Side Story2: 不思議を見た人々
◆王城東門警備衛兵の話
「おい、なぁ、今日の朝すげえ突風が吹いたけど、お前あの時どこにいた? なんだ、西の方かよ。
違う違う、ただの風なんかじゃなかったんだよ。
ほら、最近鍛錬場に悪鬼が出て暴れ回って爆風を起こすっていう噂、お前も聞いたことあるだろ?
今日の風は絶対悪鬼だった。
だから、どうでも良くないんだって。俺は見たんだ!
何って、悪鬼だよ! あれは絶対そうだった!
あの突風が吹いて、辺りに小石やら砂やらが飛びまくってよ。んで、思わず目をつむって、開いたら……
砂で真っ白になった道の先に、背中にコブをつけた腰の曲がった小さなゴブリンみたいな悪鬼の姿が!
見間違いなんかじゃねぇって。
だがよ、あいつは王城を出た。明日からは鍛錬場には悪鬼はでなくなるぜ、賭けてもいい。
おう、絶対だ。もし出たら飯でも酒でも奢ってやらぁ!」
「うーん、隠密と疾走を一緒に発動するとスピードの安定感が失われます。どうしても衝撃波が出てしまいます」
「それより、俺を背中に乗せる以外他にないの?」
「今のところ、それが一番安定するんですよね。なんでそんなに嫌がるんです? 無事に王城を出れたじゃないですか」
「だって、自分より遥かに小ちゃいちびっ子の背中におぶさるのはなぁ……」
「小ちゃいチビ! 意味重ねてきた!」
「これは俺もどうにか身体強化系のスキルを身につけた方がいいのか……」
「うぉい!」
◆王都冒険者ギルド受付嬢の話
「ねえ、明日受付代わってくれない? え? 大量納品の検品? ……そう、じゃあ、仕方ないわね。
うーん、でも明日は来ないかもしれないし。受付に出ても大丈夫かしら。
誰って、今日来て登録してった子たちよ。二人兄弟の。
そうそう、すごくキチンとしたお兄さんと、幼い弟さん。
え? あ、そうなのよ。弟さん、もう十二歳超えてたらしくて、実は十四歳なんですって。
でしょう! 私もそう思ったのよ。思わずあと二年は我慢してねって言いそうになって。登録システムの判定に引っ掛からなかったから、本人の申告通り十四歳なんだろうけど、あれには驚いたわ。
で、あのお兄さん、多分話術とか交渉関係のスキル持ってるわ。“弱体化”スキル持ってる私でも、あの子と話してるとどんどん情報取られて……危うく商人ギルド長の女装趣味まで喋っちゃいそうになったもの。
それにね、弟さんが一瞬ものすごく怖かったのよ!
あまりにもお兄さんがどんどん機密スレスレの話題を振るから、思わず不信感を持った時にね、弟さんの雰囲気がガラリと変わって……A級アサシン職についてる人みたいな感じになったのよ。こう……目の奥が笑っていないというか。
それで明日は受付に出たくなかったんだけど、仕方ないわね。流石に明日も来たりはしないでしょうし。
それじゃ、お疲れ様!」
「なかなかいい情報が集まったな。あの受付嬢は優秀だったみたいだ。そういえば、途中で何かスキル発動させた?」
「あー、感知スキルの方ですね。あの受付嬢、何かしらの不信感持ったみたいで、地図上のアイコンが点滅してたんですよ」
「なるほどね、質問しすぎたか。どうする? 明日スキル一覧がないか確かめに行こうと思ってたけど、別の受付に入るか?」
「どうでしょう。不信感持たれたのに避けたら、さらに何か疑われません?」
「確かに。それじゃ、明日もあの人にしよう」
◆王都南東部商店街裁縫店の娘の話
「ね、最近角の宿に泊まってる兄弟のこと聞いた?
あら、知らないの? 成人の儀を受けたばっかりのお兄ちゃんと、ちっちゃくて可愛い弟君。そうそう、その子たち。何よ、あなたのとこの青果店にも行ってるんじゃない。
え? 弟君、ズズブの実が好きなのね。あれは甘くて美味しいものね。お兄ちゃんにおねだりしてた? 可愛い〜! 私も見たかった!
あ、でね。その二人、すごいのよ!
ほら、昨日雑貨店のとこのお婆ちゃん、引ったくりにあったでしょ。その犯人を捕まえたのがあの二人なのよ!
そうそう、もうびっくり。
お兄ちゃんの方ったらね、その日の朝に成人の儀を受けたばかりらしいのに、ものすごい威力の水魔法を犯人に叩きつけてて。
……あの威力、A級の冒険者って言われても納得しちゃうくらいだったのよ。魔法ぶつけられた瞬間、犯人がものすっごい勢いで吹っ飛んでたもの。人って水の威力で空飛べちゃうのね。
え、それで弟君の方はどうだったかって? それが、私の見たのは幻だって父さんが言うのよ。
何がって? でも、私も自分で見たものが今も信じられないもの。
だから……消えたのよ、あの子。嘘じゃないわよ。
引ったくりがお婆ちゃんを突き飛ばして逃げるのを見た瞬間、弟君が視界から消えたのよ。
それで気がついたら、明らかに追いつける距離にいなかったはずなのに引ったくりのとこにいて。で、弟君と引ったくりが揉みあってるうちに、お兄ちゃんが水魔法ドッカーン。
……あの兄弟、勇者とか賢者とか大魔法使いの血筋なのかもしれないわ。きっとそのうちすごい有名な冒険者になるわよ」
「今日はいいことをしました」
「いいことって、考えなしに突っ込みすぎだ。こっちは揉み合ってるの見た時、心臓止まるかと思ったんだから」
「それは、申し訳ないです。追いつけると思ったので……でも訓練のおかげか、街中でも衝撃波を出さずに走れました」
「それは良かったな」
「でもハルの水魔法もすごかったですね。犯人、フライボード乗ってるみたいに吹っ飛んでましたよ」
「あー、あれは俺もビビった。練習しないと全開でぶっ放すのは危険だな」
「そうですね」
第一部第二章これで完結です。
明日からは第三章「王国脱出編」となります。
引き続きよろしくお願いします。





