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プロローグ

俺は今、15年の人生の中で最も集中しながら歩いていると思う。

素早く慎重に最低限の動きで足を進める。

焦りは禁物だ。

少しの振動でいつゲームオーバーになるか分からない。

そう、俺こと吉川龍斗は今、猛烈に尿意を我慢しながら帰宅しているのだ。


「くそっ、なんであの時トイレに行かなかったんだ。恨むぞさっきまでの俺」


あれは少し前の出来事である。

帰宅部である俺はホームルーム終了のチャイムと同時に教室を出た。

今日は帰ったら昨日録画しておいたアニメを見よう。


なんて考えていたら後ろから声をかけられた。


「あれ?龍斗くん今日も1人で帰るの?」


振り返ると、艶のある黒髪に神様が丹精込めて作ったのかと錯覚するような顔立ちの美少女が、光すらも閉じ込めそうな漆黒の瞳でこちらを見つめていた。


「か、神崎さん!?」

「良かったら私と一緒に帰ろ?」


どうして学校一の美少女の神崎さんが俺なんかと?

モテ期にしてはちょっと唐突過ぎないか?

いやいや落ち着け俺。

ただ一緒に帰ろうって誘われただけだ。

ここはスマートに。


「い、いいけど神崎さんて電車通学だっけ?」


格好よく返事するつもりが声が上ずってしまった。

死ぬほど恥ずかしい!

「やった~!うん、今日は電車なんだ。それじゃいこっか!」

神崎さんは俺の恥態など気にした様子もなく喜んでいた。


それから駅までは終始無言の時間が続いた。

駅に着いてからもちょうど電車が来たので待ち時間もなく、話すきっかけが掴めない!

神崎さんはさっきからずっとニコニコしてこっちを見てる。

気まずい!

こういう時は男の俺から話を振らないと!


「龍斗くんはさ~、今なんでも願いが叶うならなんてお願いする?」


しまった!女子の神崎さんに気を使わせてしまった!

しかもけっこう汎用性高いやつだ!話広がるやつだこれ!ありがとう神崎さん!


でも急に願いが叶うとしたらって言われても難しいな。

強いて言えば昨日録画したアニメみたいに異世界に行ってみたいとか?

でもオタクだとか思われたら恥ずかしいな。


ここは無難な回答を!

「ん~やっぱ億万長者かな」


「ふ~ん、そっか」

俺の馬鹿!せっかく神崎さんが話を振ってくれたのに広げづらい回答をしてしまった!

神崎さん困ってるじゃん!


「神崎さんは?何か願い事とかあるの?」

「私?私はそういうの無いかな~」


そして再び無言の時間。


さっきよりも空気が重く感じる。

くそ!神崎さんの考えが分からない!

そもそもなんでいきなり一緒に帰ろうなんて誘ってくれたんだ?

こんなにも誰かの心の中が読めればと思ったのは初めてかもしれない。


「あ、龍斗くん。駅着いたよ?」

「え?うん」


うだうだと考えている間に電車が駅についてしまったみたいだ。


「神崎さんもこの駅なんだ。知らなかったよ」

「いつもは車で送り迎えしてもらってるから知らなくても仕方ないよ」

「そうなんだ。それじゃ俺は東口だから」


美少女と一緒に下校という最高のシチュエーションよりもこの重い空気から一刻も早く逃げ出したいと気持ちが勝り、そそくさと改札に向かう。


「私も東口だよ?」

どうやらこの地獄はまだ続くらしい。


それからも会話が浮かばずにただただ一緒に歩くだけの時間がすぎる。

おかしいな、普段女子といる時はこんなに緊張しないし、むしろ話は弾む方なんだけどな。

そうだ、普段通りに話せば何も問題無いはず!頑張れ俺!


「それじゃあ私ここ右だから!またね龍斗くん!」

「あ、うん。それじゃあ気を付けてね」


全然話せなかった。

結局どうして一緒に帰ろうなんて言ってくれたのかも聞けなかったし。

意外と近所に住んでたんだななんて思いながら神崎さんが曲がっていった角をしばらく見つめていた。


こうして美少女と仲良くなれたかもしれない絶好の機会を逃した俺は、緊張で気が付かなかった尿意に急かされるように急いで家に向かっていると言う訳だ。


残念な事に駅から家まではコンビニやスーパーもないので家まで我慢するしかない。

思えば駅のトイレを使うべきだったけど、駅から家まではそんなに遠くないし何より神崎さんを待たせる事になってしまう。

なんて要らぬ気遣いをしてしまったばっかりにこんな事に。


これが男友達ならなんの気兼ねもなくトイレに行けたんだけど…いや、今はなるべく揺れを抑えながら1秒でも早く家に到着する事に集中だ。



「やっと着いた」

一心不乱に歩きようやく家にたどり着いた。

危なかったけどなんとか、この年で漏らすなんて恥ずかしい体験をしなくてすんだ。


玄関を勢いよく開け靴を脱ぎすてる。

ここまで来れば多少乱暴な動きをしても問題ない。

急いでトイレに駆けより、ようやくたどり着いた安心感に身を任せドアを思いっきり開けて閉める!


後になって考えたらこの時どうしてドアを閉めてしまったのかという後悔しかない。

でも閉めてしまったものはしょうがない。


さぁいざ解放の時!と便器の方を向いた俺は固まってしまった。

なんと本来便器があるはずの場所には茂みが広がっていた。


「へ?家のトイレっていつの間に外にできたんだ?」


ついつい思考放棄して訳の分からない事を口走る。

あまりの意味不明な状況にさっきまでの尿意はどこかに吹っ飛んでしまった。

いやいやいやいや、落ち着け俺、ここは深呼吸してクールダウンだ。


「すーはーっすーはーっ、わぁ〜マイナスイオンたっぷり〜」


ってちがーう!は?え?

そうだ!さっき入ってきたドアは!?

今さらになってドアの方を振り向いた俺だったが、そこにあるはずのドアは無かった。


辺りを見渡してみるとそこは森の中だった。


「一体どこなんだよここは…」

ここまでお読み頂きありがとうございます。


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