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霊童〜Lost of memory looking for end〜  作者: 秋桜
第二章『書斎の悪夢と奪われた希望』
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書斎の謎 I

 

 自室に戻って来るとベッドに腰掛ける。

『grim』という人物が書いた本とフィリアが残した手紙の行方がもし、繋がっているのなら。

 強引に点と点を結んでしまうのはいけない。

 確かな証拠と事実を見つけてそれを理解する。

 まずはこの本を読まないことには始まらない。

 そんな気がして僕は右手で本を支えて左手でページを開く。


「白紙?」


 始めのページには何も書いておらず色褪せた紙の変色がよくわかる。

 1ページ、2ページ……と捲れど捲れど文字一つ見つからず、裏表紙にたどり着いてしまう。

 何も書いていない本。日記か何かの類か?

 でも、カリプは言った。この本のタイトルを。


「『あなたが読むべき物語』……全く書かれていない本だけども」


 もう一度、表紙を捲って最初の1ページ目を見る。

 すると何も書いていなかった色褪せた紙の上にくっきりと濃い黒の文字が浮かび上がってきた。

 ────『ようこそ』と。

 恐る恐る、ページを捲ると1ページ目と同様に文字が浮かび上がる。


『初めまして、我が夢の友よ。機嫌はいかがかな?』

「機嫌、か。まぁまぁ、かな」

『どこか具合でも悪いのかな? それとも、何か嫌な夢でも見たのかい?』

「嫌な夢は見てない。おかしな夢だけど」

『どんな夢を見たんだい?』

「同じ服装で同じ背丈の女の子が僕と会話をしていて何も思い出せないのにそれは嘘だよ……って、誰と会話してんだか」


 ここは自分の泊まる部屋。

 チェシャ猫は食堂でカリプは玄関前で会った、リュークさんは今休んでいる。

 その他に誰もいないため、僕はこの本と会話していることになる。

 なんとも奇妙なものだけれどよくある食後の眠気と同じでなんだか話をしているようなもの。

 けれど、不思議と本のページを捲ってしまう。


『ねぇ、こっちで話をしないかい?』

()()()?」

『────私の書斎で』


 刹那、本のページが勢いよく左から右へと捲られる。

 勿論、部屋の中の窓は開いていないし扉も閉め切っているため風が強く吹くことはない。

 だがしかし今現在起こっている現象は上手く説明できるほど語彙力は足りていない。

 思考錯誤を頭の中で繰り返すが、やがて眩い光中へと吸い込まれた。


 ♢


 ────るんるんるん、るんるん


 どこからか聴こえてくる鼻歌。

 機嫌でも良いのか、音程がより高くなったりと若干の外れたメロディ。

 薄らと差し込んでくる陽の光、どこか白く暖かな温もりは一切なくただ冷たく感じる。

 左手は何か重たい物に挟まっていて動かしにくい。

 そのためなんとか動かせる右手で周りの状態を少しでも把握しようと動かす。

 上下に何もない、左右には硬い……否、これは()だ。

 首や足を一気に動かせば簡単に起き上がることはできる。

 だが、左右に本があって左手にも同じ重量の本が挟まっているのなら今背中越しに感じているのも本ならば僕は仰向けの状態で本の下敷きになっていることになる。

 どこか知らない場所故か声を出せても近くに話の通じる人間がいるとは限らない。

 ましてや本の下敷きならば余計に自力で脱出しなければならない。


「不安だけど、このまま下敷きで過ごすのは嫌だな」


 膝を左から右へと順に曲げて左手を身体の中心へ。

 ゆっくりと身体を丸めて静かに背中から起き上がる。

 思った以上に重量はそれほどないのが幸いしたのか、あまり物音を立てずに済んだ。

 左手も挟まっていた時の痛みは多少残るがそんなには支障もなさそう。


「ここはどこ?」


 自室で読んでいた本の中へ引きずり込まれた。

 不可思議、非現実的に考えると納得してしまう現象。

 目の前に転がる本の山に埋もれていた僕が今現在いる場所は恐らく、書斎。

 天井には明かりがなく真っ黒な暗闇、真っ直ぐに見える花柄のカーテンとその下の白いレースカーテンから差し込む陽の光。

 その陽の光には暖かさは一切なく、ただ冷たく部屋を照らしている唯一の明かりのように見える。

 左右の景色は僕の身長より高い木材の本棚が広がっていて、天井同様に本棚より先は真っ暗闇で何も見えない。

 背後も同じく本棚で分厚い本が並んでいる。

 地面、もとい床は真っ赤なカーペットが広がっていて触れる指先からは冷たさをよく感じる。


「どうにかして部屋に戻る方法を考えないと……ん?」


 ────どこからか視線を感じる。

 フィリアの時とはまた違った視線。

 殺意の篭っていた眼差しとは違う。

 恐怖で体が震えたあの時とはまた異なる感覚が身体に走る。

 見ている、ただ僕を見て様子を伺っているような気がして不用意に言葉が口から出ない。

 こちらが起き上がるのを待っている時から見ていたのなら観察や警戒、音がして近づいてきたのなら────。


「誰かいるの?」


 右手に本を持って背後に隠す。

 当たりどころにもよるけど一瞬の気は晒せるか?

 足はすぐに走れるように片膝を立てておく。

 さぁ、出てこい。出てこないなら、こちらから────!


「あ、あのっ! け、決して、あ、あやややしいものでばなぐで! ほ、ほら、右手には何も持ってません!」


 カーテンの右にある本棚の影から白い手が顔を出す。

 上下に動かして敵意がないことを示しているのだろうが、何故右手だけ?


「姿を見せてくれるかな? 右手だけで安心できるほど、僕も馬鹿じゃない」

「そ、そうですよね、い、いみゃ、顔をだじます!」


 妙に滑舌が悪いし、歯切れも悪い。

 声だけだと女の子っぽい。


「ど、どうですか────」


 ひょこっと本棚から現れたのは小さな女の子。

 白いパーカー付きのロープと青を基調としたワンピース、真っ白な素足で汚れ一つない姿。

 茶髪を肩まで伸ばしたストレートで若干、癖っ毛が目立ってしまっている。


「────ぇ、()()()()()がどうして?」


 ────ゴトッ


 右手に持っていた本が勢いよく床に落ちた。

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