第2話 出会い
気付いたら森の中に中にいた。翔太は、未だに異世界に来たことをまだ実感していない。どこか神秘的な雰囲気ながらも、人の気配もなく段々と焦りだす。もしかして、このまま野垂れ死ぬのか。
「おーい、誰か、誰かいないのか。いたら返事してくれ」
大声で叫ぶも、返事一つ無い。聞こえるのは風に揺れる木の葉の音だけ。
しばらく進むと、小屋を見つけた。もう夕暮れ時。兎に角、寝床を見つけただけでも大収穫だ。早速小屋の中に入る。もし誰かいたら泊まらせてもらおう。
「おじゃましまーす」
返事がない、どうやら誰もいないが、中は思ったより綺麗だ。翔太は誰かいると確信し、中にいたら強盗と怪しまれるので、外にある切り株に座り小屋の主の帰りを待つ。これまでの疲れが一気に来たのか、眠くなっていき、ついうたた寝してしまった。
「・・-い、だい・・ぶか、」
あれ、僕は寝てしまったのか。女性の声がする。ゆっくりと瞼を開ける。
「大丈夫か、どこか具合でも悪いのか」
そこには、金髪碧眼の美少女がいた。耳は普通の人間より長く尖っている。これはもしやと思い、聞いてみる。
「あなたはもしかして、エルフという種族ですか」
「ええ、そうよ」
ようやく異世界に来たと感じることができた。
「あなたは、何者? 何しにここに来たのですか」
「僕は、山根翔太です。」
「ジル・アレクシアといいます」
意外にも人間に友好的なエルフだ。この世界は種族に対しての差別はないみたいだ。いや、友好的なのはこのエルフだけかもしれない。とりあえず、ここは何処なのか聞いてみることにしよう。
「すみませんが、ここは何処ですか? 僕は旅をしていて道に迷ってしまいまして」
とりあえず、旅人と名乗っておくことにした。
「旅人なのに変な格好をしているのね、それとここはエルフの里よ。」
「・・・あ」
いままで意識してなかったが、服装は学校の制服のままだ。そりゃそうだ。ここは異世界、僕がいた世界の服装では、怪しまれるのも当然かもしれない。あと、エルフの里と聞き胸が高なった。暇があれば観光してみたいものだ。
「この服装の方が動きやすいからなあ」
服装に関しての答えは半分本当で、もう半分は咄嗟にでた言い訳。
「あなたが訳アリなことは分かった。どこか行く宛があるのか?」
「すまない、できれば宿を案内してほしい」
「そのぐらい大丈夫よ。付いてきて」
「君は人間に対して不信感を抱かないのか?」
「この辺りは、よく人間が迷いこむの。魔物に襲われた人間を助けたことだって何度でもあるわ」
やはり魔物がいるのか。魔物と出会わなかったことは幸運なことだったのかとしみじみ思う。武器はあるが、上手く扱い魔物を倒せるのかと心配になってくる。
5分ほど歩いたら店が沢山ある商業街に入った。夜だが人はそれなりに歩いている。酒場は盛り上がり、笑い声がここまで聞こえてくる。どうやら人と変わらない暮らしをしているが、翔太の目はキラキラしておりまるで珍しいものを見たかのような目をしていた。
「エルフはそんなに珍しい種族ではないのに、すごい目をしているね」
「僕がいた国では、架空の存在として語られるんだ。僕からしたらすごい景色だよ」
「ここが宿屋だよ。ところで滞在期間はどれぐらいなんだ?」
「期間か、とりあえずこのあたりの魔物を簡単に倒せるようになるまでかな。僕はまだ修行の身なので鍛えないといけないんだ。」
この里を出ると恐らく魔物が沢山いるだろう。慎重にいかないといけないかもしれない。最悪死ぬ可能性もある。それを少しでも減らすために力をつけないと。何か重要なこと忘れてるような。
「あ、金がない」
そう、翔太は金が無いのだ。どうしようと、困惑していたら。
「お金なら、貸してあげるよ」
なんとジルは、お金を貸してくれたのだ。里や宿に案内してくれたこと、お金を貸してくれたこと、そして何より話相手ができたこと。これは些細なことかもしれないが、話相手ができることはこの異世界の中では誰も自分の事は知らない。そのため、話相手がいるのといないとでは精神的に大きな差が出てくる。あなたは僕にとって恩人だ。
「ありがとう、いつか絶対に返すよ」
「いいってことよ、その代わり明日一緒に魔物を仮に行こう」
またまた驚いた。一緒に狩りに行ってくれるのかこの人。人っていうかエルフだけど。もうジルは間違いなく僕の恩人だ。心の中で感動の涙を流す。
「はい、500エイナ。これで泊まれるから」
エイナがこの世界の通貨の単位か。不思議な紋章が描いてある。
「何やら何までありがとうございます。この恩は忘れません」
「もう、大袈裟だなあ山根君って」
「翔太で大丈夫ですよ。それが名前なので」
「あ、ごめんね、てっきり 山根 が名前だと思ってたよ。通りで何か変な名前だなあと思ったよ」
「では明日よろしくお願いしますね」
「私こそよろしくね。それじゃおやすみなさい」
そういうと彼女は、走って小屋に帰ったのだ。明日は魔物を狩って力をつけよう。今は無理かもしれないがいずれ、ジルを守れるようになりたい。そう思い宿に入る。
「一泊お願いします」
そう言いながら500エイナを払った。
「いらっしゃーい、お、今日は珍しく人間さんが泊まりに来たよ」
ジル以外にも、友好的なエルフだ。この世界のエルフは、人間に友好的だなと改めて感じた。物語的に多くは、エルフは人間と積極的に関わらないように生きてるというストーリーが一般的だ。そういえば、街を歩いた時には、変な目で見られるようなことはなかった。しいて言えば服装を見る人が多かった。
「意外とエルフは人間に警戒心はないんですね」
「昔は、奴隷として攫っていく人間は多かったよ。しかし、ヴェルナッドという人間のおかげでその数は0になったんだ。今もその人の意思をつないだ人が沢山いるんだ」
「すごいですね、そのヴェルナッドという人。何者なんですか?」
「詳しくは知らない、結構昔の人だからね。はい、君の部屋の鍵だよ」
一瞬、謎の空間にいた黒い靄の人はその人なのではないのかと思ったが、大昔の人間なら生きてるわけないと思い、この考えは違った。鍵を受け取り、部屋に行く。
ベッドに横たわった瞬間急に眠くなった。先ほど切り株でうたた寝したはずなのにと思ったが、何せ慣れないことだらけで、肉体的には疲れが無いわけではないが精神面での疲れが大きい。明日はジルと一緒に狩りをするのかと思いながら瞼を閉じた。
「なにやら、不思議な力を感じるのう」
謎の老婆はつぶやいた。