1-3. QOI
ハルとイーズがハラドーリに着いて二日目。
昨日はあくまで前夜祭であり、今日が祭りの本番である。
とはいえ、これは街の人には重要だが、他からの参加者にとってやることは少ない。せいぜいが神殿に寄って女神に感謝を捧げるくらいだ。
二人もそれに倣って神殿に行き、これまでの旅の報告とこれからの安全を祈願して出た。
「さて、次はどうしましょう?」
「うーん、流石に十五歳の体でも一晩オール後はだるいな。今日は一日のんびりして、移動は明日にしよう」
「賛成です。昨日屋台で食べたドーナッツに似た甘いパンは東通りにあるそうなので、行って確保しておきたいです」
「じゃ、俺は中央広場近くの肉屋だな。祭りでも使った薬草が擦り込まれてて、いい味の煮込みだった」
「じゃ、そのほかにも目についた食べ物があったら買って回りましょう」
そうして二人は今夜泊まる宿を先に押さえ、街の中の食べ歩きに励む。
すでに昨日の屋台で目ぼしい食べ物はチェック済みだ。屋台でしか出していない品もあるようだが、美味しい屋台料理を出していた店なら他の商品にもハズレはないだろう。二人はそう考えて結局入った店のほとんどで買い物をした。
買い物が終わる頃に一旦馬車乗り場に行き、ジャステッド方面の馬車を確認する。どうやら二つほど小さな街を経由していくことになりそうだ。
「国境都市からだと直通だったんですが、この街からは遠回りになるようですね」
「街の規模が国境都市とは全く違うから仕方ないんだろう。次はちょうど明日の午後だ。一旦予約して宿に戻ろう」
宿に戻って地図で今後のルートを再度確認する。
タジェリア国の国境都市は大陸の西に位置しており、内陸に向けて十日ほど移動するとジャステッドとなる。
だが今回二人が移動したハラドーリは完全に正反対に位置している。
今二人には二つの選択肢がある。国境都市に戻って最短を行くルートか、ハラドーリから乗合馬車を乗り継ぐルートだ。
「ハラドーリ発で行くと三週間ほどか。一つ目の村まで六日、二つ目の町まで三日、んで最終目的地のジャステッドまで五日。乗り継ぎに失敗するとそれより長くかかるかも」
「フィーダとの合流に間に合いますか?」
「ちょっと待ってな。フィーダとドゥカッテンで別れたのが十月半ばくらいで、合流に早くて二ヶ月かかるって言ってた。今が十一月末くらい……微妙だな」
「合間の馬車旅を瞬足でスキップするのは?」
「それはイーズに依存しすぎる。却下」
「でも、並足で六日の距離なら、休憩入れつつでも一日かからないですよ?」
「ぐっ」
「合計すると十四日の馬車旅でも、三日に縮められます」
「ぐぐっ」
「二人分の馬車のお金もかからない。ま、水魔法で交渉して安くしたりバイトもできますけど」
「はっ!」
「周りの目を気にせず温かいご飯を食べられる」
「あああ……」
「さ、どうします?」
「イーズが交渉スキル持ちの俺をいじめる……」
「いじめてませんよ。ハルも心から反対するならスキル使って説得すればいい話です」
「そうなんだけどね。頭では最短ルートを行けって言ってるんだけど、心がね。他の場所も寄りたいなってな」
「なんとかフィーダに居場所を知らせる方法があれば……ジャステッドに着くのが遅れても、自分たちがどこにいるか分かればフィーダも安心するかも」
「確かに。冒険者ギルドでそういう仕組みがないか聞いてみるか。多分緊急依頼を出す関係で、高ランク冒険者の居場所は全ギルドで共有してると思う」
「自分たちもそれを使えれば良いということですね」
「じゃ、冒険者ギルドで確認して問題なければ馬車はキャンセルにしよう」
「はい!」
冒険者ギルドで話を聞いてみると、やはりギルドで冒険者の所在地を把握していると言われた。
というか、移動したらギルドに報告するようにと叱られた。依頼に出ているのか、何か不測の事態で所在がわからないのか、ただ移動しているだけなのか分からなくなるからだそうだ。アブロルでは褒賞の関係で、自動的に所在が登録されていただけだったようだ。申し訳ない。
ただ、ギルドとしては必要がない限り他者に居場所を簡単に教えたりはしないそうなので、“フィーダという人が尋ねたら教えて良い”と自分達の記録に加えてもらった。これでフィーダに居場所が伝わるので安心である。
ついでに次の町までのルートなどの詳細を手に入れた。
乗合馬車受付まで行く間、ハルは歩きながらその紙を読んでいたが、突然立ち止まる。
「イーズ、これ、見てみろ」
「次の村の情報ですか? 名前はベズバロ、産業は林業及び木材加工?」
「そうだよ、木材加工! もしかしたら、風呂の加工を頼めるかもしれない」
ハルに言われてイーズもハッとする。
木桶も当たり前だが木材からできている。もしかしたら、ベズバロで加工を請け負ってもらえるかもしれない。
「ハハハハハハハル! 行きましょう、ベズバロ! すぐにでも」
「待て待て、イーズ。まだどんなふうに改造したいかも考えてないだろ。それに行ってすぐ請け負ってくれる工房が見つかるとも限らない。期待しすぎるな」
「そういうハルもニヤニヤしてるじゃないですか」
「ニヤニヤとは失礼な。いいか、とりあえず今は馬車のキャンセルと風呂計画だ」
「分かりました。でも明日は朝一で出発しますからね」
「りょーかい」
馬車をキャンセルして宿に戻った後、早速小さなテーブルに飲み物やお菓子を広げて改造計画を練り始める。
ハルが言うには、クリエイティブな思考には甘いものが必須とのこと。理屈は分からないが、なんとなく分かる。
「まず必要なのはもちろん浴槽部分。あとはできればシャワーもしくは洗い場と、脱衣所かな」
「ですね。日本の浴槽だと腰から下の長さなので、桶の長さだと長すぎますね」
「そこは半分ぐらいまで区切っちゃおう。壁はシャワー側と脱衣所にはマスト、浴槽側にも一部欲しいな。
――なぁ、イーズ。これって一人一個ずつの風呂にしなくてもいいんじゃない?」
「どういうことですか?」
桶は二つあるから、当然風呂も二つと思っていたイーズは首をコテンと倒す。
その目の前にハルは二本の指を立ててみせて、ワキワキと動かす。
ワキワキ、ワキワキ。
「桶は二個だろ? 一方を浴槽で、まあ中に段差をつけて半身浴とか寝そべれる用にして。で、もう一方をシャワーと脱衣所にしちゃえばいい気がする」
ワキワキ動かされる指を、イーズは猫じゃらしを追う猫のようにキョロキョロと目を動かしながら、ハルの案をなんとか頭でイメージする。
「確かに、せっかく漏水しない桶があるならそれをそのまま浴槽にしたほうがいいですね。さすが、ハル」
「お褒めいただき恐縮。じゃ、上から見ると瓢箪型で、シャワーと脱衣を区切るくらいにしよう」
「脱衣の壁に入口ですね」
「おお、完全に忘れてた。それに脱衣の壁に棚が欲しいな。足元が濡れても問題ないように」
「シャワーのお湯は工夫すれば浴槽から引っ張れますよね。シャワーで使ったお湯はどこに流れます?」
「うーん、そこは職人さんに……」
「そうしましょう。適材適所で」
適材適所、イコール、ぶん投げ。
あらかたの要望が揃ったところで二人は顔を見合わせて、ニタリと笑う。
桶を手に入れたイーズはもちろん、ハルもバイヤーの仕事の合間に温泉や銭湯巡りをするほどの風呂好きだ。
風呂ができればクオリティ・オブ・異世界旅はぐんっと高くなる。
フィーダに見せたらなんと言われるか想像し、怒られる一択だったので、その時は二人できちんと叱られようと覚悟を決める。
今日手に入れたこの街で好まれるというお茶は、薬草を各種ブレンドしたハーブ茶に近い。いくつかハルにも鑑定してもらい、効果が高いものを購入してある。
夜寝る前に飲むと安眠効果があるというお茶を楽しみながら、明日からの二人旅に備えてルートの確認をする。
基本イーズがドライバーでハルがナビゲーター。しかし、一度走り出してしまうと会話もおぼつかなくなるので事前打ち合わせは重要。
「ベズバロまでの道はほぼ一本だな。一箇所分かれ道があるようだが、看板が立っているらしい」
「どの辺りの位置です?」
「馬車で四日目午後といったところかな」
「分かりました。その付近では少しスピードを落とすようにします」
「よろしく、ドライバーさん」
明日は午前いっぱいベズバロまでの移動に使う予定だ。
時間に余裕があれば、生産者ギルドに行って職人を紹介してもらうのも案に入っている。
いい職人さんを紹介してもらえるといいな。
旅への期待に胸を躍らせながら、イーズは心地よい眠りについた。





