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霊童〜Lost of memory looking for end〜  作者: 秋桜
第一章『イカれたお茶会と死体愛好家』
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屋敷の秘密

 

「いかがだったでしょうか? 本日の朝食は」

「とても美味しかった」

「痛み入ります」


 初めて、で合っているのかはさておいて。

 食器皿を重ねてサービスワゴンを押そうとしているカリプに話題を切り出す。


「カリプ、忙しいところ悪いんだけど昨日の話を聞いてもいいかな?」


 ピタッとカリプの手が止まる。

 すぐさまに手を動かして部屋の隅へと移動させて僕のほうに向き直る。

 相変わらず見えない表情からはなんとなく不安を感じる。


「本当によろしいのですか?」

「うん。何も知らないまま三日後なんて怖いから」


 でも、その半分は死ぬという恐怖に怯えている。

 三日後に消えるとカリプに言われ、マッドさんには死が近づいていると。

 記憶を失くして、ただ無様に死ぬくらいなら少しでも足掻いてみたい。

 どこからか湧き上がる生への執着心がそうさせる。


「わかりました。ですが、その前に一つお約束事がございます。()()()()()出ないでください。何があっても、絶対に。

 事のきっかけは10年前────」


 ♢


 当時の私はこの屋敷に勤めて半年も経たない新人で先輩メイドの補助をして仕事を学んでいました。

 現当主様が正式に後を継ぐ、ということもありまして来客やお客様も今より多く訪れました。

 ────そんなある日の晩。


「次期当主様が倒れた!?」

「誰かが毒を入れたのか? それとも、後継者争いか?」


 料理人がまず疑われる対象になり、次に私たち使用人と身辺調査が行われましたが依然と原因は見つからず……次期当主様はそのまま目を覚ますことはありませんでした。

 それから全てが狂い出したかのように親族の方の争いから始まり、遺産相続を巡る恐ろしい出来事に行方がわからなくなった方も大勢。

 やがて、糸の切れたようにこの屋敷は機能を失っていき宿舎として使われることになりました。


 ────ですが、悲劇はここから始まったのです。


 三日間の宿泊を女性のお客様が予定され、早めの夕食を取られて寝る前のハーブティーをご用意する予定でしたが……。

 突然、豪雨に見舞われるほど激しい嵐の如く吹き荒れました。

 もしもの停電に備えて毛布と懐中電灯を持ってお客様の部屋へ。

 扉を二回ノックして「失礼します」とお声掛けしたのですが、返事もなく就寝なされたのかと思い室内に入った瞬間────酷く生臭い臭いがしたのです。

 どこか食材が腐敗したよりも、まるで何かを腐らせたような臭い。

 先ほどまで寝ていた痕跡もあり、ベッドのシーツも温かいまま姿はありませんでした。

 夜遅くということもあり、メモ書きを使って部屋を後にして次の日の早朝再び訪れることにしたのです。

 ……でも、屋敷の中を探しても()()()()いらっしゃらなかったのです。

 それからです、宿泊なさるお客様が三日後に消えるという現象が起き始めたのは。

 必ず三日後には天気は荒れて部屋を訪れた時には人が消える、と人は当然寄り付かなくなり衰退。

 今ではもう数年に一度訪れるか否かの幻の宿舎に成り果てました。


 ♢


「この屋敷に勤める者も私だけ。食料も毎月に一度、馬車で運ばれてきます」

「一つ気になったんだけど、いいかな?」

「ええ、構いません」

()()()()はどこに?」


 次期当主が何者かによってそのまま帰らぬ人に。

 そこから財産争いや行方不明になる人も多く、屋敷としての機能を無くして宿舎になった。

 宿泊する人間が必ず三日後には消える。

 さっきの話をまとめるとこんな感じなんだけど、現当社はこのお話を知っているのか?


「現当主様は、ご主人様は……今も行方がわかっておりません。二年前、突然街へ出ると言って以降、姿を見たことはありません。私から話せるのはこれで以上です」


 二年前に突然か。

 僕の記憶の手がかりもそうだけど、この現象について一番詳しい人物として話が聞きたかった。

 今も、行方がわからない。

 黒電話も繋がらない場所なら、あるいは森に迷っている可能性も……。


「ごめん、カリプ。辛い話をさせて」

「聞かれたことに答えたまでですので。私はこれから仕事に戻ります。もしもの時は食堂か黒電話で……あっ、申し訳ございません。ダイヤルを記載したメモ書きを事務室に忘れてきてしまいました。すぐに持ってきますので」

「うん。ゆっくりでいいからね、気をつけて」

「それでは失礼します」


 サービスワゴンを押して部屋を出るカリプ。

 廊下を歩いていくのを確認すると室内のどこかにいるチェシャ猫に声を掛ける。


「チェシャ猫、もう大丈夫ですよ」

「やっと? 随分と長かったなぁ、退屈だったなぁ。退屈しのぎにあの使用人の下着を覗いていたけど地味で普通の白い布地だったな〜」


 煙の如く現れて僕を背後から抱きしめるチェシャ猫。

 使用人はカリプのことなのか? 否、思考ヤメ。

 女性に対して失礼だ。


「……んんっ、それよりも案内をお願いしたいんですけど」

「まだフィリアの部屋に飾ってある()()のほうが綺麗だったよ。ちゃんと紫色の布地一式で花みたいで」

「標本? 標本って、動物とかの?」

「記憶がないのにそういう単語は覚えてるんだ〜? 不思議だね〜、我輩のことは覚えてなくて」

「それについては、ごめんなさい。チェシャ猫、その標本ってどんなものなんですか?」

「標本は標本だよ? ()()()


 冷たい指先で触られたような悪寒が背中を撫でた。

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