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逃亡賢者(候補)のぶらり旅 〜召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます〜【書籍3巻11月発売!】  作者: BPUG
番外編① お手紙です

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1-6. 噂が人を呼ぶ

心優しい皆さまのおかげで、おっさんが続きます。


[場所]タジェリア王国ジャステッド

[登場人物]

ジョー: 装備店“泥棒の始まり”の店主。特徴と気配が薄い。笑い上戸。

ハッセン: 生産者ギルド長。生涯現場派のつなぎ姿。

オーデリヤ: 冒険者(C級→B級) 美容師だった勇者が残した本のファン。兄はA級冒険者のウォードン。

エレネ: 冒険者(C級→B級) 何人ものコアなファンを持つ美人お姉様。


[初登場回]

ジョー

第二部 第二章 初回攻略編 2-13. 黄色いやつ

ハッセン

第二部 第二章 初回攻略編 2-16. 名無し

オーデリヤ&エレネ

第二部 第三章 成人の儀編 3-5. 贈り物




「申し訳ありません。今週も入荷はゼロです」


 生産者ギルド受付で職員に告げられた言葉に、ジョーはガックリと肩を落とす。


「ダメでしたか」


 期待はしていなかったが予想通りの回答に、ジョーは普段顔に貼り付けている笑みを消して項垂れる。

 受付の職員も、申し訳なさそうに入荷素材のリストを見て首を振った。


「ダメですね。ジャイアントタートルは元々人気のない魔獣です。一時期大量に出回ったことがありますが、あれは稀なケースですから」

「そうですよね。いえ、私が無理を言いました」

「冒険者ギルドに採取依頼を出しては? おそらく待っているだけでは回ってこないと思いますよ。運よく倒して魔石が回収されてもこちらに来るとは限りませんし」

「そう、ですね。分かりました。お客様の予算は多分潤沢にあると思うので、依頼を出してみることにします」


 客から届いた依頼の品を作るためには、ジャイアントタートルの魔石がどうしても必要だ。

 客自身がこの街にいたら嬉々としてジャイアントタートルを狩りに行っていただろうが、今はいないのだから仕方がない。割高にはなるが、素材の採取依頼を出すしかないだろう。

 ジョーはいつも通りの笑みを顔に貼り付け直して受付から離れる。生産者ギルドでも採取依頼は出せるが、今回の依頼にかかる費用や納期などの詳細を打ち合わせるには、直接冒険者ギルドに行ったほうがいいだろう。

 そうやって歩き出したジョーに後ろから声がかかった。


「おう、泥棒屋じゃないか。最近よく来るな」

「ギルド長、その呼び方はやめてくださいよ」


 確かにジョーの営む装備店の名前は“泥棒の始まり”だが、短縮されると全く意味が違ったものに聞こえるではないか。

 だがジョーの返しに、声の主である生産者ギルドのギルド長ハッセンは相変わらずのツナギ姿でニカリと笑うだけだ。


「それで? 何か探し物か?」

「魔石を」

「ん? なんか特別なやつか?」

「ええ、ジャイアントタートルのものを」

「そりゃ、まぁ、珍しいもんを」


 ツナギの両ポケットに手を突っ込み、ハッセンは瞬きを繰り返す。

 やはり長年生産者ギルドにいるハッセンでもそういう反応になるのか。

 ジョーは愛想笑いを苦笑いに変える。


「以前ジャイアントタートルの魔石で作った品をもう一度作ってほしいという依頼が来まして」

「なるほどなぁ。あれか? 十年くらい前に一気にジャイアントタートルの魔石が出た時に作ったやつか?」

「ええ、それです。壊れてしまったそうで」

「なるほどなぁ」


 頬に残る白い無精髭をジョリジョリと触ってハッセンは眉を寄せる。

 少し考えて彼はジョーに尋ねた。


「断れる相手じゃないんだな?」

「こちらが事情をお伝えすれば分かってくださる方たちです。ただ、私の心情としてはできればお応えしたいと思っています」

「なんだ、ジョーにしてはやけに義理堅いじゃないか」

「失礼ですね。私はいつでも義理を大切にしています」


 笑みを浮かべたまま口元をひくつかせるジョー。

 そんな彼に胡散臭げな視線を投げ、ハッセンは魔石が出回らない理由を指折りあげる。


「んでもなぁ、ジャイアントタートルだぞ? デカくて、防御力高くて、沼地で足場が悪くて、周囲に絶対一頭以上はいるやつだ。滅多なパーティーじゃ狩れないだろ。B級は絶対だ。そうなると通常の依頼より三倍、いや、冒険者たちのリスクを考えると四倍の料金がかかる」

「そう、ですね。仕方がないのでハルさんにはお断りを――」

「おい、待て」


 諦めるしかないと覚悟を決めたジョーの呟きを耳にし、ハッセンはガシッと彼の肩を掴んだ。

 あまりの勢いと握力の強さにジョーの目から感情が消える。

 愛想笑いを続けるのがこんなに困難な状況は久しぶりだ。それこそ今回の依頼者たちが去って以来かもしれない。尤も、この状況の原因も彼らなのだから、結局辿り着くところは同じだということになる。


()()、ハル、様が依頼者なのか?」

「“あのハル様”が誰か存じませんが、以前ジャステッドにご家族で滞在されていたハルさんです」

「そのハル様だよ。ってか、おい、早く言えよ、そういうのは!」

「はい?」


 がくがくと肩を揺さぶられ、ジョーは完全に顔から笑みを消して冷淡な視線をハッセンに送る。

 だが彼はそれに気づくこともなく、ジョーをその場に放り出して受付まで走り寄った。


「俺は今から泥棒屋と冒険者ギルドに行ってくるから」

「え?」

「分かりました。何かありましたら伝令を走らせます」

「おう。よろしく。んじゃ、行くぞ、泥棒」

「はい?」


 急ぎ足で生産者ギルドの玄関へと歩き出すハッセン。

 状況も分からないままジョーはその後に続く。

 そんな彼に向けてハッセンは体半分だけ振り返ってニカリと笑う。


「ハル様からの依頼ってんだったら、こっちは全力で受けるしかないだろう。これはジャステッドの威信をかけた依頼だ。ぜひ冒険者ギルドにも頑張ってもらわねえとな!」


 あと数年で引退と言われている生産者ギルドのトップとは思えない足取りで、ハッセンは通りをザカザカとダンジョン方面へと進む。

 ジョーは何が彼を駆り立てるのかも分からないまま、その後に続き、そしてのちにもっと早くに彼を引き留めて話を聞くべきだったと悔やむことになる。





 生産者ギルド長と共に冒険者ギルドに依頼を提出してから十日ほど経った頃、二人の冒険者がジョーの店に姿を現した。


「あたしがB級冒険者のオーデリヤだ。よろしくな、おっさん!」

「オーデリヤ、失礼よ。ちゃんとお名前を呼びなさい。申し訳ありません、ジョーさん。この度依頼を受けることになった冒険者パーティーの者で、私はエレネと言います。生産者ギルドからの依頼になっていましたが、大元の依頼者はジョーさんということでお話を伺いに来ました」


 ジョーでも名前を知っている二人の冒険者の登場に驚きつつ、彼は普段通りの笑みを浮かべて二人を招き入れる。

 そんな彼の目の前でオーデリヤは店の中をうろうろと歩き回り始めた。どうやら見慣れないものが多く置いてあるこの店に興味を惹かれたらしい。

 そんな彼女の様子にため息をつき、エレネは上品な笑みを浮かべてジョーへと向き直った。


「ギルドから直接この依頼が届けられた時、最初は断る予定だったんですが、ギルドから必要ならばレイドを組んでも良いと言われました。よほど大切な依頼なんだと思いまして」


 冒険者にしては小柄でほっそりしたエレネ。ジョーはジャイアントタートルを直接見たことはないが、大丈夫なのだろうかと勝手に心配しそうになる。

 だがまさかレイドの案も出されているとは。これは大ごとになったと内心冷や汗を掻きながら、彼はこの依頼の経緯を説明した。


「実は、十年ほど前にこの街に滞在していたハルさんからの依頼の品を作るのに必要でして」

「え! ハル!? あのハルか!?」


 ジョーの言葉にオーデリヤが大声をあげて振り返る。

 ここでも“あのハル”が出た。いったい何をしでかしたんだ、あの人は。

 ジョーは笑いを堪えて腹を震わせつつ、とりあえず頷く。界隈――どの界隈か知らないが――ではハルと言えば“あのハル”なのだろう。本当に、“どのハル”だ。


「以前滞在していらした時に、ハルさん、イーズさん、フィーダさんにお揃いのアミュレットを作成しました。そのうちのイーズさんの分が破損してしまったようで、新しいものを」

「イーズのか! まじか! そりゃ、絶対に必要だな! 行くぞ!」

「ちょっと! オーデリヤ! 待ちなさい! まだ全然詳しいこと聞いてないじゃない!」

「兄貴に連絡出してくる!」

「ちょっ……、まったく」


 店を飛び出していってしまったオーデリヤに、エレネは深くため息をつく。

 ほんの数分しか見ていないが、オーデリヤと一緒のパーティーは大変そうだ。

 ジョーは打ち合わせ用のテーブルにエレネを案内し、改めて依頼について話を進める。


「ジャイアントタートルの魔石の採取が難しいことは承知しています。ですがどうしても諦めきれなくて、受けていただければ嬉しいです。それと生産者ギルドが費用の一部を負担しますので、支払いに関してはご心配いただかなくて大丈夫です」


 詳しくは知らないが、生産者ギルドは“あのハル”に恩を感じる何かがあったらしい。

 詳細は機密事項かもしれないと深くは聞かなかったが、“あのハル”はいったい何をしたのか。本当に何なんだ。

 

「ありがとうございます。()()ハルからの依頼であれば私たちもタダで受けますと言いたいところですけど、流石にそれをしたらリーダーに怒られてしまいますから費用が担保されているのは嬉しいです。それにしても……ハルは今どこに?」

「少々お待ちください。届いた手紙に書かれていました」


 ギルドを通してもう一ヶ月ほど前に届いた手紙を広げる。

 簡易メッセージではなく、封筒に入った手書きの手紙。それだけでもお金がかかるのに、これは国を跨いでいる。ただ依頼を出すだけならばギルド経由で問題ないはずなのに、そこまでする理由があるとしたら、この手紙の後半に書かれている内容のためだろう。


「ああ、ロクフィムというところだそうです。なんでも腐海開拓を手伝っているのだとか」

「そんな所に……だったら依頼の品ができても届くのは一年以上も先になりそうね」

「あ、いえ。どうやらハルさんたちがジャステッドまで取りにいらっしゃるそうですよ」

「え、本当に? イーズもかしら?」

「ええ、あとはフィーダさんと奥さんと子供さんも」

「ええ!? あのフィーダさんが結婚したの!?」

「そう、書いてあります」

「あらー、びっくりー」


 美人は驚いても美人なのだなと変な納得をしつつ、ジョーは驚愕の顔のまま固まったエレネを観察する。

 だが彼女はすぐに驚きから復帰して、来訪の目的に立ちかえった。


「本人たちが取りに来るならそれも楽しみね。冒険者にも噂を流しておくわ。そうしたらレイドに加わりたいっていう人も出そうだし」

「先ほど、オーデリヤさんがお兄さんに声をかけに行くとおっしゃってましたけど、まさかA級冒険者のウォードンさんまで呼ぶなんてことないですよね?」

「どうかしら? 最近は氾濫周期も安定してきたし、今いる場所によってはジャステッドに来れるかも」

「そう、ですか。いえ、流石にA級冒険者への依頼となるとギルドに相談に行かないと」

「そうよね。とりあえず、レイドの規模が決まったらまた冒険者ギルドで話し合いましょう。今度はギルド職員から連絡が入るようにするわ」

「お願いします」


 ジョーの感謝の言葉にエレネはひらりと手を振って店から去っていく。

 それを見送ってジョーはぐったりと店の椅子に腰を下ろした。

 えらいことになってしまった。

 一つの魔石を手に入れるために、どれだけの人数が動くことになるのか。

 レイドを組むだなんて、最終フロアボス戦か氾濫の時くらいなのに。いくら防御力が高いと言っても、四十六階の魔獣だ。本当に、どうかしている。

 小さくため息をつきながらジョーはカウンターに置いたままの手紙に手を伸ばす。


「バンブッシュの素材はありますし、ジャイアントタートルの魔石も、なんとかなりそうです。あとは……そうですね。綺麗な赤い糸が必要ですか」


 前回イーズが持っていたアミュレットには水色の糸が巻かれていた。

 それは彼女がこの街にいた時、最初は男装していたため、アミュレットは全て男性が好む色の糸であつらえたからだ。

 だが手紙の依頼には「できれば赤色で」と書かれていた。もちろん、ジョーはその要望に異論はない。


「さて、今度はどんな面白いお土産をいただけるのでしょう。今から楽しみですね」


 ジャステッドに彼らが滞在していたのは半年ほど。

 だがその間に度々ジョーの店を訪れては、ジャステッドダンジョンで採取してきた様々な魔植物の素材を渡してきた。

 チェスナットボマー()に始まり、アルマンドーン(アーモンド)の実やベロアイール(うなぎ)など、ジャステッドで生まれ育ったジョーでさえ知らなかった食材。

 特にチェスナットボマーとアルマンドーンは、現在ではジャステッドの製菓店で重宝されている。


「本当に、楽しみです」


 あの頃、彼らが来るたびに笑い転げていたことを思い出す。

 店主としての顔を保つのがとても大変だった。まぁ、相手もそれを狙っていた感はあるが。


 彼らが再びこの店を訪れるまでまだ時間はある。

 ジョーは一方的に驚かされるばかりではたまらないと、気合を入れて彼らを迎える準備を始めた。



 だが、ジョーは結局準備に取り掛かることはできなかった。

 なぜならば、“あのハル”の依頼であるという噂や、A級冒険者が参加の決定、さらにはエレネのファンや根強いイーズのファンの熱い希望で、ダンジョン氾濫時と遜色ないほどの大規模なレイドが組まれた。

 その結果、期待した以上の、そう、必要以上のジャイアントタートルの魔石が集まることとなる。

 そうなるとジャイアントタートルの魔石を買い取って、“あのハル”が依頼したものと同じものを希望する者が現れ始めた。

 その筆頭がA級冒険者パーティーとなれば、ジョーも断ることなどできない。


「本当に! いったい! あの人たちは何をやらかしたんでしょう!」


 依頼書が積み上がった部屋でジョーは馬鹿笑いをあげながら、半泣きになってアミュレット制作に励んだのだった。



 それから半年後、腐海産の大量の魔植物アイテムを持った一行がこの店を訪れる。

 そしてこの店の店主であるジョーは、彼らによって過呼吸寸前まで馬鹿笑いさせられ、光魔法で癒してもらわなければいけなくなる。


 でもジョーは決して忘れないだろう。

 砕けたアミュレットを差し出して涙目で謝罪をした少女が、新しいアミュレットを受け取った時に浮かべた輝くような笑顔を。

 そして新しいアミュレットを革鎧に取り付けて誇らしげにしていた姿を。


 たった一つのアミュレットが起こした騒動は、彼女のその顔を見ただけで価値があったとジョーは心からの笑みを浮かべた。




ハッセンはハルたちの前ではもう少し丁寧な態度でしたが、ジョーは身内扱いで砕けた話し方になっています。生涯現場派のツナギ姿親父、いいっすね。(オヤジばかり!)

御一行様が舞い戻ったらどうなるのか。ジョーの腹筋は繊維がズタズタにされそうです。


それにしても濃いキャラが多くて、番外編でもちゃんとメイン張ってくれる人ばかりで頼もしい限りです。

延々と続けられそうですが、そろそろご本人たちの冒険も考えてます。行き先はもちろん……ふふふ。(嫌な笑いだな)

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逃亡賢者(候補)のぶらり旅3 ~召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます~
コミカライズ1巻発売中!
― 新着の感想 ―
あの赤い魔石は使わんかったんか…
[一言] あのハル様だと…? あのたーとるですとろいやーのハル様か!!
[良い点] 待ってました!ジョーさん!! せっかくだから笑い転げるセリフもちゃんと聞きたかったです。
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