つついた。

『これは?』

「これはわしらの制服みたいなもんじゃ、これを着ていればわしの相棒が荷物の運び先まで連れて行ってくれる」

『指令を受諾。状況を開始します。』

とんがり帽子は何年も動いていなかった身体を動かし歩き出した。ギシギシと錆びた体を使って。


その夜、満面の星空にトナカイが引くそりに乗ったとんがり帽子の姿があった。

最初の荷物の届け先は、あの幼い女の子の家。

煙突はないが、大きな窓があり、そこから窓を開ける事もなく身体がすり抜けて入ることが出来た。

幼い女の子はベッドの上でスヤスヤと眠っている。

「春に…なったら…ロボットさんのところに…」

とんがり帽子は老人から預かった白く大きな袋に手を入れ、中から大きなクマのぬいぐるみを取り出して、彼女の枕元においた。

『僕は初めて、誰かに何かを贈る事が出来た』

そう言うと再びそりに乗り、満天の星空を駆け巡った。

夜が明ける前には荷物はすべて配り終えた。

老人の元に戻ると

「ご苦労さん、お礼にお前さんにも何か一つプレゼント贈ろうじゃないか。何か欲しい物はあるかね?」

とんがり帽子は答えた。

『このまま、あなたのお手伝いをする事はできないだろうか?もう何分も動けないが、動ける間は誰かに何かを贈る仕事をしたい』

老人は頷いた。

「良かろう。お前さんの望みを叶えよう。一年に一度のクリスマスじゃ、奇跡の一つくらい大目にみてもらえるじゃろう」

そう言うと、とんがり帽子の錆び付いた身体から錆が消え、身体の重さが消えた。顎には白くて大きな髭がついた。

「これでお前さんはわしらの一員じゃ。仕事は…一年のうち一晩だけじゃが、その身体があれば永遠に荷物を配る事が出来るじゃろう」

『ありがとう』

とんがり帽子は機械仕掛けのサンタクロースになって子供たちにプレゼントを贈る事になった。



--------------------------


「おしまい」

「とんがりさんはサンタさんになったのね!」

「そうよ、さあさあ、よいこは早く寝ないと、サンタさんからプレゼントが貰えないよ」

「うんわかった!おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

女の子の枕元には随分とくたびれた大きなクマのぬいぐるみがあった。


祖母が暗くなった部屋からそっと出て、そっとドアを閉める。

「きっと機械仕掛けのサンタクロースは今もクリスマスの夜に満面の星空を飛び回っているわね…」


---おわり---

もう何年も前に3PのWEBマンガで公開した物の内容を、追加して小説化したものです。

マンガの時は女の子の出会いが省略していました。

だって面倒くさかったんだもん_(:3 ⌒゛)_

マンガのデータが消えてしまったので、どこかに残しておきたくて書きました。

関連イラストはいくつか残ってるんですけどね…

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