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霊童〜Lost of memory looking for end〜  作者: 秋桜
第一章『イカれたお茶会と死体愛好家』
3/41

イカれたお茶会

 

 ガヤガヤと何やら騒がしい音が聞こえてくる。

 怒鳴り声、笑い声、ガラスが割れる音、再び笑い声。

 騒がしくて眠れない。静かにして欲しい。

 人が眠っているのになんで静かにしてくれないのかな。

 周囲の状況が気になって仕方ない。

 眠たい意識を起こしてゆっくりと瞼を開いて顔を上げてみることにした。


「だから言ったのに!」

「何を!?」

「こらこら、あんまり騒がしいと……ほら、起きちゃった」


 目の前に広がる魑魅魍魎、もとい喋る兎と犬、中央に人間。

 器用に片手でティーカップを持って投げ合っていて足元に転がっているガラス破片の数々。

 気付かぬうちに底が高い椅子に座らされていて一度降りたら、一人では上がれそうにないほど。

 森の中にポツンと不自然に置かれた長テーブル、綺麗なアンティーク柄のティーカップと均等に分けられた苺のショートケーキ。

 左に兎、右に犬、対面する形で見つめる帽子の男。

 少しボロく鳥の羽の付いたシルクハットを被った男は僕を見るとニヤリと不気味に笑う。


「おはよう! 客人は()()()()。今宵、マッドのお茶会へようこそ!」

「ようこそ! いらっしゃい!」

「ようこそ!」

「あ、ありがとうございます? ここはどこなんです?」

「マッドのお茶会だよ。自由に話し、散らかして、喧嘩して、最後は笑う。君の世界で表すなら、イカれたお茶会というべきかな?」

「よっ! イカれたお茶会!」

「やっ! イカれた()人組!」

「おいおい、褒めんなよ! ガハハハ!」


 こうして話をしているのが普通? なのかな?

 それとも僕はまた違う森かどこかに迷い込んだ?

 さっきまで眠っていたのに、次から次へと起こる出来事に頭が落ち着かない。


「チッチッ! 君の場所は変わらないさ。この世界はあくまでも君の夢の世界だ。我々は招待して君が来た。それだけだ、勘違いしてもらっては困る。それにまだ君の名前聞いてなかった!」

「私はサリー!」

「オイラはルーカス!」

「俺はマッドだ」

「僕は、アリスです。仮の名前ですけど」


 兎はサリーさん。赤い目の白兎で片耳が垂れている。

 犬はルーカスさん。黒目の黒犬で首元の蝶ネクタイが特徴的。

 帽子の男はマッドさんでグレーのスーツに先述のシルクハットと相まってかっこよく見える。

 僕の名前を聞いた三人は顎に手を置いて考える。


「カリ?」

「チーズ?」

「それはまた変わった話だね。仮の名前というと?」

「記憶喪失、らしいんです。気づいたら屋敷の前に立っていて自分が何者かわからないんです」


 なるほど、とマッドさんは納得して空を見る。

 サリーさんはフォークをカリカリと齧って、ルーカスは放心状態で考えてる。

 視線を空から僕に戻すとマッドさんは再び不気味に笑った。


「なるほど、なるほど。変わった話だが、まぁ俺にはわからないからそんなに深刻なことじゃない。じゃあ、今日から君の名前はアリスだ! たとえ思い出しても我々からの名前は変わらない!」

「アリス! 紅茶は美味しい?」

「アリス! ケーキは美味しい?」

「遠慮なく食べてくれ。俺たちはゆっくりしているだけ、お茶会も気ままなんだ。必ずしも俺が開いているわけではないからね。それにここに呼ばれたっていうことはdead! ()が近いんだな〜。残念だよ、せっかく初めてのお客さんなのに〜」


 死……!? え、どういうことだ?

 マッドさんはシクシクと泣いた顔を浮かべて、サリーさんとルーカスさんは白いハンカチを頭に被る。


「ど、どういうことですか!? 僕が死ぬって」

「その名前の通りだよ、アリス。君はこれから死ぬ運命にある。俺には見える、君が何も知らないまま無様に死んでいく姿がね」

「可哀想に、アリス」

「可哀想だよ、アリス」

「だからねー! 俺から些細なプレゼントを贈ろう。マッドからの最高なプレゼントだ」


 マッドさんは席から立って僕のほうへ近づく。

 ゆっくりとした足取りでクルッと回って差し出してきた手のひらには、ひび割れた懐中時計があった。

 時計の針は金色、周りとチェーンは銀色の使い古されたものに見える。


「これは?」

「ただの懐中時計さ。大丈夫、時間はズレてない。多少、見えにくいのが欠点なんだがきっと役に立つ。あと、チェシャによろしく。あれはあれで気まぐれでね、お茶会に顔を出さない小悪魔な猫さ」

「小悪魔だけど可愛い!」

「悪戯っ子だけど可愛い!」

「でも、生意気! ガハハハ!」


 よくわからない人たちだけどなんだか安心してしまう。

 不安だった僕の心に少しだけ頼れる人ができた。

 それが、たとえ夢の中だろうと。


「その、チェシャ? さんというのは猫なんですか?」

「猫だな。猫ではあるが、猫そのものじゃない。雲を掴もうとしているようなものだ、突然現れて突然消える。君の元いる世界に行けるのはチェシャぐらいだからな」

「そうそう! あいつは私のお気に入りの人参をこっそり奪って食べたんだ!」

「オイラも大切にしてたミルククッキー全部食べられて空になった箱だけ返したんだ!」

「俺もあいつに何度帽子を盗まれたことか」


 要するに気まぐれで悪戯っ子な猫さんと。

 世界に行けるってことは、もしかすると僕のいる屋敷のどこかに潜んでいそうということか。

 探すのに苦労しそうだ、他の特徴を聞きたい。


「他に特徴とかはありますか?」

「強いて言えば、よく()()()()()()()()()()なりすます。普通なら綺麗な音色なのに微妙に違う音のオルゴールとか、時計とかに」

「あとは魚は!?」

「あとはケーキは!?」

「チェシャは魚が好きじゃないし、ケーキはブルーベリーレアチーズが好物だが季節柄手に入らない。……確かな、チェシャの変装を見破る際にはこう言わないとなんだ。『チェシャ猫は今日も悪戯っ子』って」


『チェシャ猫は今日も悪戯っ子』。

 何かの合言葉か何かなんだろう。

 他の特徴としては、音の外れているものになりすます。綺麗な音色よりも微妙に違う音。

 ブルーベリーレアチーズケーキが好物。

 ────本当に猫なのか?


「さて、そろそろお開きにしよう。アリス、くれぐれも屋敷の使用人なんかに私たちの話をしないでおくれよ? 夜中にお茶会なんて良い子は怒られちゃう」

「私たち!」

「オイラたち!」

「悪い子だからさ! ガハハハ!」

「わかりました。秘密にしておきます」

「あっ! それとだな、アリス……『フィリア』の部屋を訪ねるといい。使用人でも入れない部屋の一つだ。もしかしたら、何か思い出すかもしれない」


 ひび割れた懐中時計をスカートのポケットにしまい、三人に笑顔で手を振る。

 夢の中だというのにとても陽気で楽しいお茶会だった。

 そのまま重たい瞼に負けて意識を閉じた。

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