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4.生まれ故郷



ドン!ドン!ドン!


「きゅう!きゅうう!」


何かが叩きつける様な音と、モコちゃんの必死な声で目が覚めた。


モコちゃんが私を必死に引っ張って起こす。


「……なんだろう?」


テントに大きな影が映っている。


チャックの隙間からこっそり外を見ると、なんと巨大な蛇の魔物がテントに体当たりしていたのだ!


「きゃああああ!!」


慌ててチャックを閉めるとモコちゃんを抱いて震えた。


〈どうしよう!あんなに大きな魔物と戦った事なんてないよー!〉


私が怯えて涙目になっていると、蛇は更にテントに噛みついてきた。


ヨム様の結界のおかげでなんとか持ち堪えているが、このままでは壊されてしまうかもしれない……




「ヨム様!イチゴ大福をお与え下さい!」


すると目の前にポンっとイチゴ大福が現れた。頼んでおきながらどんな力を借りたらいいのかわからず、慌てふためく。


パニックになっていると、イチゴ大福が口の中に飛び込んできた。


脳内のステータス表示に、

【狩猟スキル】(自動補正付き)

が、加わっている。


そして脳裏に“メッセージ”が浮かんだ。


──『テントの隙間から水の槍を放ってごらん。』


私は言われた通りに水魔法を放った。


「アクアランス!!」


当てずっぽうな方向に放たれた水の槍はくるりと方向を変えて、真っ直ぐ巨大蛇へと向かっていった!


〈まさかこれが【狩猟スキル】の自動補正!?〉


水の槍が巨大蛇の頭に刺さると、蛇はビクビクと痙攣した後、ドスンと倒れて動かなくなった。


またも脳内にメッセージが浮かぶ。


──『この蛇の皮は高く売れるから換金しなさい。』


私は震える体でのろのろと外に出ると、天に向かって感謝の祈りを捧げた。


「ありがとうございます!この蛇を売ったお金は大切に使わせていただきます。」


それから私は、【狩猟スキル】の効果が切れるまで狩猟をする事にした。


ホーンラビットなどの小型の魔物を沢山狩って、マジックバッグへとしまう。


ヨム様のサービスのおかげで時間経過が無く腐らないので、食糧として大切にいただく事にする。


早速モコちゃんと木の実やお肉のスープを食べて力をつけた。



*****



風魔法で補助しながら木に登ると、遠くの方に村が見えた。


「モコちゃん、南の方に村が見えるよ。歩いて2日ってところかな。」


「きゅう!きゅ!」


モコちゃんは高い所に来た事で興奮してはしゃいでいる。しばらくモコちゃんに景色を見せてあげると、下に降りた。


興奮覚めやらぬ様子で飛び回っているモコちゃんの無邪気さに癒される。


私はキャンプをマジックバッグへ片付けると、モコちゃんを抱いて南の方向へと歩きだした。


モコちゃんはとても優秀で、魔物が近くと警戒して知らせてくれるのだ。おかげで大きな魔物と戦わなくても隠れてやり過ごす事が出来た。


そうこうしながら歩く事二日、無事に森の外へと出る事ができた。


「やった!村が見えたよ!」


どんどん村に近づいていって……足が止まった。


「……ここ知ってる。私が生まれた村だ。」


建物などすっかり変わってしまったが、遠くに見える山並みや教会の尖塔が当時そのままで、私は懐かしさに涙ぐんでしまった。


村の門から中に入ると、お婆さんが訝しげに声をかけてきた。


「お嬢さん、この村に何か用かね?」


お婆さんのよそよそしい雰囲気に、もうここはかつて知った村ではないのだと寂しくなってしまう。


「旅の者ですが、途中で盗賊にお金を取られてしまったのです。

魔物を狩ってきたので、換金していただけると嬉しいのですが……」


「ならうちの店においで。」


そう言ってお婆さんはお店へと案内してくれた。



お店のカウンターにマジックボックスからホーンラビットなどの小物の魔物を出していくと、お婆さんは目を輝かせた。


「こりゃたくさんあるね!ちょうど村の狩人が怪我しちまって、肉が無くて困ってたんだ。ホーンラビットの肉は助かるよ。」


ホクホク笑顔で換金してくれた。


お婆さんの店を出ると、村を散策してみた。


私の生家があった場所は更地になっていて、良く遊びに行った幼馴染の家の食堂も畑になってしまっていた。


寂しさに目を伏せると、懐からモコちゃんが「きゅう?」と心配そうに鳴いた。


「……大丈夫だよモコちゃん。

きっと私が死んでから何年も経っているんだろうね。」


私は唯一当時の面影を残している教会にやって来た。


「いらっしゃい旅の方。」


神父様が温かく出迎えてくださって涙が出そうになる。


「お祈りをさせていただいてもよろしいですか?」


そう言ってお布施をお供えした。


ベンチに座り静かに祈っていると、神父様がお茶を持って来て下さった。


神父様と話すうちに、私の死後百五十年も経っている事を知った。


そして、最も気になっていた事を聞いてみる。


「あの、百五十年前の戦争ですが、セイル王国はどうなったのですか?」


知りたいと思う気持ちと聞きたくないと言う気持ちでないまぜになる。


「史実によると、百五十年前の戦争は、当時のゲルト国王の急死によって呆気なく終結したそうです。」


「へ?」


神父様の意外な言葉に思わず間抜けな声が出てしまう。


「ゲルト国王は持病の悪化によってお亡くなりになったそうです。」


〈そんなはずはない。あの方は至って健康だった。大方お酒の飲み過ぎで脳溢血でも起こしたか……〉


神父様からその後の話しを聞くと、王を失ったゲルト王国はセイル王国に停戦を申し入れた。


新たに国王に即位した王太子は元々戦争に消極的だったそうだ。


〈消極的というより、あの方は女以外に興味が無いだけなんだけどね。〉


そんなわけで、セイル王国は現在も存続しているらしい。それを聞いて永年の心のつかえがとれた。


教会を後にすると、これからの自分の方向性が決まった。


〈セイル王国に行こう。セイル王国で医師になり、前前世の借りを返して行こう。〉


私は一路、南へと進んだ。

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