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霊童〜Lost of memory looking for end〜  作者: 秋桜
第一章『イカれたお茶会と死体愛好家』
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手袋に隠したモノ

 

 ────ねぇ、フィリアはどうしたいの?


「私はまだ、はっきりわからない。あの人がなんで私なんかを選んだのかも……やっぱり私、断ったほうがいい?」


 ────フィリアが後悔しないなら。でも……。


「でも?」


 ────いつまでも手袋の中に隠してるのは相手にも、私にも失礼じゃない?


「だ、だって、あんまり似合わない、から」


 ────じゃあ、次に会うとき身につけてなかったら強引にでも付けてあげる。きっと似合うから。


「────うん。次、会うときね」


 ♢


「フィリア! 聞いて欲しい、というか僕自身もあまり知らないけどもう終わったんだよ! 大切な人を殺してまで、フィリアは何を望むの!?」


 必死になって張れるだけの声を出す。

 大切だと思っていた男性までも殺して、それ以上に何を望むのか。

 フィリアのことをあまり知らない、知るわけない。

 記憶を失って初めて知った出来事で記憶を取り戻せるんじゃないかって、そう思ったから今叫んでる。


「だから、フィリア。お願い、もう────」

『────聞き飽きた。上っ面だけの言葉に流されてしまうほど未熟じゃない』

「フィリア?」


 突如、ソファー立ち上がるフィリア。

 先ほどまでの雰囲気から一転して場の空気が凍る。

 ミシッ、ミシッと何かが破れる音が静かな部屋に鳴り響く。

 この音はなんなのか、数秒後に答えは現れた。


『私、には、何も、ない。幸せ、に、なる、コト、サえ』


 フィリアの服が裂けて手足が生えてきた。

 肩から胴体、足に至るまでに青白い腕や足が蠢いて見えなかった顔の右半分は目玉がくり抜かれている。

 残りの左半分は皮膚を移植した縫い目がしてあり、肌の色が異なる。

 口元は赤黒く白い歯から垂れる真っ黒く染まった血液。

 首がぎこちなく時折、左右に揺れては固定しない。

 これがチェシャ猫の言っていた『怪異』。

 想像していた何倍も悍ましく、呼吸をするのがここまで息苦しいと感じたのは初めてだ。


『羨ましィ、羨ましィッ!! どうして、ドウシテ!? アナタは私のモッてないものばかり!! ()()()()ッ!!』

「持ってないものを欲しがる気持ちはよーくわかる。だがな、どんなに羨ましくてもどんなに嫉妬を燃やしても追いつけないものが一つある! それは、努力の差だ。努力してただひたすらに寝る時間も、他のことすら疎かにしてまでも夢中になれる真っ直ぐな努力の差だ。フィリアさん、とにかく落ち着こう。なぁ?」

『ウワァァァァァァ─────ッ!!!!』


 奇声を上げて周囲の物へと八つ当たりし始めるフィリア。

 その様子は自分でも抑えられない感情に抑えられているようで、泣いているようにも見える。

 リュークさんの言葉を聞いて心に響いているのかもしれない。


『オマえに何ガッ、何ガワカル!?』

「わからない。全然わからない。人の気持ちを理解できるほどの知識や頭の回転、人を惹きつけるカリスマ性もない。だから自分に何ができるか、何か一つでもって新聞記者になった。そんな風に自分の気持ちを訴えることが簡単にはできない、俺はフィリアさんが羨ましいよ」

『ふざけるなァァァァァァァァ─────ッ!!』

「アリス嬢はどうなんだ?」

「僕は、僕にもわからないです。記憶を失ってなんでこんな身体なのかもよく理解してないし、フィリアのこともよく知らない。でも、苦しくて泣いてるのはわかる。僕も、わかってるつもりだから」


 リュークさんの写真を見た時、感じた気持ち。

 会いたくてしょうがない、苦しくて泣いてる。

 心からの気持ちが今やっと理解できた。


「フィリア、お願い。教えて、どうして苦しくて泣いてるのか」

『わかる、わけない。だって、だって……!』


 頭を抱えて後退るフィリアに僕は近づいていく。

 途中、止めようとしたリュークさんに「大丈夫」だと伝えて少しずつ歩み寄る。

 無数に身体から伸びた腕や足の中から黒い手袋をした右手を捕まえる。

 ゆっくりと手袋を外していき、露わになったのはブレスレットの形をした白いネックレス。

 どう外したらと迷わなくとも身体が勝手に外してしまう。

 フィリアの首元から下げるようにネックレスを付ける。


「似合ってるよ、フィリア」

「……ありが、とう……」


 スゥーっと景色に溶け込むように消えていく。

『標本』でも、何もない人間でもない。

 僕が最後に見た彼女の顔は年相応の女の子の笑顔だった。


 ♢


「うーむ! 良き良き終わりだ! 素晴らしいよ、アリス」

「ありがとうございます。今ここにいるってことは、たぶん」

「そうだね、現実で気を失ったんじゃないか?」


 なんとなくそう感じ取ってしまう。

 お茶会は僕が寝ている時に参加することができる。

 それに今回はマッドさん一人しかいない。

 ……あの時、フィリアはネックレスを付けて消えていった。

 ────もし、指輪を渡していたらどうなっていたか。

 それはまた違う結末を迎えていたかもしれない。


「だが、一つ忠告をしておこう。()()()()()()()()()()()。延期したと言ってもいい、まだ死はそこにある」

「回避、してない? どういうことですか!?」

「詳細は不明だ。あんまり難しいのは嫌いなんだ、そこで俺から助言を兼ねて伝えておかないといけない」

「助言?」

「───アリス。君は女の子だ。自分が関係のない人間だと勘違いしている」


 関係のない人間じゃない?

 じゃあ、今ここで喋っている僕は何物なんだ?


「いずれにせよ、わかる時は来る。それと、本と言えば『書斎』だが……もしかしたら何かわかるかもよ」

「そこにはフィリアみたいに『怪異』がいるんですか?」

「断言はできない。ただ望んで得る答えと自らが探して得た答えでは明確な違いがある。どうするかは自分で決めてごらん?」

「……わかりました」

「ふむふむ、素直だ。さて、辛いことがあった時にはいいものを与えないといけない」


 椅子からマッドさんが立ち上がる。

 ステップを踏むように陽気でこちらに近づくと、


「おやすみ、アリス」


 つま弾きのような音とともに僕は意識を失った。

第一章簡易ファイル


フィリアが隠したモノとは?

────ブレスレット型のネックレス。


何故指輪ではなくネックレス?

────失くした記憶に関係がある。


────To the next chapter.

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