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逃亡賢者(候補)のぶらり旅 〜召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます〜【書籍3巻11月発売!】  作者: BPUG
第三部 第七章 黒森伝承編

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7-7. アチチ




 二日かけて順調に五十六番の攻略を終え、今日は五十七番を最後まで進んでポータルで帰還を予定している。

 五十七番に足を踏み入れ、移動を開始する前に、最後の望みをかけてイーズはマジックバッグからサトを出した。


「おはよう、サト」


 そう言いながらサトに朝の分の回復魔法をかける。

 ツルリとした頭を撫でている間も、サトの葉っぱが左右に激しく揺れ、興奮していることを知らせる。


「ケキョッ、ケキョキョキョキョー!」

「ふふっ、分かった、分かったから、ちょっと待ってね」

「キョゥキョゥ」


 口を押さえて葉っぱをふりふりするサト。

 イーズは口元をほころばせて改めてサトに尋ねる。


「サト、この階にお友達はいそう?」

「ケキョ!」

「ありがとう。それで、どっちの方向かな?」

「ケケーキョ!」


 質問をする前から、サトの葉っぱはすでにある方向に向かってピーンと伸びている。


「右奥か。トナバン、ポータルの場所は?」

「中央左寄りだな」

「分かった。少し遠回りになるが確かめに行っても?」

「もちろんさぁ。よろしく頼むでよ」

「キョキョキョー」


 トナバンが太い指でこちょこちょとサトの葉っぱをくすぐると、サトは身をよじらせながら高い声を出す。


 彼には、もしマンドラゴラが見つかったら村長も交えて詳細を伝えることにして、もし見つからなかったらサトの存在を秘匿してもらうように頼んである。

 これまでに黒の森でマンドラゴラが採取された記録はない。そしてここまでの番でも見つからなかったため諦めかけていたが、ついに最奥手前でその存在を見つけることができた。


「毒を持っとる魔獣は多い。しかも閉ざされとる島だで、マンドラゴラの場所が分かるだけでもありがたい」


 そう言って嬉しそうにするトナバン。

 もしマンドラゴラと一緒に住むことが可能だなんて分かったら、どんな反応をするだろうか。

 目を細めて、イーズは一旦サトにお別れをしてマジックバッグに入れる。


「よし、それじゃあ、進むぞ。イーズ、一時間ごとぐらいでサトに進行方向が正しいか確認してくれ」

「はい。分かりました」


 フィーダにしっかりと頷いて返すイーズ。

 その隣でハルはこれまでのマンドラゴラを思い出しながら、予想を立て始める。


「シュガーマンドラゴラは白いカブで、ハニーマンドラゴラは赤カブ、えっと、メープルマンドラゴラは茶色とか黄色のカブ。ここまでがタジェリア。

 それからアドガンに入って会ったのは、ホースラディッシュマンドラゴラは西洋わさび? 次は何が来るんだろう」

「タジェリアは甘いものシリーズでしたね。アドガンになると変わるのかな?」

「あれはスパイスダンジョンだったから、薬味になったんじゃなくって?」

「そういう可能性もあるんですね」

「そんなにもたくさんマンドラゴラって種類があるの?」


 二人の話に興味がわいたのか、メラが至極真っ当な質問をする。

 ハルは頷いて、マンドラゴラの特徴をいくつか挙げた。


「名前は違っても、素材としての効果は一緒で、葉は解毒剤、実は回復薬になる。

 あとはエンチェスタで知ったんだけど、葉も実も一緒に使うと万能薬――実際には仮死状態になった人を回復させることができる薬になる。

 えっと、他には……鳴き方がそれぞれ特徴的だったりするかな」

「鳴き方……」


 メラはそう言って視線をイーズの指輪へと向ける。

 確かにサトも不思議な鳴き方をしている。

 イーズはふふっと笑って、もう一つの特徴を付け加える。


「マンドラゴラの中でもお風呂が好きな子がいて、お風呂のお湯は栄養剤になったり、アンデッドを弱める効果があります」

「アンデッドにも効くの? すごいわね」


 まさか自分が飲んでいたスープにサト汁が使われていたとは思わないメラは、その部分を見事にスルーした。

 ハルとフィーダの肩が細かく揺れる。


 途中数回サトに確認してもらいつつ、五時間ほど進む。

 最後にはついにサトがイーズの腕から降りたがったので、突っ走らないようにと言い聞かせたうえで地面に下ろした。


「それじゃ、お願いします」

「ケーキョ!」


 サトとイーズ、向かい合って敬礼ポーズを取り、任務を開始する。

 サトは樹海となっているダンジョンのでこぼこな足元をものともせず、颯爽と軽快に進む。

 緑が生い茂る中でサトの場所を見失わないようにしながら、イーズが表示しているマップで魔獣の場所も確認しつつ、五人はやや速足で追いかける。


「ケキョウ、ケッキョ、ケーケ!」


 時折、興奮したサトの楽しそうな声が響く。

 十分もすれば、サトが一際高い声で全員を呼んだ。


「ケッキョーーーー!」

「到着ですね」


 すぐにそばにたどり着き、五人は少し上がった息を整える。

 ハルとイーズは、サトが誇らしげにペシペシと触れている葉っぱの観察をする。


「サト、ありがとうね」

「サト、ありがと」


 そう言って二人は、マップと鑑定でその場に魔植物がいることを確認する。

 イーズはサトと、そして足元に埋まる三体のマンドラゴラに向けて回復魔法を放った。


「ヴァフォ!」

「ヴォーヴォヴォ!」

「ヴーヴー」

「ケキョ!」


「なんか濁点が多いな」

「土に埋まってるからじゃない?」

「確かにそうですね」


 平常運転で感想を言い合う三人に対し、初のマンドラゴラとの出会いとなるメラとトナバンの二人は数歩離れた場所で固まっている。

 ハルは二人を手招きして、わさわさと揺れるマンドラゴラの葉っぱを指さす。


「マンドラゴラは葉っぱでは見分けがつかないのが特徴。同じ種類でも全部葉っぱが違うから、採取が難しくなるんだ」


「確かにそうね。厚さも形も、色の濃さも違うけど……」


「ヴォアー」

「ヴェッ!」

「ヴーヴヴヴヴー」


「……確かにマンドラゴラだわ」


 地中から響く不思議な声に、メラは口元を押さえてふふふと笑いだす。

 トナバンもその大きな体を丸め、中腰になってその様子を見ている。


「こらぁ、鑑定持ちで探させっにも、難しすぎるな」

「そうかも。樹海の中でどこにいるか分かってるならまだましかなぁ。でも、一か所だけってこともないだろうし」


 肩をすくめるハルに、トナバンは渋い顔をする。


「大丈夫。どうやったらマンドラゴラと仲良くなれるかは教えるから」

「仲良く……?」


 首をかしげるトナバン。

 ハルは目を三日月型に細めて、マンドラゴラの前にうずくまるイーズを指さす。


「さて、皆さん。ちょっとだけお外に出てきてもらってもいいですか?」


「ヴォ」

「ヴェーヴァ」

「ヴヴー」


 ペタリと葉っぱが地面に下ろされ、ぐぐぐぐっと体が持ち上がってその本体をのぞかせる。


「お、これまた特徴的」

「ごついな」

「カブではないですね」


 コロンコロンと転がり出て、まるで世界大会で優勝した野球チームのようにお互いを強く叩きあうマンドラゴラ。

 その体はまるで焼き栗のように黒く艶々としている。


「なるほど。パームマンドラゴラだって。こんな形なんだ」

「初めて知りました。ココナッツとは違うんですね」

「パームツリーなら本土で見たことあるわ」

「パーパパパー」

「くふふふっ」


 出てきたパームマンドラゴラの一体を撫でながら、メラは肩を震わせて笑う。


「パームツリーってことはヤシの木です?」

「そうね。もう少し南で採れるわよ。元旦那の商会がパームシュガーの農園持ってたもの」

「うおーう。思わぬ繋がりでした」


 まさか元旦那繋がりで知っているとは思わず、イーズは口の端を引きつらせる。


「私もあの人が商会の人間だとは知らなくって、後でどんな商品を扱っていたのか聞かされたくらいだから、実物は見たことが無いの。こんな感じなのかしら?」

「ファーフェ、フォーフォー!」

「ププッ!」


 マンドラゴラの声を聞くたびに、メラの口から不気味な笑いが出る。

 サトと会った時は普通だったが、さすがに何体もそろうと笑いが止まらなくなるようだ。


「ちょっとだけ待ってね」


 そう言ってイーズは大き目のタライを取り出し、その横にいくつか踏み台になりそうな箱を置く。

 ハルもさっそく中にぬるめのお湯を注ぎ入れ始める。


「こりゃ、どうするんだ?」


 不思議そうな顔をするトナバンに、ハルはなんでもないことのように「マンドラゴラ用のお風呂」と返す。


「風呂? そういやぁ、さっき言っとったか」

「個体によってお風呂好きじゃない子もいるからね。念のため、確かめておこうと思って」


 そう言っている間に、イーズはサトを抱きかかえ、走って汚れてしまった足を拭いてあげる。

 そして踏み台の上に立ったサトは、キリッとした顔になり葉っぱをピンと立て、タライの周りに集まった三体に向かって深く頷く。


「フェ……」

「ポッパポ」

「ピョッペ」


 緊張した面持ちの三体の前でサトはトンッと軽く台を蹴り、お湯の中に飛び込んだ。


 ――トポン


「フェーーー!」

「プッポオベパッパッパ!」

「ポオオオオオオオ!」


 なぜか大興奮の三体。

 葉っぱを打ち鳴らし称賛の叫びをあげる。


「何をやってんだ」

「サト、十点満点です」

「飛び込み競技じゃないんだし。ほら、他に入ってみたい子はいる?」


 呆れた様子のフィーダをよそに、イーズは一体一体タオルで土を拭い、そっと桶の横に戻していく。

 それぞれ興味はあるのか、お湯を突っついてはピルピルと震えている。


「お湯だと温度が高いかな? もっと冷たいほうがいい? サト、温度下げたら嫌?」

「ケッキョン」

「大丈夫だね。ちょっと待ってね」


 サトに断りを入れてハルは温度を下げるために水を足す。

 すると、三体が押し合いへしあい、台の一番上まで登ってきた。


「あ、順番に……」


 そうイーズが言う前に、三体がコロンと同時に転がる。


 ――パシャン!


「ピャ!」

「ビヨビョン!」

「ビョー!」


 水に落ちた三体を、ハルとイーズはとっさに伸ばした腕で支える。

 全く溺れていなかったサトまでイーズの腕にくっついてきて、イーズは思わず噴き出した。


「ふっ、サト、びっくりした?」

「ケキョ」

「焼きもちだな」

「ケッキョ!」


 落ち着いた様子の三体に、イーズはそっと手を離す。

 そこまで深くないからか、タライの底を蹴りながらぐるぐると泳ぎ出す。もしくはコロコロと水の中を転がり出した。


「大丈夫そうですね」

「三体ともは珍しいけど、一緒に来てくれる可能性が高くなるのはいいね」

「今日は連れて行かないんだろう?」

「また今度、引き受けてくれる光魔法使いが決まったらになると思う」

「分かった」


 顔を水の中に入れたり、葉っぱで水を掛け合うマンドラゴラたち。

 ハルは水の中に手を入れて大体の温度を確かめて頷く。

 その横でフィーダはトナバンに声を掛けた。


「トナバン、マンドラゴラの葉は一年に一回、一枚であれば交渉してマンドラゴラからもらうことができる。一体まるごと採取が必要でないのならば、その方法が一番いい。詳細は上に戻ってから話そう」

「分かったぁ。マンドラゴラがいるってだけでもいい知らせだ。ありがとな」


 喜びのあまりバシンっと力強くトナバンに背をたたかれ、フィーダの口からグブォっと変な音が出る。

 思わず二、三歩たたらを踏んだフィーダは、背中に手を当てて悶える。


「くっそ、馬鹿力」

「す、すまんなあ」


 頭をがりがりかいて謝るトナバン。イーズは思わず回復魔法をフィーダに飛ばした。


「ケキョ!」

「ファーー」

「ピヨッポゥ」

「バババ」


 途端に賑やかになるマンドラゴラたち。

 回復魔法大好きの看板は伊達ではない。


「あー、うるさい」

「ふふふ。ごめんね、今日はここまでだよ。また今度、魔法使いさんを連れてくるね」

「ファーベ!」

「ジャポン!」

「パッパポ」

「ケキョ」


 納得したように葉を揺らす四体。内一体は関係ないはずである。


 十分に風呂を満喫した三体はその後、名残惜し気にイーズとハグを交わして土の中に戻っていった。

 そしてその夜――サトは自分の寝床ではなく、イーズの布団の中で寝ることを主張し、イーズの顔をとろけさせたのだった。




パームツリー/ヤシの木と、ココナッツの木は別物だと初めて知りました。危ないところでした。


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逃亡賢者(候補)のぶらり旅3 ~召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます~
コミカライズ1巻発売中!
― 新着の感想 ―
[一言] ヤシの木とココナッツの木は別物なのか……
[一言] この物語はヒロイン不在だからその分サトがマスコットとして頑張ってるな。
[一言] 私は、調べて帰ってきたぞ!   ワカバキャベツヤシ(ヤシ科)の実の通称名:アサイー、アサイーベリー 良かった!『ヤシ』だった!
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