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逃亡賢者(候補)のぶらり旅 〜召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます〜【書籍3巻11月発売!】  作者: BPUG
第二部 第十一章 陰謀都市編

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11-6. 神父の証言

今更ですが、数話ほど、この街の現状推理が続きます。

硬いやり取りがたくさん出ます。



 フィーダのメインの剣を鍛冶屋にメンテナンスに出した後、街の見物がてらゆっくりと通りを歩く。


「一週間でできるなら、上層の攻略中は予備の剣で行く」

「攻略には影響なし?」

「ギルドで魔獣の詳細を調べないとなんとも言えないが、影響はないだろう」

「了解。イーズも新しい短剣を上層の間に使いこなせるようにならないとな」

「そうですね。大きさはそんなに変わらないですけど、前のより威力があるようなのでその確認をしたいです」

「訓練で見てる限り大丈夫そうだが、どの強さの敵までは通用するか把握しておくのがいいだろう」

「はい」


 ソーリャブ攻略はほぼ作業に近かったが、今回はスペラニエッサ以来の本格的な戦闘がメインとなる。


 過酷な環境が続くと言うエンチェスタで、どこまで自分たちが戦えるのか。

 上層では、まず他の冒険者の様子や場の雰囲気に慣れてから、徐々にC級階層を目指して進む。


 今は既に一月末。タジェリア国の南に位置するエンチェスタでは春の訪れも早いはず。そうなると攻略に充てられる期間は、二ヶ月から三ヶ月ととても短い。

 その間にマジックバッグをドロップする魔獣が棲む階層にたどりつければ良いが、状況から見て難しいことはハルもイーズも既に分かっていた。


「ハルは教会には何の目的があるんだ?」

「パン屋での会話が気になって……フィーダ、ここから王都までってどのくらいかかる?」

「王都? 三ヶ月ってとこか?」

「だよね。それと、エンチェスタはそこそこ大きいから、司教とかきっといるよね?」

「司教? 神父様じゃなくってですか?」

「神父の上の立場の人だよ。街の教会にいる神父は司祭とかとも呼ばれるけど、中央教会とか、その街で一番大きな教会には司教がいることが多いんだ。

 で、エンチェスタならいるはずだと思って」

「いるんじゃないか? ハルが気にしているのは、司教が王都に行って不在の可能性か?」


 フィーダの質問に、ハルは眉を寄せて頷く。


「去年、新年の祝いで国王の交代が発表されて、春に譲位があった。ということは、ここの司教は冬の間に無理してでも出発しないと間に合わなかったと思う」

「……確かに、距離と日程を考えるとそうだろう。

 帰りは急がないなら、春を待って出発するはず。ということは、あと半年は戻らないだろう」

「そう、実質一年半以上の突然のトップ不在。

 中央教会の光魔法使いが潰れたという話は、絶対何か関係していると思う」

「教会にいる光魔法使いということは、司教以外の神父さんということですか? 潰れちゃったのはその人たち?」

「多分そうなんだけど、そうなるとなんで潰れたんだって話になるんだよな。

 だから、今から南の教会に聞きに行こうと思って」


 ハルの考えに一瞬納得しかけて、イーズはもう一度首を傾げる。


「なんで、潰れちゃった人のいる中央ではなくって、南なんですか?」

「光魔法を持った人がいないから、他の教会よりも客観的に情報を捉えているんじゃないかっていうただの勘」

「勘、ですか……」


 若干胡散臭い目でハルを見やった後、イーズは通りにある花屋で小さなブーケを購入する。

 ふとハルは花束を抱えるイーズと自分たちの格好を見て、ニヤリと悪巧みをしていそうな表情を作った。


「うん、いいね。冒険者っていうより、ただ教会に礼拝に来た家族っぽい感じがする。神父に変な先入観で見られる可能性は無さそう」

「ハル、暗黒に支配されるのは早いです」

「されてないし。ただの意見だし」

「とりあえず、先に女神様にご挨拶して、神父がいるようだったら話を聞こう。

 昨日のギルドの件なども事情を知っているかもしれない」


 フィーダの意見に揃って頷き、三人はフィーダの俯瞰スキルで街の中を迷うことなく南教会に向かって進む。




 もう少しで教会に着くという時、人の争う声が聞こえてきた。

 何やら神父と思われる男性と、冒険者が揉めているようだ。


「神父なんだろ!? これくらい治せや!」

「私は治癒はできないと言っている。それに教会は治療院ではない。怪我ならば、金を払って治療院に見せればよい」

「だから、金がねえからここに来てんだ! 治せ!」

「治せないものは、治せない。帰ってくれ」

「んだと!」


 細身の神父に向かい、大柄な冒険者の男が棍棒のような腕を振り上げる。

 フィーダとイーズが止めに走ろうとした、


 その直後、


 ――ガン!


 神父の体が冒険者の腕を跳ね上げ、その胸元に飛び込んだ。

 かと思うと、冒険者の体がグルリと弧を描いて地面に叩きつけられた。

 二人が動く暇もない、わずか数秒の出来事。


「ぐあぁ!」

「暴力はいけません。衛兵に突き出されたくなければ、即刻立ち去りなさい」

「いでででで!」


 地面に組み伏せられた冒険者の男は、神父の腕を振り払おうともがくが、それはピクリとも動かない。

 しばらくその場で無駄な抵抗をした後、冒険者は力尽きたかのように大人しくなった。

 フィーダは止まっていた足を一歩前に踏み出し、神父に声をかける。


「――大丈夫か?」

「ああ、申し訳ありません。問題ないですので、通っていただいて結構ですよ」

「ぐお!」

「はい、どうぞ」


 フィーダたちが通りを進むのをためらっていると思ったらしい神父は、片腕で地面に伸されている冒険者をヒョイと道の脇に投げた。

 その後、ハラリと崩れた栗色の長い前髪を几帳面そうになでつける。


「いや、俺たちは女神様にご挨拶に来たのだが、中に入って問題ないだろうか?」

「ああ! そうだったんですね! 勘違いして申し訳ありません。どうぞどうぞ」


 そう言って神父は冒険者には目もくれず、三人に先立って教会の敷地内を進み始めた。

 そこでふと後ろを振り返り、イーズの持つ花束に目を向けた。


「花束をお持ちということは、そちらのお嬢さんの成人の儀を受けにいらしたのでしょうか?」


 ――ピシリ


 その言葉に、三人の動きが一斉に停止する。

 イーズ、あと数ヶ月で十七歳。

 決して神父に悪気があったわけではないということは、イーズにも分かっている。

 だが、感情というものは時に理性を凌駕するものなのだ。つまり、


 ――神父、許すまじ。


 イーズは目の前に立つ神父を仮想敵認定した。





 女神への挨拶を終え、聖堂から外に出ると神父が真剣な表情で立っていた。


「先ほどは失礼いたしました」

「いや、まぁ、よくある……ことだから」


 途中イーズから激しい殺気を送られているのに気づいたが、フィーダは言いかけた言葉をそのまま続ける。ある意味、勇者だ。


「あー、もしよかったら少し聞きたいことがあるんだが、いいだろうか」

「はい、構いません。外は寒いですので、中にご案内いたしましょう」

「助かる」


 フィーダの言葉に続き、ハルとイーズも軽く頭を下げて礼をする。

 通されたのは、綺麗に整えられたテーブルがいくつも並ぶ食堂のような部屋だった。


「集会がある際に使用する場所です。お好きな席へどうぞ」


 神父が手で示す先、三人は入口から近いテーブルに座る。

 神父もその向かいに腰を下ろし、髪を撫で付けてからフィーダに向かって口を開く。


「それで、お聞きになりたいこととは?」

「ハル、お前が話を聞いた方がいいだろう」

「ありがとう」


 フィーダに促され、ハルは神父に目礼をして簡単な自己紹介をする。


「私はハルと言います。それと仲間のフィーダと妹のイーズ。昨日エンチェスタに着きました」

「これはご丁寧にありがとうございます。私はこの教会を任されていますフェリペと申します」


 それぞれ紹介に合わせて小さく頭を下げ合う。


「それで……着いてから不可解な体験と、噂を耳にして少し不安に思いまして。

 よろしければこの街をよくご存じな方、そして公平な目線で情報をいただける方を探してここに参りました」


 ハルは背筋をスッと伸ばし、前に座る神父と視線を合わせる。

 フェリペ神父はハルの言葉に小さく身じろぎをし、戸惑ったようにテーブルの上で組んだ自分の手に視線を下げた。


「それは……」

「無理にとは言いません。ただ、春まで不安なままで過ごすより、何が起こっているかを理解して過ごす方がいいと思いませんか?」

「そう、ですね。ええ……私でお話できるところは限られていると思いますが、ご不安な気持ちも理解できますので」

「ありがとうございます。では、まず、先ほどの冒険者のことです」


 ピシリと一本指をたててハルは話し出す。


「街でも、中央教会の魔法使いが潰れたという会話を聞きました。

 先ほどのフェリペ神父のお話では、治療院もあるということ。では、なぜ冒険者が教会に治療を求めて来るのでしょうか」


 ハルの言葉に、フェリペ神父は冷静な表情を崩すことなく口を開く。


「それは、中央教会で安価で治療を請け負っていたからです」

「……それはよくあることですか?」

「いいえ」

「司教がいない間に中央教会の神父たちが勝手に?」

「残念ながら」

「理由をお尋ねしても?」


 その問いに、フェリペ神父は一度下を向く。

 そして再度顔をあげた時には、どこか覚悟を決めた表情で説明を始めた。


「理由はいくつかあります。それらが絡み合って、今のエンチェスタの状況が出来上がってしまいました」


 小さく息をつくフェリペ神父。


「エンチェスタダンジョンが数年以内に氾濫すると言われているのは、ご存じと思います。そして休眠を推し進める計画があるということも」


 その言葉に三人は小さく頷く。



 始まりは小さな噂だった。

 ずっと囁かれ続けていたダンジョン休眠が、ついに現実のものになる、と。


 元々人気のダンジョンに、大勢の冒険者が押し寄せた。

 宿も長期滞在用の一軒屋も満室になっても、まだエンチェスタを訪れる冒険者の数は減らない。


 そして、エンチェスタダンジョンの特性――魔法使い殺し。

 それは魔法使いだけでなく、体力のない冒険者では攻略が厳しい過酷なダンジョンであることを意味する。


 そんな中をひしめき合うように、競い合うように冒険者が進めばどうなるか?


 フェリペ神父の呟くような問いに、イーズは小さく「怪我をする?」と返す。

 フェリペ神父はチラリとイーズを見て、微かに首を縦に振る。


「そうです。怪我人が出ることは仕方がありませんが、一気に怪我をする冒険者が増えました」



 そして次に起こったのはポーション不足。

 怪我人の増加に加えて、素材採取をする冒険者が減ったためだ。


 フェリペ神父の説明に、三人はハッとした顔をする。

 確かに昨日生産者ギルドで、採取冒険者の納品が減っていると言っていた。


「ここで、エンチェスタ拠点の冒険者クランと、マジックバッグだけを求めて訪れる冒険者に差が出始めます」

「差……生産者を抱えているかどうか?」

「それもありますが、マジックバッグを狙えない低級冒険者もクランにいることです。

 その冒険者が採取をすれば、クラン内の供給が減ることはありません」

「なるほど。確かに、内製できればポーション不足の影響はないな」

「そうです。すると次は治療院が混み始めました」


 その言葉に三人は思わずううっと唸る。

 負の連鎖の先が徐々に見えてきたからだ。


「治療院に勤める光魔法使いも、魔力は潤沢にあるわけではありません。

 増え続ける怪我人に、怪我の度合いで優先度をつけるようになりました」

「当たり前っちゃ当たり前だな。全員癒してたら間に合わない」

「その通りです。では小さな傷、打撲や捻挫などをした冒険者はどうするか。

 そのままでダンジョンに入れば、さらに大きな怪我をしてしまうかもしれません」

「そこで、教会を頼った?」


 ハルの問いにフェリペ神父は頷く。


「通常、教会の光魔法使いは治療院に派遣され、そこで対応をします。

 教会で直接治療を行うことはありません。教会はあくまで女神様と語らう場ですから」


 しかし、神父は修行として治療院に勤めた経験を持つものが多い。

 血が苦手だったり、冒険者を相手にすることを嫌って修行以降は治療院に行かなくなるが、経験者ということは変わらぬ事実。

 

「それを知っている冒険者がいたのでしょうね。

 『教会にいる光魔法使いを頼ればいい』という流れが出来上がりました」

「それに教会トップの不在が重なった?」

「その通りです。突っぱね続けることもできず、教会でも治療を受け付けるようになりました」


 返ってきた答えに、ハルは唸り声を上げながら天井を見上げる。

 フィーダは重いため息をつき、フェリペ神父にさらに質問を重ねた。


「それはいつから?」

「夏前には始まっていたかと」

「それでついに、最近教会の光魔法使いも対応できないほどになったと」

「はい。私は光魔法スキル持ちではありません。ですが、神父は全員治療できると考えた冒険者が、ここを訪れることが多くなりました。先ほどご覧になった通りです」


 フェリペ神父は微かに苦い笑みを浮かべ、組んだ手にキュッと力をこめる。


「なるほど。冒険者と教会の関係は理解しました。ご説明ありがとうございます」

「いえ」


 ふっと息を吐いたフェリペ神父の前に、イーズはコトリと暖かな湯気を上げるコップを置く。


「お話ありがとうございます。お茶をどうぞ。あと、クッキーも」

「これはありがたい。イーズさん、いただきます」


 イーズの気遣いに嬉しそうな笑顔を浮かべ、フェリペ神父は組んでいた手を解いてカップを手で包む。

 少しだけ四人の間に柔らかな空気が流れた。


「イーズ、俺にも頂戴」

「はいはーい。クッキーも?」

「もちの論」


 自分たちの前にもお茶とお菓子を並べてくつろぐ。

 三人はここまでの話を飲み込むように、口に入れたクッキーをゆっくりと噛み砕いた。





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