2-3. クチコミ
ちょっと説明が多いです。
「これはもしや!」
「イーズちゃん欲しがってたでしょ〜。うちの世界産よ」
「女神様素敵! これを求めていたんですよ!」
「おい、イーズ?」
「これがあるということは……まさかまさか?」
「イーズちゃんの想像の通りよ」
「やったぁ! ありがとうございます! これで異世界生活に目標ができました!」
「イーズ、落ち着こうな?」
「いいの、いいの〜。私だってこの世界のいいとこを知ってもらいたかったんですもの」
ひとしきり泣いて少し落ち着いた頃、「喉が渇いたでしょう。新しいお茶を出すわ」と言って出された飲み物の正体に気づき、イーズは激しい興奮で震えている。
出された茶色い液体から香るほのかに芳ばしい匂いは、明らかに紅茶でもコーヒーでもない。それは、ほうじ茶だった。
ほうじ茶があるということは、確実に緑茶もあるはずだ。この世界のどこかに、必ずあるという女神の言葉。これを天啓と言わずなんと言う!
シリアスも何もかもぶっ飛んだイーズの様子に、ハルも泣いたり抱きしめたりして感じていた照れがぶっ飛んだ。
「これはね〜、タジェリア王国の西部で作られるから、国境付近でもすぐ手に入れられると思うわ。
緑茶は味にこだわりたいなら、中央から東部ね。あと、烏龍茶に近いものは、アドガン共和国の一部の島で飲まれているわ。どちらかといえば薬の扱いね」
「なるほどなるほど。これはタジェリアルートをゆけという事ですな!」
「ふふっ、ぜひ異世界旅行を楽しんでもらわなきゃと思って、イーズちゃんが来たら出そうと決めてたの」
「もう! 素敵すぎます!」
「イーズ……」
マジックバッグの物を出して問題ないと言われ、イーズはハルを突いてピンクの包装紙に包まれた大好きなあんころ餅を出させる。
さらに自分の指輪からも、駅で買ってあったミニ羊羹各種を並べる。
イーズの認識では、ほうじ茶には和菓子が欠かせないのである。
「本当に中学生かよ」
「日本のものに敬愛の念を抱いているだけです」
「さいでっか」
女神も交えてイーズ的ベストマッチを楽しみながら、この世界で楽しめる食べ物や文化を教えてもらう。
二人とも「アドガン共和国のとある島でしか食べられない幻のエビ料理」には目を輝かせた。
情報ネットワークは地球ほどではないが、そこそこ発展しているという。一方で、移動技術はまだまだらしく、“次の機会に行こう”とは気軽にできない世界。
女神を情報源にするのは凄まじいレベルでのズルだとは思うが、こちとら異世界初心者。今の時代、現地人情報と口コミは等しく威力を持っているゆえ、使えるものは何でも使っちゃる、というのは元食品バイヤーのハルの意である。
「元の荷物に入っていたものっていう縛りはありますけど、異世界に来てもこうやって日本のものが食べられるのは、本っ当に感謝しかないです。
お話では一部地域で日本に近い食文化があるみたいですし。人はパンだけで生きていけないのです」
「……宗教家か。俺は欲を言えば、地球からお取り寄せができたら嬉しいんだけどね」
「ん〜、その気持ちは分かるけど、それをしちゃうと界の境目がつながりっぱなしになって、召喚以外でも物や人がボロボロ落ちてきちゃうことになるのよ」
「それは危ないですね。大丈夫です。私は今持ってる荷物で十分満足しています。貪欲なハルと違って」
「俺だって満足しとるわ!」
甘いお菓子と美味しいお茶で心とお腹が満たされると、話は当然現実的なものになる。
「来週には成人の儀を受けようと思います。その時もこの場に呼ばれるんですか?」
「――いいえ。あなたたちと直接会って話すのは、この場が最初で最後です」
当然また会えると思っていた二人は、驚きを隠すことができない。
そんな二人を見、女神は少し困ったような、それでいて慈愛に満ちた顔で微笑む。
「制約はね、守らないといけないの。
あなたたちは、いえ、異世界人は誰も、この世界では成人の儀を受けるはずがない存在。
それを無理矢理私たち二柱が捻じ曲げ、そしてこの場に呼んだ。
これ以上は、私は干渉すべきでない。
だから、ごめんなさいね」
初めて女神から伝えられた謝罪に、ハルもイーズもどう応えれば良いか分からない。
言葉を探して逡巡する二人に女神は、にっこり笑ってこう言い放つ。
「だから! お二人には大大大サービスで! 成人の儀で欲しいスキルを決めてもらいます!」
語尾に「パンパカパーン! パチパチパチ〜!」とまでつける女神に、二人は別の意味で言葉が出なくなったのである。
女神曰く――
既に持っているイーズたちのスキルは、地球での経験を基にしておりこの世界由来ではない故に、非常にスキル成長スピードが早くなっているらしい。
だが地球とのつながりは徐々に薄れ、一年以内に成長は落ち着き、それ以降はこの世界の人々と同じ熟練スピードになるだろうとのことだ。成長が止まってしまうわけではないのは安心である。身長と違って。
一方、成人の儀で授けるスキルは、この世界のルールに則したものとなるため、異常な成長をしたりはしないという。ちょっと残念だ。
またスキルは熟練度で成長するが、ステータスには現れないし数値で測ったりもできない。そのため、例えば同じスキルを持った二人どちらの熟練度が高いかは、実際にスキルを発動して見せるしかない。
これは保持スキルレベルが無限大である二人にとって、非常にラッキーである。十五歳と十四歳という幼さで、異常なレベルのスキルを持っていることがバレたりする危険性が低いということだからだ。バレて国や悪人に奴隷のように働かされる、なんてフラグは最初から無い方が良いのである。
ちなみに、この大陸には奴隷制はないらしい。ちょっと安心だけど、“この大陸には”というフレーズに不穏なものを感じる二人であった。
「スキルに関しての基本的な知識はこんなものね。他にあるかしら?」
「剣術や木工、鍛治といったスキルがなくてもできるものがありますが、スキル持ちとの違いは何ですか?」
「いい質問ね、ハル。それは作業スピードの違いとか、完成度の高い技や作品ができる、といったものに表れるわ。スキルなしでは十回に一回しか成功しない技を毎回完璧に繰り出すとか、希少な材料で確実に作品を完成させるとかかしら。
そういった、スキルなしでもできる分野のスキルを“一般スキル”というの。武術、芸術がこれにあたるわね。
火や水魔法など魔法に素養がないと発現しないスキルはそのまま“魔法スキル”ね。貴族に多く発現すると言われるけど、可能性はあくまでランダムよ。神様が保証するわ。
最後に、あなたたちの鑑定眼や隠密など、真似が容易にできなくて本来発現しにくいスキルは“特殊スキル”になるわ」
「他の特殊スキルにはどんなものがありますか?」
「ん〜、縮地、読心、洗脳、魅了、転移、石化、複製……」
「な、なんか、すごく不穏なスキルが幾つもあるみたいなんですけど!」
「大丈夫よ〜、イーズちゃん。作ったスキルにはそれぞれ対抗措置が取れるようにいつもしてるから」
「ならいいんですけどね。やっぱカミサマコワイ」
色々話を聞いてスキルの仕組みなどは理解できた。だが、どのスキルが欲しいかをすぐに決めるのは非常に難しい。
二人に戦闘スキルはないため、どちらか一方でも戦えるスキルが欲しいというのはぼんやりある。
結局この日決めるのは諦め、ハルは一週間後に、イーズは半年以上先の誕生日後の成人の儀でお願いすることにした。
さて、じゃあもうお別れの挨拶をしなきゃいけないかなとイーズが少し寂しく感じていると、ハルが少しためらってから、もう一つ彼がずっと気になっていたことを尋ねた。
「最後にもう一つだけ。
ラズルシード王国とアドガン共和国の国境地帯、樹海もしくは腐海と呼ばれる地域。ここはもう一つ別の名で語られることがあります。
それは――女神に見放された地、と。
何百年も放置されたこの場所には何があるのか、教えていただけますか」





