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霊童〜Lost of memory looking for end〜  作者: 秋桜
第一章『イカれたお茶会と死体愛好家』
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フィリアの部屋 上

 

 淡々と言葉を話すチェシャ猫に疑問を持つ。

 時計になったり、突然消えても隠れていたというよりも見つけてはいけなかったものなのかも。

 よくよく考えてみれば、マッドさんの言葉に疑いが色濃く雲のように覆ってきてる。

『死』などと簡単に言える相手と記憶がない僕。

 そうなると、この屋敷で出会った人物たちを全て信用できないことになる。


「……ダメだ。焦ってはいけないのに」


 頭を抱えても瞼の裏に見えるのは真っ暗な闇。

 一体、何を忘れてるんだ僕は。


「アリス。悩んでも、迷っても、立ち止まっても時間は止まらない。なら、少しでも楽に死ねるほうが良くな〜い?」

「チェシャ猫は何が楽しいんですか? 名前も、記憶も、この姿だって何もわからない僕に何を求めるっていうんだよ!?」


 ただでさえ焦ってしょうがないのに。

 笑っている余裕なんてないのに、自身に苛立ちを覚える。

 身体を丸めて蹲る僕に対してチェシャ猫はいきなり胸倉を掴んで鋭い眼光で睨みつける。


「勘違いするなよ、お前が我輩との()()を忘れているから手伝っているだけだ。楽に死にたいのなら今ここでその細い首を締めればいいだけのことだからな、簡単だ。だが、こちらにも事情がある故にそうはいかない。さっさと決めろ。ここで我輩に殺されるか、我輩の手伝いを素直に受けるか」

「……わかったよ」

「ふんっ! たかが年を指で数えた子供が生意気言いよって」


 チェシャ猫が乱暴に僕をベッドへ投げ捨てる。

 獲物を捕らえた猫のように殺意に見えた瞳。

 殺すことにすら躊躇いを感じないあの小さな指のどこにそんな力を隠していたのか。

 それに、()()ってなんだ?

 さっきの態度と出会った時の態度、どっちもチェシャ猫なのはわかるけど初めて見た気がしない。

 既視感というものなのだろうか。


「それよりも〜、アリス〜? 早く行こ?」

「チェシャ猫はどっちが本物なの……なんですか?」

「敬語はいらないよ。記憶を思い出してくれればそれだけでいい。我輩は我輩だよ、アリス」

「あと一つ、聞きたい。僕は、死ぬの?」

「アリス次第だよ。手伝ってあげるからさ」

「うん。ありがとう、チェシャ」


 ♢


 部屋を出て玄関の左右の窓が気になった。

 白いレースのカーテンに明るい日差しが絵に描いたように綺麗に見える。

 昨日は暗がりのせいでよく見えなかったのかもしれない。

 チェシャ猫は猫の姿になって僕の頭の上をふわふわと浮かんではニヤニヤと笑みを浮かべる。


「こうして屋敷を歩くことになるのはアリスにとっては初めてなのかな?」

「初めて、かな。あの窓みたいに記憶が真っ白だからなんだか新鮮だよ」

「そういうことにしておこうか〜。フィリアの部屋はこっちだよ〜」


 チェシャ猫が先導して前を進む。

 中央階段を降りて食堂のある右側の通路を歩く。

 確か何かあった時のためにカリプは電話番号を書いたメモを届けに来ると言っていた。

 使い方や電話番号を書いているのに戸惑っているのか?


「あの使用人が気になるの〜?」

「電話番号を書いたメモを届けに来るって言って遅れてるから、どうしたのかなって」

「ふーん、別にあの使用人はどうでもいいや。それよりもさ、フィリアの部屋を見たらきっと驚くぞ〜」


 うきうきとした声音で喉が鳴っているのがわかる。

 どういう人なのかはわからないけど、標本が置いてある部屋でしかも……()()()

 冗談なのか、本当なのかは不明。

 人間の標本に見えるだけで人形かもしれない。

 チェシャ猫は食堂から一つ前の部屋で立ち止まるとそのまま扉を通り抜けていく。

 入れ、ということなのか。

 ここまで来た以上には入るしかないか。

 ゆっくりと扉のドアノブを捻って内側に開く。

 覗き込むように室内を覗いて恐る恐る部屋の中へと入る。

 若干の埃が舞っていて全く掃除をしてないわけではないのだけど、少し咳き込みやすい。

 左手で口を抑えながらチェシャ猫がどこに行ったのか、探そう。


「チェシャ猫〜?」


 扉の左右に分厚い本が入った本棚が並んで、真ん中には暖炉とそれを囲むようにソファーが三つ。

 右側には小さな三段の階段があって木材の床とコンクリートの壁、その中央に不自然に置かれた物。

 白い風呂敷のような布で被せられた何かで、この部屋の中で唯一の違和感と言える。


「ここに隠れた? チェシャ猫、返事してくれないと」


 あの悪戯っ子なチェシャ猫のことだ。

 この風呂敷の下で隠れて驚かそうとしているのか?

 それとも標本、なのか?

 先ほどから返答もなければ部屋の主すら顔を出してはくれない。

 勝手に散らかしてしまっては迷惑になる。

 けれども────好奇心に駆られてしまうのは何故なのか。

 指先が触れた刹那、右足で風呂敷の裾を踏んでいたらしく勢いよく床へと落ちる。


「────ぇ」


 透き通るようなブロンドの金髪はサラサラと細かく、肌は飴細工のように白く触れれてしまえば壊れてしまいそうなほど繊細。

 青空のように綺麗で丸い瞳は光を反射しない。

 ゴシック調を基調とした白い服装でフリルが多く、首元以外は露出度が低い。

 指を保護するためか、もしくは隠すためなのか両手だけ黒い手袋を着用している。

 これは、まるで人形や剥製というよりも────。


()()()()()に近い……!」

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