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8.伯爵家での生活



クロイツ伯爵家のお屋敷に住み込むようになって一週間が過ぎた。


奥様はメイドに私の部屋を作るよう言いつけると、次の日にはピンクとレースたっぷりのキラキラしたお姫様部屋が出来上がっていた。


そのお部屋の出来栄えに喜んだのは他ならぬ奥様だった。


そしてメイド達はどこから取り出したのか、ピンクのフリフリドレスを私にサッと着せると髪をリボンで結んだ。


「まああ!なんて可愛いの!」


奥様は私を見て悶えている。


〈あはは、恥ずかしいけど気に入ってもらえたならよかった。〉


しかし、この時の私は奥様の怖さをまだ知らなかった。奥様はおもむろに首を傾げると、


「青系も似合うんじゃないかしら?」


と言ったのだ。


すると、メイド達はどこから取り出したのか今度はライトブルーのドレスを出すと、凄い勢いでドレスを脱がし、凄い勢いで青いドレスを着せたのだ!


〈あわわわ!!〉


早着替えにパニックになる。


「黄色いドレスを着たルシアちゃんも見てみたいわ。」


メイド達の目が獲物を狙うように光った!


〈あーれー!〉


メイド達に嵐の様に脱がされ、目を回しているうちに黄色いドレスへと変わっていた……


奥様は始終ご機嫌で、その後何着か着せ替えごっこをすると、やっと解放された。


早着替えの連続に目を回していると、カイルさんがやってきた。


ふらふらしながらドアを開けると、カイルさんが抱き止めてくれる。


「叔母上のおもちゃにされてたんだな。」


私はコクコクと頷く。


カイルさんはお姫様抱っこでソファーまで運んでくれると、優しく降ろしてくれて、ニコニコしながら私の頭を撫でた。


〈!!!顔が近い!しかも頭なでなで……〉


早くも頭が沸騰し始める。


「クスクス。お前って本当ウブだな。」


カイルさんは向かいのソファーに座ると、寄ってきたモコちゃんに餌付けし始めた。


沸騰してポンコツになりかけていた頭をなんとか立て直すと、改めて向き合った。


「カイルさん、失礼しました。

何かご用でしたか?」


「カイルでいい。それと敬語もなしだ。今日はお前と色々話をしたくて来たんだ。」


「では、カイルと呼ぶわね。」


「ああ、そうしてくれ。

そういえばお前はいくつだ?」


「14歳よ。」


「なら俺と同い年だな!」


カイルの言葉に目を見開いた。


「えええっ!もっと年上だと思ってたわ。」


「人並みより背が高いからよく年上に間違われるんだ。」


カイルの背が高い事もあるのだろうが、とても14歳とは思えない大人の色気を醸し出している所もそう見せているのだろう。


「……カイルは伯爵様の事を“叔父上”と呼んでいたけど、伯爵様のご親戚なの?」


「いや、実は俺の父が元貴族で、クロイツ伯爵と無二の親友だったんだ。伯爵様は俺の事も息子のように可愛がって下さっているから、俺も親しみを込めて叔父上と呼んでいるんだ。」


カイルが時たま見せる貴族の様な仕草はそこから来てるのかと納得がいった。


「始めて会った時、冒険者の様な格好をしていたけど、カイルのお仕事はもしかて冒険者なの?」


「正解。一応これでもSランクなんだぜ。」


「えええっ!!そうなの?まだ14歳なのに凄い!」


冒険者はFランクから始まり、Aランクで超一流だ。

その上のSランクともなれば英雄クラスである。


「俺は“光魔法の使い手”なんだ。」  


その言葉を聞いて納得した。


【光魔法】とは別名【エリート魔法】とも呼ばれていて、他のどの属性よりも威力が強く、魔物の【闇属性】に対して強い効果を発揮するのだ。


しかし、光属性を持って生まれる者は希少なため、“光魔法の使い手”はどこでも重用される。


前前世では、「光魔法の使い手が生まれたら一家安泰」とまで言われていた。


「去年、オルトスにドラゴンが襲来して、そいつを俺が倒したんだ。」


「!!カイルは“ドラゴンスレイヤー”なの?」


「まあ、そうだな。」


カイルは照れたように言った。


ドラゴンは魔物の中でも最強種だ。

そのドラゴンからこの街を救ったならば、英雄としてSランクに昇格してもおかしくはない。


「カイルって凄い人だったのね。」


「力を自慢するわけじゃないが、そう言うわけだから、お前を守ってやれるぞ?」


カイルの言葉に胸がキュンとする。


〈守ってくれるなんて。そんな爽やかな笑顔で言われたらときめいてしまう。〉


それからカイルと沢山お話しした。


カイルは冒険した時の失敗談を面白おかしく話してくれるので、いつの間にか話しに聞き入ってしまう。


夢中になって談笑していると、しばらくしてメイドがお茶の準備ができたと呼びにきた。


カイルのエスコートでティーサロンに入ると、テーブルに可愛らしいお菓子が所狭しと並べられている。


奥様が王都から美味しいお菓子を私の為に取り寄せてくださっているのだ。


「私ずっと娘が欲しかったのよ。ルシアちゃんが来てから毎日が楽しいわ。」


そう言って実の娘のように可愛いがってくださる。


〈ヨム様。クロイツ家の皆様という、素敵な家族と巡りあわせてくださって、ありがとうございます。〉


心の中で祈ると、風がふわりと頬をくすぐった。


しばらくすると伯爵様もお仕事が終わってやってきた。


皆でいただくアフタヌーンティーはとても楽しい。


皆で談笑しながらゆったりとした時間を過ごしていた時、奥様に手紙が届いた。


奥様は手紙を読むと、パアアっと顔を輝かせて言った。


「ルシアちゃんの家庭教師の先生が決まったわ!スーザン・クレイン先生と仰る超一流の先生よ!」


そう仰ると、楽しそうにるんるんしている。


一方伯爵様は渋い顔だ。


「クレイン先生は確かに超一流だが、厳しい事でも有名だ。そんな先生をいきなりつけてはルシア君が可哀想ではないかね?」


「あら、あなたも気づいてらっしゃると思いますけど、ルシアちゃんは異国式ではあるけれど所作が洗練されてます。しっかりした教師をつければ、きっとどこに出しても恥ずかしくない娘に育ちますわ。」


「それはそうなのだが……」


するとカイルが尋ねた。


「そのクレイン先生というのはそんなに凄いのですか?」


「ああ。クレイン先生は長年王宮のマナー講師をされていた方でな。先の王妃様のお妃教育も受けもたれた程の実力者だ。確かにこの上ない教師ではあるが、指導が厳しい事でも有名だからな……」


伯爵様の言葉にカイルは渋い顔をした。


「俺は反対です。ルシアは記憶喪失で不安定なのに、そんな厳しい指導に耐えられるとは思いません。」


伯爵様はカイルの言葉に頷いているが、奥様は自信たっぷりの表情をしている。


その様子を見て私は思った。


奥様はきっと身寄りのない私に、“生きる力”を授けてくれようとしているのだ。


「奥様、ありがとうございます。精一杯頑張ります。」


そう決意をすると、奥様は満足気に微笑んだ。

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