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逃亡賢者(候補)のぶらり旅 〜召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます〜【書籍3巻11月発売!】  作者: BPUG
第三部 第七章 黒森伝承編

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7-1. 順調に侵食

読んでくださりありがとうございます。

本日より第三部第七章です。



 黒の森に残る数々の勇者様や賢者様の痕跡。

 誰にも語られることなく、黒の森だけに引き継がれてきた真実。

 それらが外部の目に留まる日はない。


 ただ、真実を探し求める者だけがこの島にたどり着き、それを紐解く権利を与えられる。

 一握りに満たないその存在になれたことを誇りに思うとともに、秘密は秘められたままのほうがいいものもあると突き付けられる。

 すでにそれを知っていたはずなのに、淡い期待を抱いてしまっていた今代賢者の姿はある意味哀れであり、そしてどこか笑いを誘うものだった。



   ――B級冒険者 フィーダの旅の記録より





 広げられたノートの前でハルは腕を組み、細かく震えるような貧乏ゆすりを繰り返す。


「ゲスノート、今度は五番目の奥さんが六番目の子供産んだって。これで今……奥さんが七人で子供が二十二人」

「勇者ですノートですよ。こちらは、奥様が十九回目のプチ家出をして、こもった先のドアの前で愛を囁いて戻ってきてもらったそうです。

 なんかこんな感じの神話ありませんでした? 岩の前で腹踊り踊るやつです」

「あー、天の岩戸ね。腹踊りじゃなくって、裸踊りじゃなかったっけ?」

「そうなんですか? 青少年向けの本はそこは描写が優しくなっていたのかもしれないです」

「なるほど。最近の教育はコンプラが厳しいから」

「世知辛い世の中ってやつですね」

「意味わかってないくせに」

「分かってます。世の中の人は辛いのが好きって意味です」

「全く違う」

「所詮中二中退ですから」


 ごろごろとコンテナハウスの床を転がりながら、ハルとイーズは借りたノートを一旦しまって汚さないようにして、食べ物に手を伸ばす。

 日本では当たり前だった文字を読む日々。

 内容がもっと趣味に合ったものであれば楽しめるのに、とハルもイーズも目頭を揉む。


 二人の様子に笑いを浮かべながら、メラは慎重に白い駒をそっとボードに置く。


「む、そこか」

「一、二、三……五つ、白に替わりました」

「む……」

「けきょぅ」

「サト、あきらめるな。まだいける」

「きょぅぅ」


 か弱い声を出すサトを慰めているフィーダだが、その眉間には深い谷ができている。

 フィーダとサトの連合軍対メラのリバーシ戦は、どうやら連合軍がやや劣勢のようである。

 数分後、数えなくてもほぼ白で埋め尽くされた盤上を前に、がっくりと連合軍が敗北を認めた。

 暗い空気に包まれたコンテナハウス内に、メラは少し慌てる。


「えっと、ごめんなさい?」

「いや、勝負だからな。謝る必要は無いぞ」

「キョ! ケッキョキョキョ!」


 パシパシと葉っぱでメラを叩いて慰めるサト。

 なぜ負けた側が勝者を慰めているのかは、よく分からない。


「いつも賑やかな奴らが大人しいと静かだな」

「人を騒音みたいに言わないでよ」

「心外です。それはハルの」

「俺だけじゃないからね」

「ぬ。否定が早いのも怪しい」


 ある程度二人が復活したところで、床の上を片付け、明日の攻略に向けての打ち合わせをする。


 ちなみにコンテナハウスの壁に取り付けられたベッドは三つしかないため、今回の攻略は床に直接布団を敷いている。


「レアゼルドから四十三番までは行ってもいいと言われている。理由は四十四に出る魔獣の数は管理されているかららしい」

「シルクモスと言って、美しい絹糸をドロップする蛾の魔獣がいるの。黒の森の染めに使う絹は全部これよ」

「特産だからってことか。了解」

「四十三番までは何が出るんです?」


 イーズは、開いたフィーダのメモをのぞき込みながら呟く。

 そこにはフィーダの太く筆圧の強い筆跡と並んで、滑らかな筆記体のような文字が並ぶ。

 思わず顔を上げると、メラがそこを指しながら説明をしてくれた。


「四十一と四十二はほぼ一緒よ。砂地に住むリザード系の魔獣が革や肉を落とすわ。

 たまに空から鳥型魔獣に襲われて、その間にリザードも交戦ということもあるから要注意。

 四十三はオアシスが点在していて、そこで水生の魔獣が狩れるの。えっと、半ドロだった?」

「ああ」

「それで捕れる魚もいるわよ」

「ほお」


 メラの口からすらすらと出てくるダンジョンの情報に、この島は庭と言ったのは正しいとイーズは感心する。

 それにしても、どうやらだいぶフィーダとも打ち解けてきたようで何よりである。超常頂上長城……。


「重畳ね」

「心の声を読まれた!?」

「声に出てたから」


 ハルに正解を言われ、愕然とするイーズ。


 フィーダは、明日からの四十一番攻略で進むルートをメラと相談している。

 今日四十番でメラの体調や動きを確認し、適度な休憩を挟めば問題はなさそうであった。

 それに関してはハルもイーズも問題はない。休憩はいつだってウェルカムだ。


「砂地かあ。ジャステッド以来? あの時はやばかった。今回はそこそこ動けると思うけど」

「基礎体力は全く違うと思いますよ。多分今は私より体力ありそうです」

「そうかな?」

「そこは自信もっていいと思いますけど」

「ここの世界の男どもがでかくてムキムキしてるから、どうも比べようがなくって」


 程よく筋肉が付いた腕で力こぶを作り、チラリとフィーダの腕を見る。

 フィーダは鼻で笑って、ムキッと筋肉量が明らかに多めな力こぶを見せつけた。


「きゃっ、フィーダ、かっこいいわぁ!」


 イーズがわざと高い声を出し、照れたように頬に手を当てていやんいやんとする。

 サトもシンクロした動きで揺れているのを見て、メラが枕に顔を突っ伏した。

 最近、メラの笑いの沸点が低いということに気づいた。ハルとイーズのコントの一番の被害者は多分メラだろう。


「根本的な体の肉づきが違うな」

「だよね。上に伸びても筋肉が育たないのは、もう人種の違いと思ってあきらめるしかないかな」

「肉ですよ肉。良質プロテインで育てましょう」

「“建体”の賢者様の本を買うか?」

「いらない。俺は実用的な筋肉が欲しいんだ」


 恐らくボディービルダーだった“建体”の賢者が書いた本。明らかに何か違う世界が広がっていそうで、ハルは遠慮する。異世界を体験するのは一度で十分だ。


「俺とイーズで敵の場所を把握。ハルが鑑定で弱点と攻撃を見つける。毒持ちであればイーズが解毒を終えるまで必ず待つこと。リザード系は毒持ちが多いが、ここもか?」

「うん。スプリットタンテールっていうのがそれかな」

「スプリット探偵?」

「めっちゃ柔軟に開脚できそうな探偵だね。めちゃくちゃ嫌だし」

「レオタード履いてる髭と胸毛がすごいおじさんが出てきそうです」

「うげ、それは絶対嫌」

「「あだっ」」

「話を聞け」

「「はーい」」


 内容が分からずとも一連の流れが面白くて、手に顔をうずめて肩を震わせるメラ。

 フィーダは小さくため息をつき、こつんと指の背をメラの頭を当てる。


「話を戻すぞ。スプリットタンテールっていうのが毒持ちなんだな」

「ふふっ、そう。舌と尻尾がそれぞれ割れてて、舌の根元に毒があるわ。尻尾の攻撃が不規則だから気を付けて」

「分かった。イーズの解毒が確実に必要だな。それの効果確認はハルが再度鑑定する。解毒されたのを待ってから直接攻撃に移る。

 通常俺が前衛でイーズが攪乱と陽動、あとは闇魔法で足止めや攻撃の妨害。

 ハルが後衛で魔法を放ちつつ、剣で応戦することもある」

「バランスがいいわね。私が入るとしたら、フィーダの反対側からの攻撃かしら。それか盾」

「盾役はいらない。飛んでくる攻撃を受け止めるのに使うくらいならいいが、盾役メインでは出さない」


 メラの言葉を途中で遮るフィーダ。

 強い口調に戸惑うメラだが、続く言葉にうっすらと微笑む。


「イーズの闇魔法で口を縛ったり、足を縫い留めたりができる。それで十分だ。

 誰かが怪我をするような、リスクの高い戦闘は俺たちはしない。いいな?」

「うん、分かった。じゃあ、私は剣メインで行くわね」

「それでいい」


 頷いてフィーダはもう一度攻略の進め方に話を戻す。


「リザード系は腹側が弱い。ただ砂地だとひっくり返した後に暴れられたら視界が悪くなるし、目に入ったら戦闘が続かないだろう」

「水を撒く?」

「それもいいな。もしさっきメラが言ったように空から鳥魔獣が来ている時にリザードも来たらそうしよう。

 ――鳥魔獣は何ていう魔獣だ?」

「クローコンドルっていう、足の爪が太い魔獣ね。弱い風魔法を使うから、スピードも速いし落としにくいの」

「風魔法か……俺の魔法、キャンセルされるかな」

「分からんな。突っ込んできたら、前やったヴォルヘムみたいな魔法を当ててみてくれるか? それで落とせるならいい」

「了解」


 出現する魔獣に詳しいメラのおかげで、攻略計画は順調に進む。

 全体の流れとしては四十三番まで進み、そこから戻ったら第二の草原エリアでメラのスキル検証だ。

 検証を最後に回したのは、魔力を多く使うため。

 たとえ魔力枯渇が起こっても、家に戻るだけであれば大きな影響はないだろう。


「メラ、セリフは覚えた?」

「完璧。『聞こえますか? 聞こえますか? 私は今、あなたの心に直接呼びかけています』よね?」

「ばっちり!」

「やったわ!」


 お互い親指を立てて笑いあうハルとメラに、フィーダは頭を抱えたくなる。


 絶対に悪影響を受け始めている。

 しかも侵食スピードが尋常じゃない。


 そんなフィーダの肩を、サトとイーズがポンポンと叩いて慰める。

 分かるというように、小さく頷く一人と一体。

 でも生憎こっちもまともな存在ではない。

 フィーダは、順調に回復方向にある髪の毛をかきむしりそうになり、寸前で手を止めて襟足だけをガリガリと掻いた。






“勇者ですノート”、誤字指摘を何度か頂いたので……


前のハルの“ゲスノート”に対して、“勇者ですよ”ってイーズが指摘するのと有名な“death note”をかけてます。

ってこれって説明いるのかな?

いや、指摘が複数回くるってことは分かりにくいってことか。

難しいっすね。

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― 新着の感想 ―
>勇者ですノートですよ いいえ、賢者ですノートです(6-8. 彼女の家族)。はっ、まさかあれから増えたのか!?
勇者ですノート、くすりと笑えたのにいつのまにやら説明文が……。 そうかー、誤字だと思う人がいるのか(遠い目)
[良い点] >“勇者ですノート” こんばんは。 感想はカクヨムで書こうと思っていたので書いていなかったのですが、おばちゃんは「デスノート」って分かってましたよ!大丈夫! 勇者「デス」ノートで、勇者…
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