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逃亡賢者(候補)のぶらり旅 〜召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます〜【書籍3巻11月発売!】  作者: BPUG
第二部 第八章 黒髪貴族編

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8-5. 回復と治癒



 朝、宿の前に迎えに来た馬車を見て三人は固まる。

 昨日乗った馬車もそこそこ豪華だったが、これはどう見てもそれをはるかに上回る豪華さ。


「皆さん、おはようございます」


 そう言って御者台から降りてきたシェゼルに視線を送った後、イーズはチラリと馬車の扉を見つめる。

 悪い予感しかしない三人。


「中で領主様がお待ちです。どうぞ、ご遠慮なく」


 そう言いながら開かれた扉。

 確かに、奥に誰かが座っているのが分かる。

 視線で譲り合い、フィーダがまず乗り込む。


「お邪魔します」

「さっさと乗れ」


 時間を大切にする領主のお叱りを受け、続いてハルとイーズも素早く席に着く。


「領主様もご一緒だとは、知りませんでした」

「知り合いが勤めているからな」

「それで昨日よりカジュアルな格好なんですね」

「親しみやすい感じです」


 ハルとイーズが口々に服装について感想を述べると、領主はふと窓の外へ視線を逸らす。


「――そうか」


 イーズは口をモニョモニョさせた後、ポツリと「ツンデレ」と呟いた。



 


「領主様、ようこそいらっしゃいました」

「ロッサリエ、変わりないか?」

「一週間で何も変わりませんよ」

「最近は少しずつ冷えている。暖かくしているか」

「ええ、ええ。大丈夫です。毛布も昨日沢山いただきましたから。本当にありがとうございます」

「そうか。他に必要なものがあれば言うんだ。いいな」

「分かってますよ。ほら、お客様を放っておいたら駄目でしょう」

「む」


 チラリと後ろにいる四人を見た後、領主はすぐ女性に向き直りまた話を始める。

 どうやら領主の中で四人は意識をするほどの価値もないらしい――今、この瞬間は。


「ロッサリエは俺たちのパーティーの治癒師だったんだ。ま、氾濫が終わったらパーティー解散で、今はここの職員してるのは見れば分かるか。んで」

「領主様と恋仲?」

「そ、バレバレっしょ? 絶対くっつくと思ってたんだけど、あいつが領主になって、ロッサリエは身を引いちゃって」

「うわぁ、本当に運がない」

「でしょう。もう、周りからもなんでだよって叫びが上がったけど、本当にこればっかりはねぇ」


 少しだけ寂しそうな顔で、嬉しそうに話をする二人を見つめるシェゼル。


「他に直系は? なければいつか貴族の義務が必要だろう?」


 フィーダの表現にイーズが首をかしげると、ハルは少し目をそらしながら「政略結婚」とつぶやいた。 


 ――なるほど。


 貴族的義務と言えば血を残すこと。その前に結婚があるというわけか。


「それがねぇ、あいつが嫌がるってのもあるけど、貴族もね。ホラ」


 そう言ってシェゼルは髪の毛を指さす。


「馬鹿馬鹿しいな」

「でしょう。あいつを貴族に縛り付けておきながら、その存在を認めない。本当に腐ってるよ」


 フンッと鼻息を飛ばしながら、シェゼルは口をゆがめる。 


「今日、本当はここに来てもらったのは――」

「シェゼル」


 シェゼルの言葉を、途中で領主が止める。

 思わずそちらに顔を向けると、眉を寄せ怒りをあらわにした領主がいた。


「昨日言ったはずだ」

「俺は納得してないぜ」

「これは命令だ」

「その命令が間違っていると思ったら止めるのが、俺の仕事だ」


 バチバチと火花が散りそうな二人の会話に、三人は全くついていけない。

 シェゼルが言いかけたセリフから予想すれば、この治療院に来た理由は何か自分たちの力が必要だからなのだろう。もっと言えば、おそらくイーズの――勇者の光魔法の力が。

 なんとなく三人で顔を見合わせていると、ロッサリエがスッと前に進み出て可憐な微笑みを浮かべた。


「皆さま、この二人はこうなると長くなりますので、中に入りましょう」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いえいえ。わたくし、この治療院で治癒師として働いておりますロッサリエと申します」

「B級冒険者のフィーダだ」

「D級のハルです」

「同じくD級のイーズです。あの、私も光魔法使います。もしよろしければ、コツや工夫していることを教えてください」

「まぁ、同じなのね。こんな若い子に教えられるなんて、なんて光栄なんでしょう。楽しみだわ。さ、行きましょう」


 そう言って先に進みだすロッサリエを追いかけながら、ハルがフィーダに向かってつぶやく。


「フィーダ、これってチャンスじゃない?」

「チャンス?」


 チラリと後ろに視線を送り、まだ外で言い合いをしている領主とシェゼルを指す。


「何で揉めてるか知らないけど、勝手に解決しちゃうチャンス」

「おい……」

「シェゼルさんはきっと、何か領主のためを思って俺たちに依頼したい。おそらく治癒……もしくは再生」

「バドヴェレスの復活を知っているんでしょうか?」

「翼が再生する可能性があるってとこまでしか、きっと話は伝わってないと思うけど、俺たちが勇者だってことで結びつけることはできるだろうね」


 建物の中に入り、外の二人は完全に視界に入らなくなったところでハルが立ち止まる。


「――ハルさん?」


 急に立ち止まったハルをいぶかし気に見上げるロッサリエ。


「ロッサリエさん、あなたはあの二人が言い争っている原因をご存じですか?」

「え、ええ。知っています」


 突然のハルからの質問にうろたえながらも、ロッサリエは正直に答える。


「あなたは、どちらに賛成ですか? 領主様? シェゼルさん?」


 その問いかけに少しだけ戸惑うように視線をさまよわせた後、ロッサリエはまっすぐにハルを見つめ、毅然と答えた。 


「私は――」





 薄暗いベッドには一人の男性が横たわっていた。


「彼が?」

「グルシュ……領主代理の弟君、ラウディーパ様です」

「代理?」

「ええ、多くの方は勘違いされていますが、グルアッシュ様は代理です。今は……」

「そう、そういうことですか」


 最後を濁したロッサリエに向かって、ハルは軽く頷く。

 領主の弟は亡くなったと思いこんでいたイーズは、驚きを隠す事なくベッドの上の男性を見つめる。


「彼の状態は?」

「氾濫の際に負った傷が原因でほぼ全身が動かない状態です。意識が戻ることも最近は稀です。この四年、何とか治癒魔法で彼を支えてきていますが、どんどん効きが悪くなっていて」


 俯いてあきらめを漂わせるロッサリエから視線をそらし、ハルは男性ラウディーパを診る。

 生きているのが不思議なくらいにやせ細った手足、眼も落ちくぼみ、唇は乾いている。静かな部屋だというのに、その呼吸は耳を澄ましても聞こえないほど微弱だ。


「鑑定だと、彼の体に少し毒が残っているようですが?」

「彼は若いころに猛毒を持つ魔獣マンティコアに刺されたことがあります。まだ影響が?」

「そのようですね。血の巡りが悪いため、治癒魔法も効きにくいのかもしれません。イーズ」


 ハルに呼ばれ、イーズは一歩前に進み出る。


「まず、ポーションを試して様子を見よう。体力がなさすぎるから、一気に体を治すと逆に命に影響が出そうだ」

「はい。マンドラゴラの解毒剤と、ヒールポーションでいいですか?」

「ああ」


 ハルの返事にイーズはジャステッドで作ってもらっておいた解毒剤と、小さなヒールポーションの錠剤を取り出す。 


「ありがとう。まずは解毒剤をこの中に入れてくれる?」


 イーズは小さく頷き、ハルの手の上に浮かぶ小さな水球に解毒剤をゆっくり慎重に注ぐ。

 イーズが全部注ぎ終わると、ハルはその水球をラウディーパの口元に持っていき少しずつ体内へ流し込んだ。

 目をつむり、水の中から解毒剤が血液に働きかけ、そして徐々に細胞に浸透していく様子を観察する。

 じっと静かに誰も動かない時間は、数字に表れる以上に長く感じられる。

 そして一分が経った頃、ハルは目を開け、治療の第一段階が終わったことを告げた。


「よし、解毒は完了だ」

「あ、ありがとうございます!」

「まだまだこれからですよ。イーズ、次のヒールポーションを」

「はい」


 ペリッと錠剤を包装から押し出し、イーズはそれを再度差し出された水球の中にポトリと落とす。

 ハルも、先ほどと同じくそれを患者の口から体全体に行きわたるのを確認した。

 これで第二段階の完了。


「良し、これで一旦体力的な面では問題ないだろう」

「解毒と、体の衰弱を治されたんですか?」

「はい。ここから先が一番重要です。イーズ、座って」

「はい」

「彼の手を握って」

「はい」

「俺は反対側に回るから」


 ベッド側の椅子に腰掛け、イーズは目の前に置かれたやせ細った手に自分の手を重ねる。

 成人男性なのに、イーズと全く変わらないほど細い指は微動だにしない。

 ふわりと優しく両手で包み込むようにしてから、イーズはベッドの反対側に座ったハルと視線を合わせる。


「イーズ、まずはゆっくり、魔力だけを流して。首のあたりに異変を感じるはずだから」

「はい」


 積み重ねた魔法の訓練で、イーズは繊細な魔力のコントロールができるようになった。

 これほどの重症患者に自分の魔力を流すことになるとは思わなかったが、絶対に傷つけない自信はある。

 サトと遊ぶ時のように、糸のように細く束ねた魔力をラウディーパの体の中に送り込んでいく。

 異変はすぐ見つかった。彼の首の周囲に変形した骨と、骨に圧迫されて傷ついた神経を捉える。


「――ありました」

「よし。目標はその周りの骨、神経を再生させることだ。俺はこちらから水魔法で他の臓器の動きをサポートするから。バングルもちゃんと使えるな?」

「はい、大丈夫です」


 しっかりハルを見返すイーズに、ハルはフッと力の抜けた表情をする。


「よし。じゃあ、フィーダ、合図して」

「え? 俺が?」


 緊張した面持ちで成り行きを見守っていたフィーダは、突然の指名に驚いたように自分を指差す。


「いつも攻略の時はフィーダの合図ですからね。やっぱりここはフィーダがビシッと」

「訳分かんねぇがまぁいいだろう。行くぞ」


 ハルとイーズはラウディーパの手をきゅっと握り、フィーダにまっすぐな視線を向ける。

 彼らの前に差し出された三本の指。

 二人の頷きとともに、それが動き出す。


 ――スリー


 ――ツー 


 ――ワン


 声のない、フィーダのカウントに合わせハルとイーズは同時に魔法を発動させた。

 イーズはさっき送り込んだ魔力の糸を駆け上がるように、治癒魔法を発動させる。

 その魔法は繊細な神経を包み込み、ひび割れ、歪に固まった骨をまっすぐに修正していく。

 その間、同時にハルの聖魔法がラウディーパの体中を駆け巡っているのを感じる。

 首の神経と骨が完全に治癒された後、イーズも同じように魔力を体全体に走らせ弱った体の回復を促す。


 ――追っかけっこしてるみたい。


 ハルの魔力を追いかけるイーズの魔力。

 息をのんで様子を見守るフィーダとロッサリエにも、ラウディーパの皺皺になった皮膚や枯草のようだった髪の毛までが徐々に蘇っていくのが分かった。

 一分、二分、そして三分。

 ついに二人の追っかけっこは終わる。


「よし、もういいよ、イーズ」

「はい」


 ハルの言葉に、イーズはゆっくりと手をほどき、自然と前のめりになっていた体を起こした。


「うん、鑑定でも問題ない」

「ふぅ、良かったぁ」


 ハル医師の太鼓判が押され、イーズは全身から力を抜き、ホニャッとした笑顔を浮かべる。

 そして喜びを分かち合おうとロッサリエを見上げた。

 彼女は目を見開き、震える両手の指先で口を覆っていた。

 そして、一粒、二粒、声もなく涙をこぼし始める。

 イーズは立ち上がり、そっと彼女の背中を押して自分が座っていた椅子にロッサリエを座らせた。


「手を、握ってあげて」


 震えるロッサリエの手を取り、まだ痩せ細っているが生命力が戻ったラウディーパの手に重ねる。


「あ、ああ……ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ボロボロとこぼれる涙をぬぐいもせず、ロッサリエは両手で包んだラウディーパの手の甲に額を当てる。


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 小さく礼を言い続ける彼女の頭を軽く抱きしめてから、イーズは一歩離れる。

 そして三人はそっと部屋を後にした。




 建物から外に出ると、さすがにもう領主とシェゼルの姿はそこにはなかった。

 もしかしたらロッサリエとフィーダたち三人を探しているかもしれない。

 三人はそのまま正門を逸れて別の門から治療院の敷地を出た。


「あれは、治癒魔法一発じゃダメだったのか?」

「駄目じゃないけど、ほら、また一気に魔法使ってイーズが魔力枯渇になっても困るし。それにある程度のパフォーマンスは必要だと思って」

「パフォーマンス?」

「そう、ロッサリエさんも治癒魔法が使えるだろ? だから俺たちが“二人で”、“特別なポーションを使った後”に、“時間をかけて”治癒することで彼女には『治癒魔法だけでは治せなかった』っていう意識が残る。

 あと、四年間の彼女の頑張りを一秒そこらでかき消すのはどうも、ね」


 ハルの立てられた三本の指がワキワキと動くのを目で追いながら、イーズはそれに続く。


「ハルが鑑定魔法で一番損傷が激しい部分を指定することで、漠然と体全体を治癒するより魔法の発動の手ごたえが違った気がします」

「あ、やっぱ? なんとなくそれは俺も思ったんだよね。まだまだ魔法は奥が深いね。

 ラウディーパさんには悪いけど、いい被験者になってくれたよ」


 うんうんと頷くハルに若干冷たい視線を送りながら、フィーダは諦めたように呟く。


「まぁ、お前たちが好きなように動けばいい」

「あ、しまった」

「どうした?」

「サトのだし汁も置いてくるべきだった」

「そっか。回復効果がありますものね。スープに使ってもらえばよかったですね」


 後ろを振りむいて治療院を見、イーズは小さなため息をつく。


「戻ったらめんどくさそうです」

「今日はやめておこっか」

「そうだな」

「宿に戻っても微妙だよなぁ」

「じゃあ、ついに観光できますね!」

「フィーダの俯瞰で宿への道は分かるよね?」

「ああ。だが馬車で来たから少し遠いな。途中で乗合馬車拾うか?」

「そうしよう。このあたりに店は多くなさそうだし」

「やった! 美味しいお昼ご飯!」

「乗合馬車で情報手に入るといいな」


 すっかりご機嫌でお昼ご飯の相談をする二人の後ろを歩きながら、フィーダはチラリと背後の治療院をもう一度見る。

 そして明日、いや、早ければ今日の夜にでも宿にやって来るであろう人物の顔を思い浮かべてため息をついた。


 ――すっかり終わった気分になっていられるのは、宿に着くまでだな。


 目立ちたくないと言いながら、なんだかんだで騒動を起こす異世界人二人にあきれつつ、フィーダは楽し気に目を細めた。




不思議魔法のなんちゃって医療です。

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逃亡賢者(候補)のぶらり旅3 ~召喚されましたが、逃げ出して安寧の地探しを楽しみます~
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― 新着の感想 ―
2周目。1周目でも思ったけど あの面倒くさい領主を置いてきたら面倒くさいことになるじゃん!…じゃん!…ん!(エコー
[良い点] >不思議魔法のなんちゃって医療です。  ◇ ◇ ◇  〜フィクション・ファンタジーなのだから、なんでも有り〜の処を『如何にもそれらしく』説明して現実との乖離を抑えるのが書き手の腕の見せ…
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