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霊童〜Lost of memory looking for end〜  作者: 秋桜
第三章『トイ・ボックスと招かねざる客』
33/41

二日間

 

 紅茶と何も乗っていない皿、フォークとナイフ、目の前にはニコニコと笑うお茶会の三人組。


「そっか、僕が今ここにいるってことは気を失ったってことなのかな」

「随分と浮かない顔をしてるね、アリス」

「お腹空いた?」

「小腹空いた?」

「おいおい、どっちも腹を空かせるじゃないか。ガハハハ、スコーンはまだ早いからパンケーキはどうかな?」


 言葉が思い浮かばない。

 ()()()()が頭から離れない。

 横たわるリュークさんとただ血溜まりに座り込んでいた僕。

 もう少し早ければ助かった?

 もう少し伝えることが早かったなら助けられた?


「リュークさん、ごめんなさいっ……あなたに何もできなかった!」


 気持ちが抑えきれず涙が溢れてくる。

 後悔と罪悪感が混ざり合って嗚咽が止まらず、両手で顔を覆い隠す。

 今更、謝っても僕の過ちが許されることはないのに。

 どうしてこんなに涙が止まらないの。

 ごめんなさい、リュークさん。

 助けることができなくてごめんなさい。


「アリス、泣かないでおくれよ。悩みがあるなら俺に話すといい、俺がダメでもそこにいる犬や兎にでも」

「誰がそこにいる犬だ! イカれ帽子!

「誰がそこにいる兎よ! イカれ頭!」

「おいおい、褒めるなよ。照れるだろ? ガハハハ! ほら、アリス。君も笑っておくれよ。泣いた顔より笑顔のほうが君には似合う」

「……僕のことは放っておいてください」

「そうはいかない。レディを一人で悲しませておくほど俺は非常識じゃないんだ、そうだな……()()があったか。たぶん、君も笑ってくれる物もありそうだ。アリス、『おもちゃ部屋』を探してごらん? きっと楽しくてたまらない『トイ・ボックス』が君を待ってるはずさ」

「またそうやって僕が苦しむのを見たいんですか?」

「どう解釈するかは君次第だよ。俺はおすすめするだけで強制的に動かしているわけじゃない。人は命令されるよりも質問されたほうが動きやすい」

「じゃあ、僕から質問します。なんでリュークさんはキャロルと会ってるのに、会ってるはずなのにあんなことになったんですか?」


 キャロルに会っていたからあんな風に取り乱していた。

 優しくて元気なリュークさんを僕は知ってる。

 時間こそ少なかったけど、あれは普通じゃなかった。

 質問されたほうが動きやすいのならマッドさんに答えて欲しい。


「────()()()()()。正確に言えばキャロル自体にそんな恐ろしい能力だとか特技だとか、物語を書くことと基本的な家事以外できない。それは俺が保証する、皮肉なのは申し訳ないが……キャロルに出来るはずがない。あまりにも純粋すぎる故に哀れな最期だった」

「哀れ? あの子が最期まで抱いていた気持ちも知らないで何を知った風に言ってるんですか!?」

「情が移るのは勝手だけど『怪異』に同情するのはいかんせんことだ〜。その、リューク? は確かに『怪異』によって殺された。けれど────本当に()()()()()殺された死に方だったかな?」

「それは……」

「答えを急ぐ必要はない。これはテストでも宿題でも、ましてやすぐに答えなければならない問題じゃない。難しいことを考えるよりも楽しいことを考えよう。『トイ・ボックス』は君を待ってる。君の遊び相手になってくれるさ」


 別に僕は遊び相手が欲しいわけじゃない。

 ただ納得のいかない答えや心のモヤモヤを晴らして欲しくて聞いたのに誤魔化されてしまった。

 これからどうすればいいのかな。


「君の疑問も愚問も、きっと少しは晴れるだろうさ。さて、ここら辺でお開きだ。アリス、楽しんでおいで」


 視界が真っ白になって辺りを包み込んでいく。

 やがと薄らと霧のようになり、そのまま意識が落ちた。


 ♢


「お目覚めになられましたか? アリス様」


 左手で眠気まなこを擦りながら起き上がる。

 周囲を見渡してここが屋敷で自分の泊まる部屋だと再認識するとベッドから足を出す。

 着慣れないパジャマワンピース、ランタンを持った『顔』の見えないカリプが目の前に立っていた。

 確か僕はリュークさんを追いかけて、それで……。


「そうだ!? カリプ、リュークさんは!? リュークさんが玄関で────」

「────何を言ってらっしゃるのですか? どなかは存じませんがアリス様()()いらっしゃらないですが?」

「そんなことないよ! 確かに僕はさっき見た! 血を流して倒れてるリュークさんを!」

「申し訳ありません。あまり状況を飲み込めないのですが、きっと怖い夢を見たのですね」


 ランタンをタンスの上に置き、僕のおでこにひんやりとしたカリプの右手が触れる。

 冷たく感じる手は真っ白で腕も細くて雪のように触れてしまえば崩れてしまいそうに見える。


「少し熱っぽいですね。やはり二日間寝込まれていたのもあって体調が万全ではないのですね」

「二日間? 僕が寝込んでた?」

「はい。二日前、朝食を部屋まで運んでいた時です。酷く魘されているかのように熱もありまして」

「じゃあ、僕の服は?」

「少々、乾くのに時間がかかってしまい今暫くお待ち下さるようお願い申し上げます」


 たぶん、あの後すぐにお茶会だったのは気を失っていたのではなくて寝込んでいたから。

 それも二日間寝込んでいたって相当、危なかったのかも。


「では、お粥をお持ちして参ります。何かリクエストなどありますか?」

「うーん、フレンチトースト?」

「体調を治されてからに致しましょう」


 軽く一礼をして部屋を出ていくカリプ。

 そうだ、チェシャも心配していただろうから後で話しかけておこう。

 リュークさんのことでチェシャも────あれ、リュークさんって()()()()

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